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出兵することになりました

さすがにまだ起きていないだろうと思ったが騎士たちの朝は予想以上に早かった。

4時過ぎに通用口を出たのに数人がすでに前庭で剣を振っている。

朝食前にあれほど体を動かすのなら、もう少しボリュームのある朝食を用意したほうが良さそうだなどと考えながら馬を駆った。

出掛けるところを気付かれると面倒だと思ったが、誰も気にする様子は無いので安心する。


「おはようございます。お休みをいただいて申し訳ありませんでした」


「ああ、おはようロア。冬場だからそんなに忙しくは無いけど、やっぱりあんたが居なくちゃお客が心配していたよ」


「ははは、揶揄える相手が居なくて寂しかったのでしょうね」


「そうだろうね。じゃあ早速だけど野菜を洗ってきてくれるかい?」


「はい」


ティナはジャガイモがたくさん入った籠を抱えて裏の井戸に向かった。

ジャガイモの次は人参と玉葱だ。

ティナは次々に手際よくこなしていった。


木箱に座ってジャガイモの皮を剥く。

ずっと同じ姿勢で作業をしているせいか、何度やっても体がこわばる。

やっと作業を終えて立ち上がり背伸びをした時、つい声に出てしまった。


「いてててって・・・あ~しんどい」


市場で一仕事終えた人達が食事にやってきて、ティナはホールで踊るようにクルクルと接客をしていた。


「ああ・・・聞いたよ。護岸工事が終わったばかりだってのになぁ」


「そうだよな。隣国の奴ら・・・あれじゃ盗賊だよ」


「国境地帯の農民はみんな逃げてきてるだろ?」


なかなか不穏な話がティナの耳に入ってきた。

どうやら国境地帯で強奪事件が多発しているようだ。

まあ国境警備隊という組織が動くはずだし・・・と考えたとき別の客の声が聞こえた。


「なんでも警備隊の奴ら逃げ帰ったらしいじゃねぇか」


「ああ、そんなもんだろうよ」


「相手も相当強いって話だぜ?」


「なんでも傭兵崩れが多いとか聞いたな」


「そんな奴らがこっちまで来たらヤバいんじゃねぇか?」


ふとティナはハーベストの顔を思い浮かべた。

そもそも友好国とはいえ盗賊まがいの傭兵崩れの集団に第一王子が出張るというのも不自然だ。


(という事は、ハーベストたちは傭兵崩れの集団の情報を持っていたという事ね)


この一点だけでもベルツ王国の深刻な弱体化が知れるというものだ。


(このほころびから一気に戦争突入っていうシナリオも描けるわね)


国境地帯での小競り合いが大きな戦争へのトリガーになることくらいティナにも分かる。


(なんとしても戦争になるのは避けないと)


そんな事を考えながらも体を動かし続けていたら女将さんから声が掛かった。


「ロア、お疲れさん。そろそろ上がっていいよ。賄いは鍋に入れておいたから持ってお帰り」


「女将さん。いつもありがとうございます」


ティナはエプロンを壁に掛けて鍋を袋に入れながら礼を言って帰途についた。

こっそり裏口から厨房に入りビスタに鍋を渡して風呂に向かう。

部屋に戻る時ロビーの様子を伺ったが、さほどの緊迫感は感じられなかった。


(そこまで深刻じゃないのかしら?)


忙しいばかりで特に変わったことも無く何日か過ぎた頃、ハーベストたちに動きがあった。

ロビーに集められた騎士たちが出陣の準備をしている。

テキパキとレーベン卿が指示を出し、ハーベストは地図を広げて作戦を練っている。


(出兵かしら・・・)


ちらちらとロビーの様子を伺うティナの姿をハーベストがみつけた。


「レディティナ?良いところに。少しお時間をいただけますか?」


「はい大丈夫です。そちらに伺いますわ」


「レディ、実は国境地帯に向かうことになりました。本格的な戦闘というわけではありませんが、交代で行くことになりそうです」


「そうですか・・・危険なお仕事なのですよね?心配ですわ」


「そうでもないと思います。なんでも隣国から盗賊まがいの奴らが入り込むようで・・・訓練された軍隊というわけでは無いですからすぐに片付きますよ」


「それなら良いのですが・・・」


ティナは胸の前で手を握り少し不安そうな表情を浮かべた。


それから数日後、ハーベストはこの安易な予想を後悔することになった。

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