深く繋がった日
それからティナはオルフェウス大神官のもとに行った。
「大神官様、少しお時間よろしいですか?」
「ああティナロア様、どうされましたか?」
「ええ少し神に呼び出されちゃって・・・ちょと二日くらい行って来なくちゃいけないのですが」
「神の呼び出しとは・・・我々凡夫には想像もできませんが。私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「いえ、特には何も。いつものように私の体をそのまま寝かせておいていただければ」
「お安い御用です。お部屋の前には聖騎士の護衛も付けましょう」
「ありがとうございます。ところでフェルナンド神官様はどちらに?」
「ああ、彼は今シルバー辺境伯様と行動を共にしていますよ」
「え!シルバー辺境伯様と?」
「ええ、自ら志願して同行しています。彼も神の声を聴くことができますからね、いろいろと助言もいただきながら辺境伯たちを説得しているようです」
「神が・・・助言を?」
「ええ、私にも時々アドバイスをくださいます。本当に全てティナロア様のお陰です」
(へぇぇぇ・・・アルって頑張ってるんだ。ふざけてるだけかと思ってた)
『聞こえたぞ!』
『あっごめん』
ティナは顎に手を当てて唸ってしまった。
「どうされました?ティナロア様?」
「ごめんなさい、なんでもないです。急いで行かないといけないのでよろしくお願いします。私の体は自室に転がっていると思いますので、あとで回収してください」
そういうとティナはオルフェウス大神官の返事も聞かずに自室に戻った。
クローゼットに入れてあった宝石をすべて巾着袋に入れて服の中に挟む。
以前持ってきていた強力な麻酔薬を飲み、ベッドに横になった。
(まあ、最後のひとつだったけどもう戻らないしね)
ティナは深い深い眠りの中で意識を失った。
『来たか!ちょっと残っている仕事片づけてから行くから。先に行ってくれ。ああ、でも一人で出掛けるなよ?』
『うん。わかった。どうせ体が錆びついてるから軽く運動して待ってるわ』
ティナはいつも通り凄い風圧をものともせずゲートをくぐった。
全身の痛みに悲鳴を上げながらティナはベッドで起き上がる。
あちらの世界を出たのが午前9時頃だったので、こちらの世界でもまだ朝だ。
厚手のカーテン越しでも天気が良いのがわかるほど室内は明るかった。
ティナは両手で体を支えながらゆっくりと起き上がった。
「痛たたたたぁぁぁぁ。はぁ~関節が固まってるわ・・・ってか、ホコリ被ってるし」
半年程度放置していたせいで、ティナの体にも顔にもうっすらとホコリが付着していた。
そろそろと慎重にベッドを降りてバスルームに向かう。
「お風呂とトイレはこっちの世界の方が良いわぁ・・・そうだ。問題が解決したらサニタリー革命起こしちゃおうかしら」
シャワーの水圧を最大にして、甘い香りのシャンプーで丁寧に髪を洗い、モイスチャー効果の高いボディソープをたっぷり泡立てて全身をくまなく清めていく。
「寝てるだけなのに結構垢が溜まるのね・・・なるほど長期放置は難しいはずだわ」
体を洗いながらふと自分の体を見下ろした。
「今回でお別れなのね・・・この体って何歳だっけ?34になったかな?いつもは二十歳のお嬢さんの体だからやけに弛みが気になるわ・・・」
「そうでもないぞ?お前は心も体も美しい」
振り返るとハーベストに現身した神が立っていた。
「のぞきは趣味が悪いわ」
「のぞきってのは隠れてするものだろう?」
「ははは!なるほどね。もうすぐ終わるからちょっと待っていて」
「俺も一緒に入ろうかな」
「なんだか恥ずかしい・・・神の世界ってお風呂入るの?」
「ああ、かなり頻繁に入るな。温泉があるんだ。もちろん混浴。お前もそのうちみんなと一緒に入ることになるな」
「浮気したらどうする?」
「っつ・・・神に浮気は無い!不倫などもっての外だ!」
「乱れてるのか秩序があるのかわかりにくい世界ね」
「その辺の人間と一緒にするなよ?一応だけど崇め奉られる立場なんだからな?」
ティナはフフッと小さく笑った。
そんなティナをにやりと笑ったアルフレッドが後ろから抱きしめながら呟く。
「お前・・・神は偉大って百回くらい書き取りした方が良いぞ?」




