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隠し子は隠せない

不穏な笑顔を浮かべるティナを見ながら小首をかしげるキリウス。

アーレントはキリウスの髪で遊んでいた。

アーレントの顔をまじまじと見たキリウスがティナに話しかけようとしたときドアがノックされた。

侍従が優雅な仕草でお茶とお菓子を運んでくる。

お菓子を見てきゃっきゃ言いながら手を伸ばすアーレント。

やわらかそうなビスケットを選んでアーレントに渡してやるキリウス。

その姿を驚いた表情で盗み見る侍従。


(あ~これは絶対誤解されるヤツやん・・・)


ティナはそう思ったが伯爵令嬢らしく顔には出さず微笑んでいた。


「キリウス様・・・もうお気づきでしょう?その子はアーレントといいます」


「アーレントですか。良い名前だ。聞きたいような聞きたくないような・・・でも聞かないわけにはいきません。父親は誰ですか?」


「・・・ハーベスト様ですわ」


「やはり・・・。疑う余地もないほど似てはいますが・・・ティナロア嬢とヤツがそういう関係・・・ごほっ・・・失礼・・・あの日だけでしたよね?」


「はい・・・私はあの日が初めてで・・・そしてこの子を授かったのですわ」


「ちょっと失礼します」


そう言うとキリウスはアーレントの背中をめくり、肩甲骨のあたりを確認した。


「王家の痣・・・確かにありますね」


「はい。私は王家の痣のことは存じませんでしたが」


「ティナロア嬢が連れてこられたというだけで疑う余地は無いのですが・・・ハーベストってあんなやつでしょう?子供を抱えて認知しろって言ってくる女性が多くて・・・一応確認させていただきました」


「そうですか・・・ハーベスト様って・・・」


「いえっ!もちろんそれは昔のことです。ティナロア嬢に惚れてからはきれいなものですよ。これは私が保証します」


「ふふふ・・・どうぞお気になさらず」


二人は目を合わせて微笑み合った。

ビスケットを食べ終えたアーレントは再びキリウスの髪で遊び始めた。

キリウスのきれいな髪にビスケットの屑がぼろぼろと付いていたが、ティナは面白がって敢えて触れなかった。


「ただ、今は少し時期が悪い・・・」


「それは?」


「実は国を安定させるためにハーベストに、新たな婚約者をと厳しい要求があるのも事実です」


「なるほど・・・それは当然の事だと思います。私はむしろハーベスト様が未だに独身だったことに驚いておりますわ」


「それは・・・ティナロア嬢の口からそう聞くと、ヤツが哀れになってきますね・・・ハーベストは本当にティナロア嬢一筋だったのですよ」


「まあ・・・それは・・・」


「前皇帝が崩御した後、軽い後継者問題がありましてね。まあそちらの方は予定通り終結したのです。反ハーベスト派は一掃したのですが、若い皇帝ということもあり、諸外国からの干渉が厳しいという状況です」


「それではハーベスト様の新しい婚約者は他国の姫君ですの?」


「まだ決まったわけではありません。ハーベストが断固拒否していますからね。しかし候補となる隣国の姫君が現在帝国を訪問中です」


「キリウス様・・・私が今日アーレントを連れてきたのは、認知とか婚姻とかそういうことではございません。このまま隠し通すつもりだったのですから・・・でもマダムラッテが王家の痣がある子供を市井で育てることの危険性を教えてくださって・・・」


「さすがマダムラッテです。その通りですよレディティナ。この子の命を盾にする輩が必ず現れたことでしょう。考えるだけでも恐ろしい」


「はい・・・ですのでキリウス様にご相談をと・・・もしもこの子の存在がハーベスト様の足かせになるようでしたら申し訳ないのですが・・・」


「もしもそのまま隠れて育てるおつもりなら諦めてください。皇帝の第一子であるアーレントは皇太子になる可能性が最も高い子供です。それなりの教育も必要ですし、何より帝国を挙げて守らなくてはならない存在です」


「第一子?」


「そうですよ?ティナロア嬢はヤツをどんな極悪非道な男だと思っておられるのでしょう?まあかつての彼はそう思われても仕方がないような男でしたが・・・」


「そんなこと!思ってもおりませんわ」


「冗談です。それで?ティナロア嬢はどうすることをお望みですか?」


「私はアーレントを守っていただきたいのです。そして私はアーレントの側を離れたくはありません。 しかし私はハーベスト様の妃になどなれるような身分ではございませんから、出来ればアーレントの乳母として雇っていただけないでしょうか」


「乳母?そんな・・・なぜハーベストの正妃になろうとは思わないのです?」


「それは無理です。何の教育も受けておりませんし、そもそも後ろ盾がございません」


「・・・そこは何とでもなりますよ。それよりハーベストがあなたを手放す訳がない」


「そうでしょうか・・・」


「もう少し私の幼馴染を信用してやってください。ハーベストには私から話します。そして子供の件は時期を見て公表します。少しお時間をいただけませんか」


「勿論お任せいたします。それともう一つお話が・・・」


「なんでしょう?」


キリウスは少し涙目になっているティナの周りでキラキラする光が舞うのを不思議な気持ちで見ていた。

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