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皇帝の子供

「おい!聞いたぞ!キリウス~お前ってやつは・・・いつの間に?」


キリウスの執務室をノックもせずにハーベストが入ってきた。

見ていた書類を少し乱暴に置いたキリウスがソファをペンで指さした。

ドカッと座り侍従にお茶を要求するハーベストはニマニマと笑っていた。


「で?何を聞いたというのです?」


「子供だよ!お前いつの間にそんな女がいたんだ?やたら婚約話を拒否すると思ったら・・・笑える」


「はぁぁぁぁ・・・今のうちにせいぜい笑っておいてください」


「なんだよ?開き直りか?でもなんで婚姻しないんだ?もしかして・・・平民か?」


お茶を持ってきた侍従や護衛の騎士たちも好奇心を隠し切れない様子だった。

そんな周りを苦々しく睨んだキリウスは人払いをした。


「あのねえ・・・誰の子だと思ってるんだ?お前の子だぞ?」


「へっ?俺の子?言うに事欠いてお前・・・それは無いぞ?俺はティナ以来ずっと誰とも関係を持っていない」


「だから、ティナロア嬢とお前の子だよ。王家の痣も確認した」


「俺の子?王家の痣・・・まさかあの1回だけで?ティナは処女だったんだぞ?」


「ああ、ティナロア嬢は今この帝国に来ている。例のフィッシュバーガーを屋台で売っていたらしい。部下が買ってきたのを食べてティナロア嬢だと確信して会いに行った」


「お前・・・ティナに会ったのか」


「ああ、その日のうちに彼女は子供を抱いてここに来てくれた。めちゃくちゃ可愛いぞ」


「なぜすぐ俺に言わない!」


「お前は昨日まで視察で国に居なかっただろ?」


「ああそうか・・・昨日来たのか・・・。そうだ!すぐに呼んでくれ!いや、俺が会いに行く」


「皇帝が簡単に行けるわけないだろう?それにちょっとややこしい事になっている」


「ややこしい?ティナが窮地なのか?すぐに助けないと・・・」


「少し落ち着け!今はまだ拙い。例の姫君が帰るまでは動くな」


「関係ないさ。どうせ結婚などティナ以外とする気はない」


「お前の一途さは認めるが、皇帝であるお前の結婚は完全なる政略結婚一択だ」


「お前までそんなことを・・・」


「仕方がないさ。もう皇太子じゃないんだ。皇帝としての結婚となるとそうなるんだ。それはいい加減に理解してくれよ」


「嫌だ!ティナがいい!ティナと一緒になれないなら皇帝辞める!」


「・・・久しぶりに殺意を感じるな」


「何とでも言ってくれ。それで?ティナはどこにいるんだ?」


キリウスはティナの現状を説明した。

聖女としてベルツ王国で暮らしていたこと、帝国へは訪問団の一員として来ていること。

そしてベルツ王国側の謁見申請内容も詳しく説明した。


「ティナがそうした方が良いっていうんだったら問題ないじゃないか。すぐに要求を呑んでやれよ」


「確かに内容的には合意した方が双方のためになる。でもなぁ、お前とティナがそういう仲だからってほいほい通すわけにはいかないよ」


「どうして?」


「あっちにもメンツってものがあるんだよ」


「はっ!そんなもの!」


「ティナの立場も考えてやれよ」


「じゃあどうすればいいんだ?」


「お前が面倒だと言ってのらりくらり先延ばしにしてた謁見をまず受け入れろ」


「うん」


「内容を精査し、帝国として吟味してから最終的に受け入れるというパフォーマンスが必要だ」


「うんうん」


「不可侵条約の件は、お前の戦争はしない思想に沿うものだから同時進行で進めさせる」


「うんうんうん」


「実務レベルは俺が采配するから心配するな。お前は皇帝として認可するという立場を貫くんだ。ここまではいいな?」


「わかった」


「しかしお前って・・・ティナロア嬢が絡むとほんとヘナチョコになるな・・・」


「自覚はある・・・で?俺はいつティナに会えるんだ?」


「調印までは無理だな」


「そんな・・・」


「諦めろ。それより婚約話をどうするかだ。エイアール帝国の姫君だからな・・・無下にはできないぞ。それこそ戦争の火種になりかねん」


「戦争は困る。でも皇后はティナじゃないと嫌だ。俺はどうすればいい?」


「・・・ティナロア嬢の願いはただひとつだ。アーレント様の命を守ること」


「それは当然だ。だからこそすぐにでも王宮に住まわせたい」


「だから・・・無理だっていってるだろう?」


「じゃあどうやって守るんだ」


「心配するな。アーレント様とティナロア嬢には完璧な護衛体制を敷いている。もちろん一緒にいるベルツ王国の奴らには気づかれないようにな。影もつけているから安心しろ。むしろお前につけているより完璧な体制だ」


「そこは感謝する。でも会いたい!抱きしめたい!キスしたい!押し倒したい!」


「ふふふ・・・ティナロア嬢は相変わらず美しかったぞ~。故郷を離れて苦労もされたのだろう、肌も髪もまともな手入れをされていない感じだったが、にじみ出る気品は隠しようがないな」


「あ~~~~~」


「それにアーレント様の可愛らしさ!しかもお前に瓜二つだ」!


「あ~~~~~~~~~~~」


「我慢しろ」


「・・・キリウス・・・お前・・・悪魔か?」


「いや、アルベッシュ帝国宰相だが?」


「はぁぁぁぁぁ・・・会いたいよぉぉぉぉぉ」


「上手いことやるしかないさ。根回しも必要だ。俺が何とかするからお前は絶対に暴走するなよ」


「わかった・・・なるべく早くお願いします」


絶対的な権力を有する大帝国の皇帝とは思えないほどポンコツになったハーベストは、ティナが持参したメレンゲクッキーを箱ごとポケットに入れようとしていた。

それを目ざとく見つけたキリウスはハーベストの腕を掴んで見事に阻止した。

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