お前しか愛せない
ティナが髪を洗っていると、本当にアルが入ってきた。
「アル?」
「ティナ・・・愛してる」
「アル・・・私も・・・愛してるわ」
二人はきつく抱き合ったまま時間だけが流れていく。
無言のまま固く抱きあい、愛を確かめた二人は一睡もせず朝を迎えた。
「ティナ・・・大丈夫か?」
ティナの乱れた前髪を指先で整えながらアルフレッドが囁いた。
「アル・・・今何時?」
「どうだろう。もうすぐ日が沈むな」
「そう・・・お腹が空いたわ」
「じゃあ出掛けようか」
昨夜と同じように一瞬で髪と体を乾かしてくれたアルにティナが言った。
「それも神の力なの?」
「まあそんな感じ?」
「こんなことで神通力とか・・・」
「問題ないさ。お前のためなら俺は歩くドライヤーと呼ばれても構わない」
二人は声を上げて笑いながら家を出た。
アルが気に入ったジャパニーズレストランに行き、心ゆくまで料理を堪能した。
二件目はティナが働いていたジャズピアノバーを訪れた。
「ああ、ティナじゃないか!もう体は大丈夫なのかい?」
スタッフが声をかけてきた。
「うん。ありがとう。心配かけちゃったね・・・紹介するわね、こちらアルフレッドさんよ。私の婚約者」
アルが顔面偏差値を振り切るほどの微笑みを浮かべて軽く頷いて見せた。
男性スタッフでさえ赤面して言葉を失っている。
後ろにいた女性客が意志から滑り落ちた。
「そ・・・そうか。ティナ、結婚するんだね。良かったよ」
かろうじてそれだけ言った男性スタッフは、お祝い替わりだと一番良い席に案内してくれた。
プレイヤーが出てきてピアノの前に座った。
ティナの顔を見て小さく手を振り、一曲目を弾き始めた。
アルがテーブルの上でティナの手を握りながら耳元で囁いた。
「本当にこっちを選ばなくていいの?」
「アル・・・アルフレッドのことは諦めきれない」
「うん。アルは可愛いからな。俺のアル・・・ふふふ」
「言おうかどうしようか迷ったんだけど、アルに隠し事はしないって決めたから言うね?」
「どうしたの?」
「あなたハーベストの姿じゃない?もしもこの先ハーベストが私を側室とかに望んで・・・そういう関係になった時・・・私ハーベストのことをアルって呼んじゃうかも」
「だからだよ。俺がハーベストの姿をするのはお前があいつに抱かれた時のためなんだ」
「どういう意味?」
「ずっと前に俺は嫉妬しないし、生きているときのことは関係ないって言ったろ?あれは撤回するよ。お前を抱いてみてわかった。お前に触れるのは俺だけにしてほしいんだ。ハーベストだけじゃない、お前に俺以外が・・・考えただけで地球を破壊したくなる」
「アル・・・あなたが言うと冗談に聞こえないから」
「うん。冗談で言ってない」
「笑えない・・・」
「ティナ・・・愛してるんだ。もう苦しいほどに・・・俺はお前しか愛せないんだよ」
ピアノの音ももう聞こえない。
ティナはアルのことしか考えられなくなった自分に気づき、少し驚いた。




