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マダムマリアン

マダムマリアンはよろよろと歩くティナの手を引いて医者に連れて行ってくれた。

何も言わず何も聞かず。

その優しさがティナには何よりも有難かった。

手当が終わり家に送るというマリアンの言葉に激しく首を横に振ったティナを優しく抱きしめ、自分の家に連れて行ってくれた。

大きな家ではなかったがよく手入れをされた庭が印象的なマリアンの屋敷は居心地が良かった。

数日後マリアンの弟という人が来て私に全てを話すように言った。

心が半分壊れていたのだろう、ティナは包み隠さず淡々と事実だけを語った。

話し終えて顔を上げると二人は泣いていた。


「全て私に任せなさい」


そう言ってマリアンの弟は出て行った。

母親が疎ましかった娘を探すわけもなく、ティナはまるでマリアンの孫のように暮らしていた。

学校は転校させてもらった。

数か月して聞いた話ではゼロアと母親はあの少女を伴って実家に戻ったらしい。

ゼロアの父親はひとりで辺境の教会に向かい、ティナの母親はそのまま住み続けているそうだ。

大人の事情などティナには興味も無かったが、あの日のゼロアの言葉と少女がティナに向けた勝ち誇ったような微笑みは何度も思い返して苦しんだ。


「ロアさん?どうしたんですか?」


「あ・・・ああごめんなさい。少し考え事をしてしまったわ」


「顔色が悪いですよ?大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫。私は大丈夫よ!私って強いの。鋼鐵の心を持っているんだから!」


テラは黙って寂しそうに微笑んだ。


「そろそろ夕食の準備かしら。あなたはここにいてね。夜は私は仕事だからここで寝て頂戴ね」


「マダムラッテの店ですね?しっかり稼いできてください!」


「ええ、ありがとう。頑張るわ!」


ティナは急いで男装に着替えると厨房に向かった。

もうバレてしまっているので今さら隠す必要も無く、ティナとしては随分気が楽になっていた。

ロビーで談笑している騎士たちが男装のティナを見つけて声を掛けてきた。


「レディ・・・じゃなかったロアさん。もうお出掛けですか?」


「はい。そろそろ出掛けます。皆さんはゆっくりお寛ぎくださいね?」


ハーベストが声を掛けてきた。


「レディティナ・・・男装のあなたも美しい。今日も馬で行かれるのですか?」


「ええ、私が留守の間あの子のこと・・・従妹のティナを守ってやってくださいませね」


「お任せください。私が出る幕も無く騎士たちがお守りしますよ」


「安心しておりますわ。では行ってまいります」


「送りましょう」


「いえ、お気遣いなく。私は大丈夫です。私は強い女なのです」


久しぶりに前世の事を考えたせいかティナは少し感傷的な言葉を吐いた。

ハーベストが困ったような顔でティナを見送る。


「キリウス・・・ティナは大丈夫だろうか?少し・・・なんというか危ういような気がしたが」


「ええ、いつものティナロア嬢とは少し違いましたね・・・」


「後で行ってみないか?」


「あの店ですか?そうですね・・・行ってみましょう」


食事を済ませた二人は平民のような服装に着替え馬車でこっそりクラブDに向かった。

ハーベストとキリウスがクラブDについた時、ティナは楽屋にいた。

ワンステージ目をいつものようにプレゼントをくれた令嬢の熱い眼差しを受けながらなんとかこなしたティナは自分でも驚くほど疲れていた。


「どうしたの?ロア・・・今日はいつものあなたじゃないわね」


「マダム・・・いえ、大丈夫ですよ。全て計画通りに進んでいます。少し怖気づいているのかもしれないですね・・・私は強いはずなのですが・・・」


「そうね、あなたは強いと思うわ。でも強すぎると折れるわよ?しなやかさも身につけないとね・・・テラのことを気に病んでるの?」


「ああ・・・彼女には本当に申し訳なくて・・・」


「でもテラは喜んでいたわよ?自分の意志で選んだのよ?」


「はい・・・わかってるつもりなのですが、どうも人の弱みに付け込んで自分を守ろうとしているような・・・嫌な気分です」


泣きじゃくるゼロアを優しく抱きとめるあの少女の顔がティナの頭を過る。


「・・・ロアは優しいのね。私だったらそんな風には考えないかもしれないわ」


予想外の言葉にティナはマダムラッテの顔を見た。


「そうね、私だったら彼女が欲しているものを与えるのだからウィンウィンの関係だと考えるでしょうね。何が幸せなのかなんて他人が決められるものでは無いわ。人から見て不幸な状況でも、もっと不幸な人から見れば恵まれているのかも知れないでしょう?」


「なるほど・・自分の幸せは自分で決めるという事ですか・・・仰る通りですね」


「だからあなたは為すべきことをすれば良いのではなくて?」


「・・・今日の私は少しおかしいですね・・・」


ティナは少し涙ぐんで俯いた。

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