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計画遂行

「あなたが気が利かないなどと・・・気が利かないのは此奴でしょう」


ハーベストが苦々しい顔でキリウスを睨んだ。

気まずそうな笑顔を浮かべキリウスが肩を竦めてみせる。


「そうですね・・・ここで私が退席すれば臨時ボーナスが貰えそうだ・・・ティナロア嬢。後はお任せしてもよろしいですか?私は他の怪我人の様子を確認したいので」


「はい・・・分かりました・・・あの・・・レーベン卿、ハーベスト様にあらぬ噂が立っては申し訳ございませんので、ドアは開けておいて下さいませね?」


「もちろんです。殿下の噂など気にすることはありませんが、未婚のティナロア嬢が心配ですからね。すぐに護衛の騎士も寄こしましょう」


「キリウス・・・お前・・・覚えておけよ!」


はははと笑いながらキリウスは部屋を出た。

言葉通りドアは開けたままにされたが護衛騎士はなかなか現れなかった。


「そうですね・・・私が軽率でした。レディティナは未婚の美しい令嬢ですから・・・あなたと離れたくないという気持ちが先走ってしまいました。どうか許してください」


そう言いながらもハーベストはティナの手を離さない。


「いいえ、ハーベスト様。私のことなどどうでも良いのです。私には婚約者もおりませんし、デビュタントもさせてもらえませんでしたから・・・求婚のようなお話など来るはずもありません」


「なんと!デビュタントをされていないと?」


「ええ、伯爵令嬢としての作法は学びましたが・・・それも私のためというより姉のためでしたし・・・」


「詳しく伺っても?」


「お恥ずかしい話でお耳汚しですわ。それより・・・傷は痛みますか?お薬をいただいて参りましょうね」


ティナは再び立ち上がろうとしたがハーベストが離さない。


「レディ・・・私に話してください。今までの辛いことも全部。そもそもこの屋敷にあなただけが残っているなんて腑に落ちません!」


「どうか・・・お許しください・・・思い出すだけでも・・・どうか・・・それに私はもうすぐ・・・」


「レディ・・・すみません。また焦ってしまったようです。許してください」


「いいえハーベスト様。私を心配して下さってありがとうございます。生まれて初めてですわ、誰かに心配してもらえるなんて・・・」


ハーベストは上半身を起こしティナに手を伸ばした。

傷口に痛みが走り顔をゆがめる。


「いけませんハーベスト様!どうぞ安静になさって」


ティナはハーベストの体を抱き寄せるようにして寝かせる。

細いティナには支えきれずどさっとハーベストに覆いかぶさるような格好になってしまった。

ハーベストはそのままティナの体を片手で抱きすくめた。


「ハーベスト様・・・困りますわ・・・」


「レディティナ・・・もう少しこのままで・・・こうしていると傷の痛みを感じません」


「ハーベスト様・・・いけない方ですのね・・・」


「ティナ・・・いけないのはあなたの方です。無意識なのでしょうがあなたは私を煽るのがうますぎる」


(いやいや無意識じゃないけどね。っていうかこの時代の王子様ってけっこうちょろい?)


「いけません・・・ハーベスト様・・・どうぞお離しになって・・・私の心臓が壊れてしますわ」


ハーベストが抱きしめる手を緩めた。

その隙にティナはハーベストから逃げる。

部屋を出る時小さく振り向いてわざと赤らめた顔を見せておいた。

見送るハーベストの顔も赤い。

バタバタと音をさせてティナはロビーに向かった。


キリウスの言ったとおり軽症者ばかりだったようで、いつの間にか食事が始まっていた。

包帯を巻いた騎士も笑顔で食べ始めている。

医者は既に帰った後だった。


「ティナロア嬢、ご苦労様でした。我が儘な王子様でしょう?」


「いいえ、動かれると痛そうにされていましたわ。ハーベスト様のお食事はお部屋に運ばせましょう」


「そこまで甘やかさなくても良いと思いますが・・・まあ、これで当分機嫌も良いでしょうから助かりますけどね」


「それとお着替えをお手伝いして差し上げて下さいませんか?私は・・・その・・・」


「ああ、勿論です。誰か向かわせますのでご心配なく。体も清めるようにしますから」


「ありがとうございます。それでは私はお食事を・・・あっ戦況は・・・明日も向かわれるのですか?」


「いいえ、もう大丈夫です。全て片付いて帰る途中の事故なのです」


「それは・・・重畳に存じます。おめでとうございます・・・安心しましたわ」


普段通りのクールな微笑みを浮かべキリウスが騎士にハーベストの食事の準備と着替えなどを指示した。

ティナは優雅にお辞儀をして厨房に向かう。

ビスタもリアもくたくたに疲れた顔をしていた。


「ビスタ、リア、ご苦労様。二人の働きには感謝しかないわ」


「いいえ、お嬢様こそ。流石でございます」


「ふふふ・・・ありがとう。もう出兵は無いそうよ。さあ、私たちも食事にしましょう」


騎士たちに出した残りの料理を並べ、ワインを一杯ずつ注いだ。


「明日からは日常に戻る予定だから、またよろしくね」


「畏まりましたお嬢様」


二人は楽しそうな顔で頷いた。


「それとね。もうしばらくすると私が居ない時にハーベスト様かレーベン卿が私について探りを入れてくるはずよ」


「例の件ですね?お嬢様がどんなに虐げられたかというお話しは嘘を吐くまでもなく山ほどございますから」


「ははは・・・少々大げさに話していいわ。それと屋敷が売られる件は勿体つけて言いにくそうに話してちょうだい」


「わかりました」


「私も一緒に売られるという話はまだ言わないで。でも絶対に言えないけど、それだけじゃないっていうのを匂わせるのを忘れないでね」


「お任せください!」


三人はものすごく悪い顔をして二杯目のワインで乾杯した。

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