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リリアン様

会議の終わったキアヌ殿下たちと、悪だくみの相談を終えたティナは合流して帰路についた。

キリウス宰相が玄関まで見送って、会議に参加できなかったお詫びを述べている間に、ふと皇居を見上げたティナは、窓に張り付いていて名残惜しそうな顔をしているハーベストを見つけて笑った。


前後を護衛騎士に守られながら走る馬車の中で、キアヌがティナに話しかけた。


「ねえティナロア嬢?どうもとんとん拍子に進みすぎる気がするんだ。君が何か裏で手を回しているのかな?」


「いいえ、私は何もしていませんわ。アーレントのことをハーベスト様が抱いてくださって、王家の痣を確認するまでも無いとまで仰って・・・。頑張ってきて良かったなぁって思えた一日でした」


「そうか・・・それならよかったね。まあティナロア嬢ならたとえ皇帝が認知なさらなくても自分一人で育てますって啖呵切りそうだけど」


「そうですわね。もともと一人で育てていくつもりでしたし・・・。話がサクサク進むのは、もともとの案が優秀だったからではないでしょうか。それに面会が叶わないのに日参されて顔を繋いでこられたキアヌ殿下の努力の賜物ですわ」


「そういってくれると嬉しい限りだが・・・それでね、経費の配分について明日話し合うことになっているんだけど、あちらからの提案が破格なんだ。ここまで譲歩してくるとは思っていなかったからね。何か裏があるのではないかと疑ってしまうほどだ」


「まあそれほどですの?」


「ああ、帰ったらすぐ兄上に相談の手紙を送るつもり」


「そうですか。よろしくお伝えくださいませ。ところで調印が済んで着工となったら殿下は帰国なさいますの?」


「そうだな・・・完了するまで滞在するわけにはいかないだろうが、目途が立つまでは見守りたいとは思っているよ。しかし不可侵条約の件もあるし、相互監視機関の設立もあるしね」


「まだまだ問題が山積みですわね」


「おいおい!他人事のように言ってくれるなよ?君も主導者だ」


「ほほほ・・・でも殿下?私はそろそろ表には出ない方が良いと考えています」


「なんかショッキングな言葉が聞こえたような気がするが・・・それはなぜ?」


「アーレントを守るためです。アルベッシュ帝国の第一王子であることが知れてしまうと、国の内外を問わず刺客に狙われると・・・キリウス様からご忠告いただきました」


「なるほど・・・それはその通りだな。うん・・・君にとってアーレントの命は何より大切だろう。それは理解できるよ」


「それにナサーリア様を前面に押し出して聖女外交を展開する方が良いのでは無いでしょうか?」


「ナサーリアか・・・まだ幼いからね、あと数年は無理じゃない?きっとハロッズ侯爵が許さないと思うよ?」


「そうでしょうか?ナサーリア様の信念はお強いですわよ?それにナサーリア様には神様がついておられます」


「神様か・・・」


キアヌは頬杖をついて外の景色に目をやった。

ティナはうとうとしはじめたアーレントを抱きながら、こちらに残る話をいつ切り出そうかと考えた。


翌朝もキアヌ達と一緒に登城したティナは、護衛騎士に案内されてキリウスの執務室に向かった。

ノックをして入室するとキリウスが出迎えてくれた。


「レディティナ。本日も実にお美しい・・・母となられてますます磨きがかかりましたね」


「まあキリウス様、朝からお口がお上手ですわ。今日もお言葉に甘えて来てしまいましたが、どうぞお仕事を優先してくださいませね」


「大丈夫ですよ。今日はレディティナに会わせたい方を呼んでいます。あなたのお産みになったリリアン前皇帝側妃です」


「あら!もうお会いできますの?確か離宮におられると伺いましたが」


「ええ、孫の顔が見たいのでしょう。昨日お手紙を差し上げましたらその日のうちにお返事をいただきました。もうそろそろお着きになると思います」


そう言っているうちにドアがノックされハーベストが入ってきた。


「ティナ!会いたかった!アーレントのご機嫌はいかがかな?」


ティナはアーレントを立たせてゆっくりとお辞儀をした。


「帝国の光、皇帝陛下にご挨拶申し上げます」


「止めてくれよぉ。ティナぁぁ~それよりも抱きしめさせてくれ!」


ハーベストは駆け寄ってティナを抱きしめた後、アーレントを抱き上げた。


「愛しい息子!帝国の天使!皇太子殿下にご挨拶申し上げないとな。アーレント、顔を見せてくれ」


「あい!とーしゃま」


ハーベストは半泣きの笑顔でアーレントに頬摺りした。


「とーしゃま・・・痛いれす」


「ああごめんごめん。アーレント、今日はお前のおばあさまを連れてきたよ」


「おあーしゃま?」


「そうだ、おばあさまだ。」


そういってハーベストが振り向くと、シンプルな黒いドレスに黒いベール姿の女性が入ってきた。


「ティナ、リリアン様だ」


ティナは女性の方に向き直った。

顔も知らない女性を母だと言われても正直実感は無かったが、ベールをあげて顔を見せたリリアンは驚くほどティナロアに似ていた。

ティナは慌ててカーテシーを披露した。


「お母様・・・お久しゅうございます」


リリアンはゆっくりと微笑みながらティナに近づいた。


「ティナロア・・・お前を手放したのはまだ一歳にもならない頃でしたね。覚えてはいないでしょうが、私がお前を生んだリリアです・・・よくぞここまで育ってくれました・・・あなたを思わない日は一日たりともありませんでしたよ」


「お母様・・・」


なんの感慨もないだろうと思っていたティナは、自分が泣いていることに驚いた。

これはティナロア伯爵令嬢の魂が流している涙かもしれないと漠然と思った。


「ハーベスト様?」


ティナがそういうとハーベストはどこか誇らしげな顔でリリアンにアーレントを見せた。


「まあ・・・本当にハーベスト陛下に瓜二つですのね・・・ティナロア、今までよく頑張りましたね。立派でしたよ」


そういってリリアンはアーレントに手を伸ばした。


「おあーしゃま?はじえましゅて。わたくちは、あーえっとともうしましゅ」


「まあ!もうずいぶんお話ができるのね。ご挨拶ありがとう存じますわ、第一王子殿下。私はあなた様の祖母でリリアンと申します」


リリアンがアーレントに対し優雅なカーテシーを見せた。

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