表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/182

歴史が動いた日

部屋に駆け込んできたハーベストに笑顔を向けたティナの顔もつやつやしている。

数秒見つめあった後、二人とも視線を外して頬を赤らめた。


「ああ~(ゴホン)ティナ・・・ちょっと顔を見に来たんだ」


照れながらそう言うとハーベストはアーレントを抱き上げた。


「アーレント~良い子にちてまちゅねぇ~パパでちゅよぉ~」


ティナは吹き出した。

侍女たちは笑いを堪えて肩を震わせながら下を向いている。


「とーしゃま。わたくしはいつでも良い子でしゅよ?」


アーレントが口をとがらせて抗議しながら続けた。


「とーしゃま、あかちゃんことばいけましぇん!わたくちはあかちゃんではないのでしゅ」


「あ~そうかぁ~ごめんね?だってアーレントが可愛すぎてさぁ」


「ふふふゆゆしてさしげましゅね、わたくちもとーしゃまがだいしゅきでしゅから」


侍女たちは遂に声を出して笑い出す。

ティナも大爆笑状態だった。

和やかな室内にノックの音が響き、侍従長が現れた。


「陛下、午後の会議が始まりますので・・・それとティナロア伯爵様もよろしくお願いいたします」


顔をしかめながらアーレントを降ろしたハーベストが怪訝な顔を向ける。


「ティナロアに何か用があるのか?」


「はい、本日の会議にご出席いただくご予定となっております。陛下もご承認されたと存じますが」


「ああ、そうか。そうだったな・・・ティナ大丈夫か?」


「ええ、この後すぐに準備をいたしますので」


「そうか。必ず護衛をつける様にしてくれ。王城の中だとしてお油断はできない」


「?・・・畏まりました」


ハーベストは後ろ髪を引かれながら部屋を後にした。


侍女たちによって手早く準備が進められていくなか、ティナが悲鳴に近い声を出した。


「何てこと!これは・・・どうしましょう・・・」


侍女が表情も変えず返事をする。


「陛下の愛情が咲かせたものかと・・・」


ティナは鏡を見ながら自分の首筋や鎖骨周りを隠すような仕草をしている。


「困ったわ・・・デコルテが全て隠れるドレスにしなくては」


心得ましたとばかり侍女が衣裳部屋に消え、輝くような白いドレスを持ってきた。


「デコルテを覆うデザインですとこちらだけですが・・・如何いたしましょう」


ティナは少し迷ったが、盛大なキスマークを各国の首脳たちに見せるわけにはいかない。


「そうね・・・仕方がないわ、この衣装に合うようにシンプルに纏めてくくれる?」


「お任せください」


何の飾り気もなく、ウエストも絞っていないドレスだが、生地には浮き立つような地模様があり、高級感と清楚さを際立たせている。

宝飾品は神から最初にもらったペンダントだけにして、ティナは立ち上がった。


「さあ、行きましょう。騎士を呼んでください」


ティナはベルツ王国時代に纏っていた聖女の衣装で部屋を出た。

荘厳な扉の前で大きく深呼吸をしたティナが衛兵に頷いて合図を出す。

恭しく礼をした衛兵が扉を叩き、ティナの入場を声高に告げた。


「ベルツ王国伯爵ティナロア・ランバーツ様のご入場です」


ティナは一度自分の体を抱きしめた後、静々と部屋に入った。

純白の聖女の衣装にキラキラと纏わりつく天使の光。

その光に守られているティナは正に聖女というにふさわしい神々しさだった。


会議に出席していた全員が息を呑みティナを見つめる。

ハーベストは少し苦々しい表情を浮かべ、キリウスはそっとエイアール国王の表情を見た。

誰ともなく立ち上がり、全員がスタンディングオベーションでティナを迎え入れる。

ひときわ大きく拍手をしていたのがエイアール国王だった。


ティナは穏やかな表情をキープしたままゆっくりと壇上に上り、出席者に向き直った。

全員の視線が自分に向かっていることを実感したティナは一瞬だったが眩暈を感じる。

ハーベストが出席者に着座を勧め、ティナに向って頷いた。


「皆さま、この度はお忙しい中お集まりいただき心より感謝申し上げます。今回お集まりいただいた趣旨は十分ご理解をいただいていると存じますが、改めましてその重要性と今後についてお話させていただきたくお時間をいただきました・・・」


ティナが不可侵条約機構の役割や目的などをとうとうと話す間、キリウスは鋭い視線を会場に向けていた。

聖女と認識されてしまったティナを狙う国はエイアール国だけでは無いかもしれない。

もしもティナに何かあったら恐らくハーベストは容赦なく攻め滅ぼす事だろう。

もしもそうなった場合、キリウスにも止めることはできない。

むしろ先陣を切って攻め入ってしまう自信しかなかった。


そうならない為にも聖女として認識されてしまったティナロアを守り抜く必要がある。

ローマン国王が言った警護が大変だという意味を改めて理解したキリウスだった。


耳心地の良い声でティナロアの演説が終わった。

再び全員が立ち上がって拍手を送る。

大役を終えたティナは紅潮した顔でハーベストを見た。


ハーベストは満面の笑みでティナの側に歩み寄る。

ティナの肩を愛おしそうに抱き寄せ、チラッとキリウスの顔を見た。

ハーベストと目が合ったキリウスは小首をかしげて肩を竦めて見せる。

ハーベストは小さく頷き、出席者の顔を見まわし声を出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ