悪霊退治
今日は神界の古びた社に纏わりついている悪霊の駆除だ。
高さ5メートルほど、幅と奥行きが4メートルほどの社。粘着質の悪霊がベットリと張り付いて、腐った匂いがしている。
ヘドロ状になってやがる。
シロちゃんが右手に狐火を出す。悲しい事にライターの火の大きさくらいだ。
狐火を悪霊に翳すと簡単に躱される。反対に反撃を喰らう有り様。
「ナギー! 何とかしてぇ!」
俺は祖父に習った呼吸法を使い、神刀に気を入れる。神界で刀に気を入れると刀が光る。
どっかのアニメの剣みたいだなっと思いながら悪霊を斬りつけていく。切り口から気が広がり、纏わりついていた悪霊が剥がれていく。
なかなか範囲が広く、悪霊を退治するまで小一時間ほどかかった。
どうしても悪霊退治をしていると、悪霊が飛び散り装備を汚してしまう。シロちゃんは頭から汚れまくっている。
塩を振りかけ穢れを落としてやる。
下を向いていた耳がピンとしてきた。白狐は穢れを落としてやると気持ちが良いらしい。
いつもは穢れを払ってやると元気になるシロちゃんの尻尾が項垂れている。シロちゃんの機嫌は尻尾を見ればすぐ分かる。
「どうした? 悪霊の退治も終わったぞ。次行くぞ」
そう言いながら俺は霊片を拾う。
15個あったから悪霊が固まっていたんだな。霊片の大きさは大した事ないからあまり効率の良い悪霊退治じゃなかったか。
霊片を拾い終わってもシロちゃんの尻尾は項垂れている。俺は一つため息を吐き言葉をかける。
「シロちゃん、まだまだ始まったばかりだよ。シロちゃんは神格を上げていくんだろ。一度や二度上手くいかないからといって落ち込んでる暇はないんじゃないかな?」
シロちゃんはキツい目をオレに向ける。
「分かっているわよ! そんな事! それでもここまで何もできないと落ち込むわよ!」
「シロちゃんができない事は俺がやってやる。2人ならば何でもできるはずだ。そんなに俺の事が信用できないか?」
唇を噛むシロちゃん。
弱々しい声を出す。
「そんな事ない。ごめんなさい。ナギばかりに頼っている自分が情けなくて……」
「そこはごめんなさいじゃなくて、ありがとうって言って欲しいな。俺の祖父さんとシロちゃんの母親はパートナーだった。シロちゃんは金狐だったお母さんのようになるんだろ。俺も俺の祖父さんのようにシロちゃんを助けるからな」
俺はシロちゃんに笑顔を見せる。シロちゃんの瞳に光が戻った。
「もう弱音は吐かないわ。さっきの言葉はもう忘れて」
シロちゃんは齢19歳の白狐である。
狐は100歳くらいになると地狐になる。しかしシロちゃんはまだ20歳にもなっていない。
あと80年待つ必要があるのか?
実はそんな事はない。神力を高める事で地狐になったり、その上の仙狐になる事も理論上は可能だ。神界や現実界での悪霊退治などで霊片を集め、神格管理局に霊片納品すれば神力を得る事ができる。
今は神界に蔓延る悪霊を退治して神力を上げているところだ。
一緒に神界で悪霊退治をしていると何となくわかってくる。
シロちゃんは狐神界の中では標準クラスだ。人間に幸福をもたらすと言われている白狐ではあるが、悪霊退治のような荒事には向いていない。
これでは効率的に神力を得る事ができない。今はシロちゃんの眷属になった俺が荒事担当だ。
また、狐が人間を眷属にするのは稀だ。
人間を眷属にできればエリートコースに乗れる。しかし人間を眷属にするには、相当に相性が良くないとダメで血筋が特に大事である。
我が家、力徳家は狐神界では超有名な家との事。特に俺の祖父さんが伝説の眷属として知られている。俺の祖父さんを眷属にしていたシロちゃんの母親は金狐になった狐である。
通常白狐は歳を経ると地狐、気狐、仙狐、天狐と神格が上がっていく。
それがシロちゃんの母親は系統の違う金狐となった。
金狐になる条件は分かっていない。それ故に伝説となっている。シロちゃんの母親は誰も寄せ付けないほどの神力を持っていたそうだ。
シロちゃんは力徳家の血筋を引く俺を眷属にしている。
その為、他の狐のやっかみが酷い。今日も神格管理局に入ると絡まれてしまった。
「シロ、あんた少し調子に乗ってるんじゃない。劣等生だったあんたが人間の眷属なんて生意気なのよ。私のような優秀な善狐だけが人間を眷属にして良いのよ」
絡んできたのは、顔がキツめの女性だ。
上が白色、下が赤色の巫女装束を着ている。狐耳と尻尾から白狐と分かる。
「別にカナデに迷惑かけてないでしょ。私が誰を眷属にしようと関知しないで」
反論したシロちゃんを無視して、俺の顔を見るカナデと呼ばれた女性。
「あんたも由緒ある力徳家の人なら、こんな駄狐の眷属なんてやってないで他のにしたら。私が紹介してあげても良いわよ」
「悪いけど、俺はシロ以外の眷属になるつもりは無いから間に合っているよ」
素気ない俺の返事を小馬鹿にした感じで言葉を返される。
「あら、貴方も案外馬鹿なのね。少しは私の眷属を見習ったほうが良いわね」
「カナデ様、そろそろ行きましょう。無駄な時間です」
カナデの後ろに控えていた人間の男性が声を出す。身体も目も細い男性だ。
「そうね。駄狐の相手をしていてもしょうがないわね。行きましょう、直人」
そう言ってカナデ達は神格管理局を出て行った。
「あのいけ好かないのはシロちゃんの友達かい?」
「妖狐高等学校の同級生よ。カナデは首席だったの。眷属は久礼家の血筋の名門。同期の中でも地狐になるのが一番早いと言われているわ」
ふーん。あれが久礼直人か。噂には聞いたことがある。
なんか俺達を見下されていたようだな。
狐の眷属になれる家は現在、力徳家、久礼家、明智家の三家しか残っていないそうだ。
久礼直人は久礼家の長男で優秀な眷属と言われている。
同じ眷属として負けるわけにはいかないな。
「シロちゃん、アイツらより先に地狐になるぞ。俺もできるだけ協力するからな」
シロちゃんの目がヤル気になった。
「それなら受付で効率の良い悪霊退治がないか確認してくるわ」
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