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うっかりバレてしまいましたわ

ハーベストたちが警戒態勢を敷いてから数日、街は何事も無く国境の前線にも動きは無かった。

早朝訓練に顔を出したハーベストはティナの出勤を気付かれないように見送っていた。


(ティナの乗馬技術は大したものだな・・・)


そんな事を考えながら訓練を続けていたハーベストたちの元に背中に怪我をした騎士が駆け込んできた。


「襲撃です!市場が襲われました!至急援軍を・・・」


「市場だと!すぐに準備に掛かれ!寝ているものは叩き起こせ!」


ハーベストの声に騎士たちは一斉に動き出した。

すぐに動ける者たち十数名はハーベストを先頭に市場に向かって走り出す。


(ティナ・・・無事でいてくれ・・・)


襲撃場所が市場と聞いた瞬間、心臓が跳ねあがり居てもたっても居られなくなった自分をハーベストは少し恥じつつ馬を駆った。

市場に続く道には逃れて来た住民がへたり込んでいる。

中には傷を負った者も多く、襲撃者が本気度が垣間見られた。


「急げ!」


残っていた兵士を引き連れたキリウスが追いついてきた。

ハーベストはキリウスに戦闘配置の指示を任せ、数名の騎士だけを連れてティナが働いている店に向かった。


「遅かったか・・・」


食堂の前に並べられていたテーブルは倒され、数人の怪我人が動けない状態で横たわっていた。

馬を乗り捨てたハーベストたちが店に入ると、キッチンの奥でまだ小競り合いが続いていた。


「ガッシャーン!!!」


鍋やフライパンが壁に投げつけられ大きな音を立てた。

慌てて駆け寄ると、足に大怪我を負った男とその男を介抱する女を庇うようにティナが立ち塞がっていた。


ティナに剣を向けているのは二人の男だ。

ニヤニヤと野卑な笑顔を浮かべティナに切っ先を向けている。


「だから金を出せば良いんだよ!抵抗するからこんな事になるんだ」


怪我をした男を介抱していた女が大声で怒鳴り返す。


「だから全部渡したじゃないか!それなのに・・・」


「バカにするんじゃねえよ!たった数枚のシルバーしか無いわけがあるまい?この店はここらじゃ一番流行っているのは調査済みだ!良いから早く隠している金の在りかを吐けよ!」


すぐにでも駆けこんで盗賊を切り裂いてやりたいハーベストだったが、ティナの首近くに切っ先が向けられている状態では飛び込む事もできない。


(なんとかこちらに注意を向けさせないと・・・)


ハーベストは部下に命じてわざと客席を蹴って大きな音を立てさせた。

しかし傭兵として訓練されたことのある男たちは動じなかった。

ひとりが油断なく振返りハーベストたちの動きを牽制し、もう一人はティナとの間合いを一歩詰めた。


(拙い!)


ハーベストはティナを見た。

きっと酷く怯えて震えていると思っていたが、ティナは大きく両手を広げ鋭い眼光で男を睨みつけている。

また一歩男がティナに近づいた。

ジリっと半歩ティナが下る。

男がまた一歩ティナとの間合いを詰めた時ティナが声を上げた。


「コノヤロー黙ってりゃいい気になりやがって!ふざけんじゃねーぞ!そんなに銭が欲しけりゃ真っ当に働きやがれ!人が汗水たらして稼いだ金を横取りしやがって!この腐れ外道のふにゃちん野郎が!」


一気に捲し立てると唖然としている男に廻し蹴りを繰り出す。

狙い済ました一撃が男の顎に炸裂した。

男はよろよろと後ずさり、へなへなと座り込んだ。

後を守っていた片割れの男が驚いて振り向いた瞬間、ハーベストたちが踏み込んだ。

騎士が男たちを縄でぐるぐる巻きにして連れて行く。

ハーベストが仁王立ちしているティナに駆け寄った。


「ティナ・・・大丈夫ですか?」


「ああハーベスト様‥‥ってなんでここにいるのですか!私・・・まあ・・・どうしましょう。うっかりバレてしまったわ」


「いや・・・あれほど華麗な廻し蹴りは初めてです」


「いやぁぁぁぁ~!!!」


ティナは真っ赤な顔をしてしゃがんでしまった。

ハーベストはそんなティナを見て吹き出した。

涙目を擦りながら部下に命じて怪我をした店主を医療部隊に連れて行かせた。

女将さんがティナに駆け寄り抱き合って無事を喜んでいる。

泣いて抱き合う二人を見ながらハーベストは呟いた。


「惚れなおしました。ティナ・・・」


キリウスが入ってきて鎮圧した旨と状況の報告をした。

にまにまと笑いながらティナを見つめているハーベストの耳には届いていないと判断したキリウスは報告を切り上げ、ティナに話しかけた。


「レディティナロアにそっくりな美少年さん。お名前を教えていただけますか?」


「レーベン卿・・・虐めないでくださいませ」


キリウスは笑いながら大きく頷いた。


「今日は営業できそうにありませんね。そちらのご婦人を医療部隊にお送りしましょう。ご主人の怪我は命にかかわる事は無いと思いますが、少し深手でしたのでね」


そういうと振り向いて部下を呼び女将を連れて行かせた。

ハーベストがティナに手を差し出した。


「今日は帰りましょう。お気づきで無いかもしれませんがあなたも膝に怪我をしていますよ?」


ティナは自分の怪我に気付いていなかった。

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