キリウスの軽い殺意
乱暴なノックの音で目覚めたハーベストはベッドの上に起き上がった。
「誰だ」
キリウスが無遠慮に扉を開く。
「やっと起きましたか・・・はぁぁ・・・やっぱり・・・」
キリウスがベッドの横を通り抜け窓を開けた。
冷たい空気が部屋になだれ込んできた。
やっと覚醒したハーベストはハッとして確認するようにベッドを見る。
ティナはいなかった。
「殿下・・・もしかして・・・」
「ああ・・・俺の妻にした。もう誰にも渡さない・・・って、どうしたキリウス?顔色が・・・」
「いえ、大丈夫です。ちょっと軽い殺意を抱いただけですのでお気になさらず」
「そうか・・・軽い殺意ねぇ。それほど軽くは無いような気もするが?」
「そうですか?まあ当分の間は私と二人きりになる時は帯剣されることをお勧めしておきましょう。それから王都への出発日ですが・・・」
「ああ、計画通り王都へは向かおう。しかし内容は変更だ。あくまでも親善として行く」
「戦争回避ですか?」
「そうだ。戦争は大嫌いだそうだ」
「誰が・・・って。ティナが?」
「ああ、愛する我が唯一の妻がだ」
「それで戦争回避?」
「そうだ」
「殿下?」
「なんだ?」
「腑抜けました?」
「ああ、完全にやられた」
「・・・ははは!まあ私も戦争は避けたいと思っていましたので・・・それにしても顔つきが変わりましたね・・・なんというかアクが抜けたというか・・・殿下らしくない」
「アクが抜けて俺らしくない?」
「ええ、まるで私たちが王宮の庭で駆けまわって遊んでいた頃のような顔つきだ」
「子供に戻ったというのか?」
「そうですね・・・純粋さを取り戻した?」
「お前・・・結構酷いこと言うなぁ・・・」
「ちょっとした復讐だと思ってください。ティナに想いを寄せていたのは殿下だけでは無いですからね?」
「そうだな・・・というかほぼ全員だろう?」
「殿下・・・以前から思っていたのですが・・・敵を増やす天才ですね」
「お前・・・ティナは?」
「いつものようにロビーで立ち働いていますよ」
「動けるのか・・・」
「えっ!そんなに?」
「うん・・・たぶんかなり・・・というか・・・あそこまで我を忘れた事は初めてだ」
「もう聞きたくないので先に行きます。早くシャワー浴びて降りてきてくださいね」
「うっ・・・わかった・・・そう妬くな」
「・・・殺したくなるので失礼します」
ひらひらと手を振って部屋を出るキリウスの背中を見送りながらハーベストはベッドの上で大きく伸びをした。
「ティナ・・・」
王宮にいるときは毎晩のように誰かを抱いて眠っていたハーベストが初めて恋に落ちた事を認めた朝。
「ティナ・・・愛している・・・」
もう強くなった日差しがハーベストの髪を輝かせ、冷たい風が揶揄うように火照った体をすり抜けた。
平和そのもののような景色を窓から眺め、ハーベストはふっと笑った。
その顔はなんとも穏やかな美しいものだ。
「腑抜けたか・・・ははは」
乱れたシーツを剥ぎ取り部屋の隅に放り投げると、ハーベストは軽い足取りでシャワールームに向かった。




