自爆する瞬間
全員の前にお茶が配られメイド達が退出した後、会議が始まった。
最初に口を開いたのはキアヌ第二王子だ。
「皆も知っている通り国王陛下は病のため国政を行える状況ではない。しかし兄上がおられる限り問題はないから安心してほしい。ただし、我が国の現状を鑑みるに、そうそう余裕があるわけではないのだ。できるだけ速やかに問題を解決しなければならない」
ハロッズ侯爵が手を挙げて発言した。
「今回の聖女誘拐事件については大変遺憾でしたが、救出に向かった騎士たちには怪我も無く、無事に解決できました。シルバー辺境伯についてなのですが・・・」
ユリア第一王子が話を遮った。
「キアヌから聞いている。聖女の誘拐は身代金目当ての夜盗の仕業であり、聖女を守ろうとしたシルバー辺境伯の息子と嫁、母親が命を落とした。残念な事だが聖女を守ったのだ。心残りは無かろう。一人残されたシルバー辺境伯は寂しかろうがな」
「殿下・・・感謝申し上げます」
ユリアはにっこりと頷いた。
「それで?彼はなんといっているのだ?」
「ジャンは・・・いえ、シルバー辺境伯は各地の辺境伯を取り纏め、不可侵条約締結に向けて命を賭けると申しております」
「うむ。彼ならば安心して委ねられよう。ひとつ光明が見えたな。それで?水害対策の方はどうだ?」
ロバート伯爵が立ち上がり、テーブルに大きな地図を広げた。
「過去の水害発生地域を徹底的に調査いたしました。我が国における水害の元凶はアルベッシュ国にあるこの山・・・ルイーダ山だと推察できます」
キアヌ殿下が目を見張った。
「我が国だけの問題ではないのか」
「はい・・・と申しましても、実害を被るのは我が国の民のみです。今のところ川下にある我が国の農耕地に放水路を作り対策していますが、根本的な対策とは言えません」
「具体的に説明せよ」
「はい、この左右の川は幅が狭く浅くて流れは緩やかです。そしてこの真ん中の川は切り立った崖の底を流れており、落差も大きく激流といっても良いほどなのですが、普段は流れが速いだけでさほどの水量ではありません」
「それで?」
キアヌが先を急がせる。
「ルイーダ山に降った雨が三本の川に流れ込むのですが、左右の川が増水すると真ん中の川に流れ込みます。それが一気に駆け下り村を飲み込む・・・これが水害の原因です」
ユリア第一王子がじっと目を閉じて考え込んで口を開いた。
「真ん中の川だけ深い谷・・・もしかしたら真ん中が本来の主川だったのではないか?左右は支川?人工的なもの?だから浅い・・・」
ワンド伯爵が手を挙げた。
「その予想は正しいと推察できます。ここをご覧ください」
ペンで地図を指す。
「この支川の横はかなり広い農耕地です。おそらく農業水を引き込むために作った川ではないでしょうか。畑の土地は一段高くして、水車で水を引き込むのかもしれません。一段高くしているのは余分の水を川に戻すためでしょう」
「だとすると・・・ルイーダ山の保水量を超えたものは一気に真ん中の川に流れ込むのか」
ロバート伯爵が頷きながら発言する。
「しかも我が国に入る直前に滝つぼのようになっている場所があり、数十年に一度の割合で、この滝つぼに溜まった土砂と一緒に大量の水が一気に押し寄せるのです」
「土砂を含んだ鉄砲水とは・・・しかもその場所が他国となると・・・厄介だな」
ずっと黙って聞いていたティナが手を挙げた。
「滝つぼがあるのですね?その周りはどうなっているのでしょうか」
ロバート伯爵が応える。
「周りは切り立った崖です」
地図の余白に絵をかいて説明した。
その絵を見てティナはにやっと笑った。
「そこにダムを作りましょう。アルベッシュ国と共同開発するのです」
「ダム?」
「ええ、ダムです。一旦そこに貯水して、災害にならない程度の水量に調節して排水するシステムを構築します。これなら土砂を溜め込むこともないので鉄砲水は防げるはずです」
全員の頭の上にはてなマークが浮かんでいるのがティナには見えた。
「これにはアルベッシュ国の協力が絶対に必要です。う~ん・・・出来れば費用は折半してほしいところですよね。あっちはお金持ちでしょう?それにルイーダ山への植林も必要ですし」
「植林?」
全員があっけにとられている。
「やることいっぱいあるなぁ・・・そうですねぇ・・・何なら私が言って話してきましょうか?ちょいと知り合いもいるし」
「「「はぁぁぁぁ?」」」
「あれ?へへへ・・・もしかして私って自分の首締めてるかも?」
ティナが頭をポリポリと掻く。
その横でナサーリアはぐっすりと眠っていた。




