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母か女か

ベルツ王国主要メンバーによる最後の会議の席上で、ティナは考えていることを全て発言したのだった。


「今回の件が全て上手くいけば、今後ベルツ王国が戦禍に巻き込まれることも、民が飢えで命を落とすことも無くなるでしょう。その結果、聖女ナサーリア様はそのお命を全うされ、真の神の番としてこの国の守り神となられるのです」


ナサーリアは緊張し、ティナは微笑んだ。


「しかし、その平和が存続できるかどうかは皆様方に掛かっています。もしも誰か一人でも私利私欲に溺れ、裏切るようなことがあればこれまでの苦労は無駄になってしまいます。努力し続けるしかありません。共通の目的を持って、それを達成するための目標を確実にクリアする、そしてそれを未来永劫続けることができる仕組みづくりと人材の育成が鍵となるのです」


ユリア殿下とキアヌ殿下が立ち上がり、跪いてティナロアに臣下の礼をとった。

キアヌが恭しく言った。


「ティナロア嬢。あなたは聖女ではないと仰る。特別な神力も待たないと。それらをすべて受け入れた上で申し上げます。あなたは女神アテナの化身であり、ベルツ王国を・・・いや、この大陸をその知恵と戦略で救った守護者です」


ユリアが後を引き取った。


「我々ベルツ王国は未来永劫あなたを称えましょう。あなたは我らの女神です。心からの忠誠を捧げます」


全員が二人の王子に倣い、周りを囲む護衛の騎士たちも同じように跪いた。

ナサーリアが美しいカーテシーで敬意を表している。

ティナは自分の顔に熱が集まるのを実感した。


『ティナ!我が妻はアテナの化身なのか?』


『何言ってるのよ。ただの孤児ピアノ弾きだって知ってるでしょう?』


『ああ、知っている。そんなお前が大好きだ』


『アル!今言うこと?』


『いつでも言うぞ?なんなら一時間ごとに言おうか?』


『お願いアル・・・今感動的なシーンだから・・・』


『ははは~お前気づいてないけど、泣いてるぞ』


神の言葉にハッとして自分の頬に手を当てた。


(これは私の涙?それともナサーリア伯爵令嬢の涙?)


ティナは慌てて袖口でグイっと涙をぬぐった。


「へへへ・・・私のようなものでも皆様のお役に立てたのなら良かったです。女神とか忠誠とか、そういうの私にはよくわからないのですが、とても嬉しいです。なんというか・・・本当に嬉しい。皆さん!これからも私とお友達でいてくださいね」


全員が立ち上がり拍手した。

ティナの後ろで神も拍手していた。


後はそれぞれの分科会で具体的な話し合いになるため、翌日からティナロアは関係各所を回って別れの挨拶をしていく。

妊娠時代に日参した市場に行って串焼きも食べた。

お世話になった食堂のおばさんにも別れを告げた。

教会のシスターたちにシルクのレース生地をお礼として渡して回った。

そんな風にバタバタと忙しく過ごしていたティナが珍しく神からのペンダントを握った。


『出でよ!大魔神!』


『お~懐かしいなぁ』


『ねえアル。ちょっと相談があるのよ』


『どうした?』


『私がアーレントと暮らすことを選んだらあっちの体ってどうなるの?』


『最初に言ったけど、俺のミッションをコンプリートした特典として、あっちの世界に戻るか、こっちの世界に残るかを選択できる。だからお前がアーレントと共に暮らすことを望むなら、あっちの体は消さなくてはいけない』


『残しておいて偶に帰るのは無しなのね?』


『いつまでも老けない死なないじゃあ拙いだろ?』


『そりゃそうだわね』


『こっちを選ぶのか?そうなると信仰心の厚いこの世界では、俺は現身になれないから今まで通り精神的なつながりしか持てない』


『あっちだとどうなの?』


『あっちの世界ならずっと現身でいても誰も気づかないから一緒に生活することができる。何より実際に触れ合える。お前を抱くことができる』


『・・・拙いわ・・・今、少し心が動いたわ・・・』


『っはは!お前らしいな。俺も本当はお前を実際に抱きたいし、いつも触れていたい。一緒に暮らしたら楽しいだろうなと思うよ』


『なんだか究極の選択ね』


『ああ、お前にとっては母を選ぶか女を選ぶかの選択になるな』


ティナは少し考え込んだ。


『以前の私なら迷わず女をとったでしょうね』


『今は?』


『迷う気持ちはあるけど・・・アーレントは捨てられない。それにティナロア嬢に約束したのよ。代わりに復讐するって』


『復讐?ああ、あの三人か』


『うん。死ぬより辛い目に合わせないとティナロア嬢が浮かばれないわ』


『そうか・・・じゃあこっちを選ぶということだな』


『そうね・・・あ~でもアルに抱かれてみたいわ~神の御技を体感したい!』


『嫌いじゃないけどちょっと引く・・・あっ!そうだ。ティナ、あっちに帰って自分の体に始末付けるだろ?その時に思う存分イチャイチャしようか』


『お~!さすがね。持っている宝石も全部使いたいし、それがいいわ。じゃあすぐ準備するね』


『わかった。じゃあ上で待ってるから』


時空移転の相談が気軽なパッケージツアー参加のように決まった。

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