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聖女との再会

未練などまったく見せない笑顔を張り付けたキアヌがベルツ王国に帰っていった。

馬車の窓から身を乗り出して手を振るキアヌに精一杯の笑顔で応えたティナは少し涙ぐんでいた。


「どうした?長年の友との別れが辛いのか?」


ハーベストがティナを抱き寄せながら言う。


「ううん・・・そうじゃないの・・・う~ん・・・そうね、辛いのかも」


困った顔をするティナの頬に口づけながらハーベスト言った。


「ティナ・・・愛してるよ」


「ハーベスト様、キリウス様たちも上手くいきそうだし、今度はアーレントの事ですね」


「ああ、でもアーレントのことと同時にティナの事だ。俺は絶対にティナを正妃として認めさせるからな」


「そこは無理しなくても・・・私はアーレントの安全だけが望みです」


「ダメだよティナ。私も幸せになりたい!ティナじゃないと嫌だ!ティナがいいんだ!」


ハーベストの発言を二人の後ろで聞きながら、キリウスは額に手をやってため息を吐いた。


「おい、自分だけ幸せになろうってそうはいかないぞ!俺も幸せになりたい!」


「十分幸せだろうに・・・ティナ嬢・・・こいつどうしましょう?」


キリウスが真剣な顔でティナに話しかけた。


「そうですね・・・できれば幸せにしてあげてください」


ティナは笑いながらそう答えた。

ダム工事も治山工事も順調に進みそろそろ完成という頃、キアヌの努力の結晶とも言うべき条約機構に関する各国首脳会議がアルベッシュ王国で開催された。


ベルツ王国からは聖女ナサーリアを伴ってユリア第一王子が車椅子で参加した。

ナサーリアの周りにはキラキラした光が舞っている。

同行したナサーリアの父ハロッズ侯爵の後ろには、神が遣わした天使たちが聖人の姿で従っている。


『アル、天使たちも来たのね。ありがとう、これなら安心だわ』


『ああ、ナサーリアがこっちに来れば俺もティナに寄り添えるからな。どうだ?久しぶりに今夜・・・』


『アルったら・・・ハーベストを乗っ取るつもりね?』


『もう我慢の限界だ!ティナを抱きたい!キスしたい!舐めたい!鳴かせたい!』


『アル・・・恥ずかしいから・・・』


『だからさぁ~ティナ、今夜ハーベストを誘えよ』


『う・・・頑張ってみる』


一人で頬を染めているティナにナサーリアが駆け寄った。


「ティナ様!お会いしたかったです」


「サーリ様、私もお会いしたかったですよ。お元気そうで何よりです」


「はい、私はもちろん元気ですし、ユリア殿下もとてもお元気になられています。歩行距離が随分伸びたのですよ」


「まあ、それはサーリ様のお陰でしょうね」


「それはどうか分かりませんが・・・毎日おみ足を摩りながらお祈りはしています」


「それが良かったのでしょう。頑張っておられますね」


「はいっ!」


二人は手をつないで再会を喜び合った。

そんな二人にハーベストが近づいてくる。


「ティナ、聖女様だね?紹介してくれないのかい?」


「ああ、ごめんなさいハーベスト様。再会できたのが嬉しすぎて・・・ベルツ王国ハロッズ侯爵家のご令嬢であり、聖女としての力を発現されたナサーリア様ですわ」


ナサーリアが貴族令嬢らしい美しいカーテシーで挨拶する。


「初めてお目に掛ります。ハロッズ侯爵家が長女ナサーリアでございます」


「これはこれはご丁寧にありがとう。アルベッシュ帝国皇帝ハーベスト・ルドルフ・ローリエ・アルベッシュと申す。聖女様にお目に掛る」


ハーベストは軽く膝を曲げてナサーリアの手をとって触れないキスをした。

王子様然とした美し過ぎるハーベストの笑顔にナサーリアは顔を真っ赤にして俯いた。


「それにしても・・・アーレントちゃんにそっくりで驚きましたわ」


「そうですか?私はあれほど可愛くも美しくもないが・・・似ていると言われるのは最高の誉め言葉です」


そう言ったハーベストはティナを強く抱き寄せる。

されるがままになっているティナは考えた。


(はぁ・・・どう言って誘えばいいのかしら・・・)


アルベッシュ帝国の王城に次々と到着する各国の首脳達。

キリウスは首脳たちのお迎えと対応に謀殺され、ティナに向けられた黒い視線に気づかない。


その夜は歓迎パーティーが開催され、ティナも久々に盛装して参加した。

キリウス達が事前会議でどう話していたのかは判らないが、ティナの周りには各国の首脳たちが続々と集まり挨拶していった。


ティナの横には常にハーベストかキリウスが立ち、ティナが疲れすぎない様に気を配っている。

ハーベストが主要国メンバーに挨拶をするため離れた隙を狙ってエイアール国王が近寄ってきた。


「はじめてお目に掛る。私はエイアール国の国王でマリアンヌの兄であるガザンと申す。聖女ティナロア嬢とお見受けするが間違いないか?」


「はい、私がティナロア・ランバーツですが聖女ではありません」


「ん?聖女ではない?キリウス殿はそのように言われていたが?」


「ああ、聖女様は・・・」


言いかけたティナを神が止めた。


『ティナ!サーリが聖女だとは言うな!そいつはなんだか危ない奴だ』


ティナは神の言葉に小さく頷いた。


「どうした?ティナロア嬢が聖女ではないとしたらどなたが聖女なのだ?」


「それは・・・聖女というのは只の呼び方で・・・誰が聖女という事ではなく・・・」


「しかしティナロア嬢は聖女だと皆が噂しているが?」


「ははは・・・ありがたいことです」


「ふむ、やはりティナロア嬢が聖女なのだな。ふふふ、もしかして聖女であることをかくしているのかな?」


「隠しているというか・・・あまり言いたくないというか・・・」


ティナが冷や汗をかきながら対応していると、それに気づいたキリウスが慌てて近寄ってきた。


「ティナ嬢!ああ・・・これはこれは義兄殿ではありませんか。我が帝国皇帝の思い人に何か御用ですかな?」


「用というほどでもない。聖女と言われる方のご尊顔を拝もうと思ってな。それよりキリウス宰相殿、義兄呼びは早すぎると思うが?」


「やあ、これは失礼しました。半年後の婚姻が済んでからですね」


「半年後か・・・もっと早くしてもこちらは構わぬよ?」


キリウスがティナを自分の後ろに庇うように立ち位置を変えた。

ティナはほっとして軽いお辞儀をしてその場を離れた。

シャンパンのグラスを取って壁際に移動する。


『あいつは・・・何か怪しい。大丈夫か?ティナ』


『うん。なんだか分かんないけど・・・聖女にこだわっているみたい』


『ただ聖女が見たいっていうだけなら・・・まあ奴の国は国力低下が著しいからな。戦争を仕掛けるような愚行は無いはずだ』


『それならサーリ様は大丈夫ね?』


『ああ、サーリは聖人たちが守っているし俺も全力で加護を与えているからな・・・それよりもう誘ったか?』


『ううん、まだだよ』


ティナは頬を赤らめた。

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