最後の挨拶
沈黙を先に破ったのはティナだった。
「でもあなたがハーベストの姿をするのと私を愛しているのがどう繋がるの?」
「たぶんあいつはお前を離さないだろう。そして皇后にしようとする。アルフレッドは皇太子になる。そしてお前はそれを拒めない。そうなるとあいつと閨を共にすることになるだろう?」
「そうね・・・」
「あいつがお前を抱いている間だけ、俺はあいつを乗っ取るつもりだ」
「へぇっ?」
「だから、あいつの体だけどお前を抱いているのは俺って事だ。今のこの体だってあいつと寸分違わない。黒子の位置や髪の毛の本数まで同じだ」
「なるほど?」
「そもそも神に実体は無いって話はしたよな?」
「うん。だから私の好みの姿になってくれるんだもんね」
「そうだ。でもモデルとなる人物は必要だ」
「そうね、確かに・・・」
「そのモデルがハーベストだったんだよ。この体を最初に選んだのは俺だからね」
「あっ!そういえばそうね・・・」
「お前はハーベストの姿が王子様らしくて良いって言ったんだ。だからずっとこれで通してるけど、結果としては良かったよ。あいつの体を使ってお前を抱いても、ティナは違和感を感じないし、そもそもあいつの愛称はアルだから」
「へっ?」
「これはまじで偶然だけど、あいつは幼いころハーベストと言えなくてアールットって言ってたんだ。それで愛称がアルになった。笑えるだろ」
「いや・・・逆に笑えない・・・アルってアルフレッドよね?名前長いんだっけ?」
「うん。真面目に言うと二分はかかる」
「・・・・・・」
「だからお前はあいつに抱かれているようで俺に抱かれるから浮気にはならない」
「わかったような・・・わからないような?」
「もう悩むな!それより早く帰ろう」
「どうしたの?」
そういうとアルは人目も気にせずティナを抱き寄せてキスをした。
「わかるだろう?この世界での俺達にはあまり時間が無いんだから」
ティナは目を潤ませながら小さく頷く。
帰宅後、朝まで愛し合った二人は幸福感に包まれていた。
ハンバーガーショップに行って空腹を満たした後、ケヴィンのオフィスを訪ねる。
「お久しぶりですね、ティナさん。アルフレッドさんも元気そうで何よりです」
「ケヴィンさんもお元気そうで安心しました」
「教会の方は順調ですよ。最近は信者の方の訪問も増えてジュリアさんも神官として立派なお説教をなさっています」
「本当にケヴィンさんには何から何まで・・・感謝しかありません」
「いえいえ、あの事故が始まりとはいえ、私はティナさんとのご縁をとても大切に思っていますから」
「ありがとうございます。今日は・・・最後のお願いに参りました」
「最後の?お願いですか?」
「ええ、実は・・・もう二度とお目にかかれないので」
「それは・・・どういうことですか?」
「ケヴィンさん・・・私・・・あと二日くらいで消えてなくなる予定です」
「えっ!ちょっと理解が追い付かない・・・」
「信じてもらえないのは重々承知です。でも本当のことなので・・・この宝石を託しますので、あの子の教会の支援をお願いします。そしてこのブローチは、ケヴィンさん。あなたに持っていてほしい」
「これは・・・」
「ええ、私が持っている宝石の中でも一番価値があるものです。私の形見だと思ってください。あなたには本当に・・・何度お礼を言っても足りないくらい・・・ありがとう」
「ティナさん・・・消えるって?・・・どういう事?病気なの?治らないの?」
「病気ではないのですが・・・どう言えば良いかしら」
ティナは横に座って穏やかな微笑みを浮かべるアルフレッドの顔を見た。
「ケヴィンさん。私から説明します。少し私を見ていただけますか?」
「アルフレッドさん?」
ケヴィンはアルフレッドの目を見た。
数秒の沈黙が流れ、ケヴィンは意識を失った。
「アル?ケヴィンさんに何をしたの?」
「大丈夫だ、天使たちがお前の現状を映像で見せている。深層心理に直接干渉しているから疑問も持たずに信じるだけだ」
「凄い便利な機能ねぇ・・・悪意を持って使えば世界征服できるわよ」
「そもそもこの地球って神々の庭だから。自分のものを征服してもしょうがないだろ?」
「ははは~私の旦那様って・・・スケールデカすぎ!」
「だから・・・神なんだってば~」
二人がイチャイチャとふざけあっていたとき、ケヴィンがゆっくりと目を開けた。
ティナが心配そうに声をかける。
「ケヴィンさん、大丈夫ですか?」
「ああ、ティナさん・・・」
そう言うとケヴィンはゆらゆらと立ち上がりティナに近寄って跪いた。
ティナの手を恭しく握り、自分の額に押し当てる。
「全て仰せのままに」
ティナはあまりの変わり様に驚き、アルフレッドは満足そうに頷く。
そんな三人の周りをキラキラした光が飛び交っていた。




