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新しい扉は突然開く

マダムが指定した通路の奥で壁に寄りかかりながら数分待った。

ドレスの絹連れの音が通路に響き、小走りで近づくご令嬢が視界に入る。

胸の前で手を握り今にも泣き出しそうな顔で近づいて来た。


「レディ・・・ご足労いただき感謝します。どうかご無礼をお許しください」


「まあ!なんてことを!私・・・感激しておりますのよ・・・お近くでお顔を拝見できて、お話しまでできるなんて・・・」


「ああ、可愛いレディ・・・美しい人。もっと顔を見せてください」


ティナはご令嬢の頬に優しく手を添えて顔を近づけた。


「っっっつ!ロア様・・・心臓が・・・もちませんわ・・・」


「許可も無く触れてしまったことをお詫びします。でも・・・そうさせてしまうレディの罪なのですよ?本当に愛らしい・・・この目も鼻も・・・食べてしまいたくなるような唇も・・・まるでバラの妖精のようだ」


「ああ・・・ロア様!」


ご令嬢がティナの胸にしなだれかかった。

ティナがそっとご令嬢の腰を引き寄せ抱きしめる。


(これ以上密着するとさすがにおっぱいがあるのバレるよね・・・)


腰の辺りは密着させつつ胸は離し気味の態勢をとる。

しかしご令嬢は頭をぐいぐいとティナの胸に押し付けてきた。


(あれ?バレない?むむむ・・・晒で押さえているとはいえ複雑な気分・・・)


悪戯心が爆発したティナはさらに仕掛けた。

ご令嬢の後頭部にそっと手を添え髪を優しく撫でおろす。


「可愛い人・・・お話しをしても?」


「はい。何なりと・・・」


ご令嬢が潤んだ瞳でティナの顔を見上げた。


「私は明日旅立ちます。今夜が最後のステージです。他のお客様には何も言わずに終わるつもりです・・・しかし・・・あなたには・・・あなただけにはどうしても直接お別れを言いたかった」


ご令嬢がハッと息を呑み目を見開いた。


「最後?今・・・最後と仰いましたの?」


「ええ、今夜が最後です」


「なぜ?なぜ旅に?お給料の問題かしら?それなら私がなんとでも・・・」


「いいえ、そうではありません。こちらのマダムは破格に良い報酬を下さっていました。何の問題も無かったですよ」


「ではなぜですの?私・・・私・・・嫌ですわ!」


「ああ、レディ・・・泣かないで・・・どうか笑って下さい。あなたの笑顔を旅の糧にしたいのです」


「嫌よ・・・行かないで・・・お願い・・・ロア様・・・」


「レディ・・・何処に行ってもあなたのことを想いましょう。どの空の下でもあなたの心の安寧を祈りましょう」


「私は・・・ロア様のいない日々など・・・ああ!ロア様!やはり嫌ですわ!お別れなどと・・・」


「レディ・・・」


「レイラと・・・レイラとお呼びくださいませ」


「レイラ・・・美しいレイラ・・・私のことは忘れてください。その代わり私はあなたのことを絶対に忘れません。そして心穏やかな日々があなたに続きますように・・・」


「無理な事おっしゃらないで!ロア様がいないのに・・・それに忘れられるわけないではありませんか。こんなにもお慕いしておりますのに・・・」


ティナは思い切りご令嬢を抱きしめた。

数秒の間身動ぎもせず抱き合ったあとティナは囁くように言った。


「レイラ・・・これは絶対に秘密ですよ・・・」


ご令嬢の顎をそっと引上げ優しく口づけた。


(凄い!柔らかい!甘い!男の人とは全然違う!)


昨夜のハーベストの熱く荒々しい愛撫を思い出しティナの心臓が跳ねあがった。

うっとりするご令嬢の後頭部を手で支え、さらに深い口づけをした。

震えながらそれに応えるご令嬢にティナは少なからず感動していた。


(ヤバイ!新しい扉を開けちゃった?)


ゆっくりと唇を離し、もう一度強く抱きしめてから体を離した。


「秘密は守れる?」


「はい・・・ロア様」


「良い子だ。愛してるよ」


「私も・・・お慕いしております」


「うん。でもね、忘れるんだ。いいね?」


「無理ですわ・・・そんな」


「忘れると誓うならもう一度口づけてあげよう」


「・・・わ・・・忘れ・・・ま・・・す・・・わ・・・」


「レイラ・・・」


もう一度ご令嬢を抱き寄せ短いキスをした。


「さあ、もう行くんだ。お幸せに・・・レイラ」


「ロア様・・・」


仕草で席に戻るよう促し、ティナはゆっくりと去っていくその背中を見ていた。

何度か振返りつつも歩みを止めることなくご令嬢は席に戻って行った。

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