伯爵令嬢登場
ビスタが一歩進み出てジャルジュの前に出た。
「お嬢様はおられるよ。ジャルジュ・・・どうして急に来たりしたんだ？仲介屋を通して話はついているはずだろう？」
「お前のいう事なんぞ信じられるわけ無いだろう？それにご令嬢がひとりで守る屋敷にこれだけ見目麗しい男たちが寝起きしているんだ。街の噂になって当然ってものだ」
キリウスの眉がぴくっと動いた。
「お前は・・・私たちがレディティナロアに危害を加えるとでも？我々騎士を侮辱すのか！もう許さない！殿下、切り捨てることをお許しください」
ジャルジュの周りの用心棒が剣に手を添えた。
まさに一触即発という瞬間、凛とした声が響き渡った。
「何事ですか。ビスタ、説明なさい」
質素ながらも貴族令嬢らしいドレスを身にまとったテラが現れた。
ハーベストがテラの姿を見て驚いている。
騎士たちも皆テラの姿に唖然としていた。
「ティナ・・・ロア・・・お嬢様・・・」
騎士の衣装のまま立ち竦んでいたティナが口に出した。
ハーベストがチラッとティナを見てニヤッと笑い少し大きな声で言った。
「これはこれはレディティナ、もうお休みだと思ったのでお知らせせずにいましたが、まだ起きておられたのですね？」
テラがハーベストに向かって美しい礼をしながら言った。
「ハーベスト殿下。お迎えもせずに申し訳ございませんでしたわ。なんだか荒々しい声がしたものですから・・・何事ですの？」
「どうぞレディ・・・お気になさらず。街のチンピラがあなたの美しい姿をひと目見ようとのこのこやってきたので、我々が諫めていたところです」
「まあ、時間を弁えない平民風情のお相手など勿体ないことでございます。ビスタ！お前がお相手するべきなのではなくて？」
「はあ・・・」
ビスタは度肝を抜かれたのか唖然とするばかりだ。
（ビスタ！しっかりしろ！頑張れ！）
ティナは心の中でビスタにエールを送った。
するとキリウスが気を利かせて前に出た。
「レディティナロア、ビスタ殿も頑張っていましたので許してやっていただけませんか？それにこの男の目的はレディティナロアのお姿を確認するだけだそうなので、目的は達成したのです。もう帰ることでしょうから」
「私の？私の何を見たいと？お前は・・・誰だったか？」
ジャルジュが無遠慮な視線で上から下まで舐めるようにテラを見ながら言った。
「へへへ・・・一度だけお目に掛かっているのですがお忘れですかい？ジャルジュですよ。ご令嬢。この屋敷を買ったジャルジュです」
「ああ・・・一度は会ったことがあったのか？私は全く覚えていないが・・・お前は私に覚えがあるのか？」
「ええ、その美しい黒髪と陶器のような白い肌、忘れもしませんよ」
「そうか・・・もう見たなら目的は達したのだろ？皆様にご迷惑だ。約束の期日まで大人しくしていてもらおう」
「そうですな。確かにここにご令嬢がおられることは確認しましたから。今日のところは引き上げるべきでしょうな。しかしあなたは既に私のものだという事はお忘れなく」
「・・・忘れてなどいない！」
ハーベストが二人の間に入った。
「詳しい事情は知らないが騎士たちをこれ以上怒らせる前に引き上げたほうが賢明だろう？」
テラが胸の前で手を握りハーベストに向かって言った。
「殿下・・・本当に申し訳もございませんわ。私・・・私・・・」
「ああ、レディティナ。泣かないでください。これ以上の騒ぎにはなりません。どうぞお部屋でお休みください。ビスタ、レディをお部屋に」
ビスタが慌ててテラに付添ってその場を離れた。
騎士たちがじりじりと用心棒たちににじり寄るとジャルジュ達は慌てて帰って行った。
その後ろ姿にキリウスが声を掛けた。
「ご令嬢は確かに我々が守ってやるから安心しろ！」
