作戦開始
「お嬢様!ティナロアお嬢様!先ぶれ伝令の騎士が玄関に!」
(来たわ!)
「騎士様ですって?早くお通しして!すぐに参ります」
慌てているが上品さを失わない程度の速度で階段を降りた。
正面玄関が大きく開かれ逆光になって顔は見えないが下調べ通りの色合いの制服に身を包んだスマートな騎士が胸に手を当てて立っている。
「お待たせいたしました。私はランバーツ伯爵家の留守を任されております二女のティナロアですわ」
「伯爵令嬢でしたか。急な訪問にもかかわらずご丁寧なご挨拶を賜り恐縮です。私はアルベッシュ王国第二騎士団の騎士ウェンディア・ロンダートと申します。我が国第一皇子であるハーベスト殿下より書状を預かって参りました」
「まあ、それは・・・我がベルツ王国の強力なる同盟国のアルベッシュ王国の第一皇子様からご書状を頂戴するとは・・・私が留守を任されておりますので開封いたしますがよろしいでしょうか?」
「勿論です。できればお返事も頂いて帰るよう言われております」
「畏まりましたわ。少々お待ちくださいませ。あっ・・・ビスタ、リアにお茶をと」
「畏まりました、ティナロアお嬢様」
騎士は毅然とした態度のティナに好意的な視線を向けていたが、とにかく何の飾りも無くガランとしたロビーに少なからず違和感を覚えているようだった。
ティナはすぐにその場で開封し、手紙の内容を確認した。
川の氾濫による交通遮断の回復までの間、敷地内に駐屯する許可を要請するものだった。
(なるほど・・・神の言う通りの展開ってわけね)
「騎士様・・・お待たせいたしましたわ。ご書状確認いたしました。我が国のために皇太子殿下御自らのご出兵、心より感謝申し上げます。ランバーツ伯爵家にご滞在いただけるとは僥倖でございます。どうぞお気をつけておいでくださいとお伝えくださいませ」
「伯爵令嬢・・・ご了承のお言葉ありがとうございます。すぐに戻り皇太子に伝えます」
「あっ・・・騎士様。お茶をご用意いたしましたので、少しだけでも渇きを潤してからにしていただけませんこと?でなければ申し訳が立ちませんわ」
「いえ・・・あっ!それでは頂戴いたします」
固辞するのも悪いと考えたウェンディアはティナに誘導されるまま窓際に置かれた小さなティーテーブルに向かった。
あまりにも家具が無いと感じたが、口に出して聞く訳にもいかず黙って椅子に座る。
ティナが恐縮した姿で俯いたまま話し始めた。
「家具が無さすぎて驚いておられることと存じます・・・これには少しわけがございまして」
「いえ、ゴテゴテと飾り立てておられるより素敵なロビーだと思います。そして何より掃除が行き届いて気持ちがいい空間ですね」
「そう言っていただけると涙が出るほど嬉しく思います。私共の事情は皇太子さまに直接お話ししたほうがよろしいのでしょうか?」
「よろしければ承って伝えますが・・・」
「そうしていただけますか?実は・・・大変お恥ずかしい話ですが、父ランバーツは少々重篤な病で・・・義母と姉、妹を伴って義母の実家に療養に行っているのです。それが・・・費用を捻出するために家具を・・・手放してしまったのですわ・・・ううう・・・」
ティナは大げさにならない程度に泣き真似をした。
「それでお嬢様だけが留守番に残っておられるのですか?」
「ええ・・・私だけ正妻の子ではございませんので・・・本当にお恥ずかしい・・・どうぞ皇太子さまのご気分が悪くなられないように・・・良しなにお願いいたします。このような状況ではございますので、むしろ遠慮なく屋敷をお使いくださいとお伝えください」
「‥‥‥‥了解しました。喉も潤いましたので失礼いたします。おそらく1時間以内にはこちらに到着いたします。それでは」
「はい。お待ち申し上げております・・・」
騎士は貴族然とした美しい礼をして去って行った。




