ティナが可愛すぎる!
ハーベストは腕を組んで天上を見上げ大きなため息を吐いた。
ティナロアの母親かもしれないリリアン妃はハーベストも何度か会ったことがある。
なんとも言えない魅力のある女性で、パーティでも明るく振舞っていた。
しかしハーベストにとってはエキゾチックな父王の美しい側室という印象しかない。
「あの女性がまるで物のように献上されていたとは・・・」
ふと窓から外を眺めたハーベストは先ほどのビスタの言葉を思い出し頬を染めた。
(ティナが私を慕っているだと?)
自分でも分かるほど顔に集まった熱のやり場に困ったハーベストは手のひらで口を抑えた。
(確かに美しい女性だとは思っていたが・・・ああ・・・なんだか・・・くそっ!自分の感情に気付いてしまったな・・・参った・・・)
ハーベストはティナロアへの感情を認識し戸惑っている自分に焦りを覚えた。
気を落ち着けようと窓の外に目を向けたとき小さくドアをノックする音がした。
「どうぞ」
カチャッと小さく音がしてドアが開く。
室内着のワンピースを纏ったティナロアがティーセットを持って入ってきた。
「ハーベスト様、お疲れ様です。お茶をお持ちしましたわ。本日はミントティーにしてみた
のですが・・・」
「あっ・・・レディティナ・・・あなたの方こそお疲れでしょう。あっ・・・いや・・・その・・・」
挙動不審なハーベストを見てティナロアは小首をかしげて微笑んだ。
(っつ・・・可愛い・・・可愛すぎる・・・)
「どうされました?お加減が悪いのでしょうか。お顔が少し赤いですね・・・お医者様をお呼びしましょう」
「いえ、違います!元気です。とても元気なのです。あなたが・・・その・・・」
「わたくしが?」
「はぁぁぁ・・・」
あまりにも分かりやすいハーベストのリアクションにティナは心の中でガッツポーズした。
(ビスタもリアも流石ね・・・舞台俳優になれるわ)
「ハーベスト様?」
ティナはダメ押しとばかりに上目使いで不安そうな表情を作った。
「ティナ!それは!その可愛さは反則です!」
「反則?・・・おかしなことを仰いますのね?では私は退場しなくてはいけませんわね?」
「いえ、ダメです。ここにいてください!」
ニコっと微笑んでティナはお茶を淹れた。
「どうぞ。ミントティーでございます。あっ・・・レーベン卿はいらっしゃらないのですね?」
「ああ、あいつには少し働いてもらっています。気にすること無いですよ」
「では少し扉を開けておきますわね?ハーベスト様にあらぬ噂がたっては申し訳ございませんもの」
「私よりレディ・・・あなたの心配が先ですよ」
「私など・・・それにどうせもうすぐ・・・」
ティナは俯いて涙ぐんで見せた。
(なんだか泣こうと思えば泣けるようになって来たわ・・・我ながら恐ろしい・・・)
「ティナ・・・どうかレディ、泣かないで下さい。どうせもうすぐ何ですか?もしよければ聞かせていただけませんか?お力になれるかもしれません」
「あっ・・・いいえ、何でもありませんわ。どうぞお気になさらず・・・」
「そうですか・・・」
ハーベストは深追いせずキリウスの報告を待つことにした。
「そう言えばレディティナ。来週辺りもうひと戦あるかもしれません。残党が少し煩い動きを見せていると報告がありました。おそらく荒稼ぎして高跳びするつもりでしょう」
「荒稼ぎと仰いますと?街まで来るという事でしょうか・・・」
「そうさせないための出兵ですよ。ここで叩いておけばそうそう再起はできないでしょう」
「そうですか・・・でも・・・怖いですわね」
「ご心配には及びませんよ。もし急に襲ってきても負けるような事はありません。必ずお守りします」
「ええ、私たちはハーベスト様たちがおいでになりますから心配はしておりません。しかし街の方たちは違います。何も無ければ良いのですが・・・」
「全てを守れるわけではありませんが、市中警備の人数を増やしましょう」
「ありがとうございます・・・」
話に夢中でお茶を飲むことも忘れていたハーベストは、少し温くなったミントティーに口をつけた。
湯気と共に立ちのぼるほどの香りは無かったが、口に含んだ時に鼻腔に抜ける爽やかな風味が心地よい。
「美味しいですね」
「冷めてしまったでしょう?入れ直しましてよ?」
「いえ、十分に美味しいですよ」
二人は暫し見つめ合って微笑みを交わした。




