見張られている?
「ティナ?本当に手伝わなくて良いの?」
騎士たちの昼食も終わり、ビスタが店の仕込みの手伝いに行って、少しゆっくりできる時間のロービーにはティナとハーベスト、テラとキリウスがお茶を楽しんでいた。
「本当に結構ですから・・・もうその話はお止め下さい!」
顔を真っ赤にして抗議するティナをキリウスとテラが笑いながらなだめている。
「まあまあ、レディティナ・・・殿下もお止め下さい。本当に怒らせちゃいますよ?」
「そうですよハーベスト殿下。ロアさんのお仕事に差しさわりがあるほどの跡をつけるなんてどれだけ独占欲強いのでしょう」
「ああ、俺は独占欲が強いみたいだな。初めて知ったよ・・・最早これは執着かもしれない。ティナ、逃げられるなんて考えない方が良いよ?」
慰めているのか揶揄っているのかわからないような他愛もない会話が和やかに続く。
ティナは前世で仕事終わりにスタッフたちと過ごした緩い時間を思い出し、懐かしさに切なくなった。
ガチャッと扉が開き騎士が手紙を持って来た。
ティナに渡し美しい騎士の礼で下がって行った。
手紙はマダムラッテからだった。
「マダムが今日は早めに来てほしいとの事です。昨夜の事について相談したいと書いてあります」
「ハーベスト様との一夜が既に知れ渡っているのですか?」
テラが揶揄うようにお道化てみせた。
「ば・・・バカなこと言わないで!あの男が来たことに決まってるでしょう!」
ティナが必死に言う。
「なんだか・・・ティナって可愛いですねぇ~。改めて殿下に殺意を感じます」
キリウスが肩を竦めながら笑った。
ハーベストが片眉をあげてキリウスを睨む。
「キリウス・・・そろそろ決着つけるか?」
「望むところです」
「良し!表へ出ろ!」
ハーベストとキリウスが上着を投げ捨てて庭へ出た。
訓練用の模擬剣を手にすると真剣な顔で向き合う。
騎士たちは隊長と副隊長の対戦を輪になって見詰めた。
「さあキリウス!確か俺の8勝2敗だったなぁ?少しは腕をあげたかぁ?」
「何をおっしゃいます。殿下の6勝3敗1分ですよ!それに今日は多少の私情も含まれますからね!」
「それは面白い!誰か!審判を頼む」
ひとりの騎士が前に進み出て二人の間に立った。
「始め!」
隊の中でも群を抜いて強い二人の対戦に騎士たちは盛り上がっている。
そんな様子を窓から眺めているティナとテラは乾いた笑いを浮かべていた。
「男って・・・生きるのが楽そうですよね・・・」
「そうね。なんだか楽しそうだわ・・・私は支度をしたらもう行くね?マダムが手紙まで寄越すくらいだから」
「そうですね。私のことは心配ないとお伝えください」
「わかったわ。じゃあお坊ちゃま達のことよろしくね?」
「はい、畏まりましたわお嬢様」
テラが優雅なカーテシーを披露した。
「テラ・・・いいえ、ティナロアお嬢様。素晴らしい淑女の礼だわ」
ティナもカーテシーを返しロビーを後にした。
しっかりと首元をクラバットで隠し、長袖のシャツを着こんで厩に向かう。
鞍を置こうとしたティナの目の端に不信な影が映った。
急いで振り向いたが誰もいない。
(見張られているわね・・・)
騎士たちが滞在している間は問題は起こさないと思っていたが、相手も相当じれているようだ。
(注意をしないと・・・なるべく早く姿を消した方が良さそうだわ)
ティナは何も気づかなかった振りをして馬を駆った。




