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遂に王宮へ

ティナが屋台に商品を並べていた時、隣の店主が声をかけてきた。


「ティナちゃん、昨日ティナちゃんが帰った後とんでもない人がきたぞ?」


「とんでもない人?」


「ああ、今を時めく宰相様だよ。話題のバーガーを買いに来たみたいだった」


「宰相様が?ご本人が来られたのですか?」


「うん。多分そうだよ?っていうか俺は本人さんの顔を知らないけど、一緒に来てた騎士たちがそう呼んでたから間違いないさ」


「へぇぇ・・・キリウス様が直接ねぇ。意外と暇なのかしら」


ティナがそうつぶやいたとき店先から声がかかった。


「いやいや死ぬほど忙しいですよ。お久しぶりですティナロア嬢」


長い髪を後ろで結んでキリウスが笑って立っていた。


「キリウス様!」


ティナは思わずキリウスに駆け寄り抱きついてしまった。

キリウスもしっかりとティナを抱きしめる。

周りの全員が目を見開いてその光景を見ていた。


「ああ、やっと見つけましたよ。レディティナ、ずっとハーベスト様に人探し一つできない能無し扱いされていた私の身にもなってくださいよ。どこに隠れていたのですか」


「ああ、キリウス様、探してくださっていたのですね・・・隠れていたわけではないのですが、いろいろ大変そうなお噂を聞きましたので、自分で何とか頑張っておりましたの」


「そうですね。確かに大変でしたし、まだぜんぜん片付いてもいませんが。それにしても全然変わらないですね。相変わらず大輪の花のようにお美しい」


「相変わらずお口がお上手です事。ずいぶん老けたとお思いになっておられるのでしょう?手も髪もまともな手入れをしておりませんし、私はもう市井に下った平民ですから・・・」


「いいえ、レディティナは伯爵令嬢ですよ?というより伯爵家ご当主です。まあ、詳しい話は今度ゆっくりと。それで?もちろんハーベスト様に会いに来てくださいますよね?」


「ハーベスト殿下に・・・」


「レディ?」


「キリウス様・・・少し時間をくださいませんか・・・それにハーベスト様にお会いする前にあなただけには話しておかなくてはいけないことがありますので」


「そうですか。あなただけにはって言葉、耳心地の良い響きです。まあレディティナにもご事情がおありなのでしょう・・・あなたのためなら今日の予定はすべてキャンセルしてでも時間を作りますよ?」


「とんでもないことですわ。もしよろしければ夕刻にお城にお伺いいたします」


「それでは衛兵に伝えておきましょう。もしよろしければ、今すぐにでもあなたに護衛を付けたいのですが」


「それは・・・どうぞ今日のところは・・・」


「わかりました。あなたの事情を優先します」


「ありがとうございます。必ずお伺いいたしますわ」


キリウスは名残惜しそうに騎士たちを連れて帰っていった。

今日仕込んだ全てのフレッシュフライバーガーを買い占めて・・・。

店開きをする前に完売してしまったティナは早々に戻ることにした。

まずは気持ちを整理しておく必要がある。

出来ればアルにも相談したい。

ティナはあっけにとられている隣近所の屋台の店主たちにペコペコと愛想を振って帰った。


『へぇ〜あいつなかなか行動が早いな。でもお前の狙い通りじゃないか』


『うん。狙ってはいたけど、昨日の今日とは思わなかったから・・・』


『それだけお前のことを必死で探してたってことだよ。ハーベストもキリウスも』


『そうね・・・ありがたいことだけど・・・ちょっと怖いかな』


『怖い?何が怖いんだ?』


『だって・・・王宮って伏魔殿って感じだし・・・アーレントの命を狙われるんじゃないかと思うと・・・』


『ああ、そう言う意味なら怖いな。でも一応アーレントには最大級の加護を与えてあるからちょっとやそっとじゃ死なないぞ?』


『そうなの?いつの間に?』


『言ってなかったっけ。生まれたときからだよ?だって俺はお前の出産に立ち会ってるからな』


『出産に立ち会ったって・・・見てたの?あの修羅場を』


『うん。全部見た。まあ見てよかったよ。お前の苦しむ姿も生まれた瞬間のアーレントも・・・感動的だった。父親って実感が湧いた』


『アーレントの父親はハーベストだから・・・』


『そう固いこと言うな。姿かたちは同じだからどっちでも一緒だ』


『・・・』


『で?キアヌたちには言うのか?』


『うん・・・まだ言わないつもり・・・アルはどう思う?』


『そうだな。話を早く進めたいなら言うべきだが、奴らの矜持を保ってやるなら・・・』


『やっぱりそうだよね』


『まあキリウスに会う程度なら、まだ言わなくていいだろう』


『良かった。アルも同じ意見で。ちょっと迷ってたんだ』


『守っててやるから安心していってこいよ』


ティナは自分の考えに賛同してくれたアルフレッドに感謝しながら身支度を整えた。

ハーベストから渡された懐中時計を鞄に入れる。

アーレントには真新しい子供服を着せて抱き上げた。

子守のシスターには知り合いに会ってくるから遅くなると伝言を頼んだ。


「さあ、アーレント。母様とお出かけしましょうね」


「あいっ!」


もうすぐ二歳になるアーレントを抱きかかえて歩くのはなかなか重労働だ。

今度は乳母車を作ろうと心に決めたティナだった。

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