眷属六家
取り敢えず香澄を応接室に通した。
ナラクさんもついてくる。
麦茶を出してソファに座る。
香澄は微笑みを浮かべている。
「いったい何の用だ?俺は香澄に用はないんだが」
香澄は微笑みを崩さずに喋り始める。
「あら、冷たいわね。元カノが家に遊びに来ただけじゃない。もっと優しくしてほしいわ」
「香澄、お前が俺に房中術を使ったのは分かっている。そんな危ない女を近くにいて欲しいとは思わないな」
「あら、バレてしまったの?でもナギも気持ち良かったでしょ。それなら良いんじゃない?」
「そういう問題じゃないだろ。そんな変な術で心を操られるのは真っ平だよ。用事が無ければ帰って欲しいんだけど」
「急ぎ過ぎる男は嫌われるわよ。ナギはもう少し女性の扱いを覚える必要があるわね」
そこで香澄はナラクさんに向き直った。
「空狐のナラク様ですね。私は尼義香澄と申します。ナラク様は我々野狐の里と狐神界の中央との争いには関知しないと言う事で間違いないですか?」
「妾はそんな些細な事には関心がないのじゃ。好きにするが良い」
「それを聞いて安心しました。空狐であるナラク様が敵対するとなると終わりですから」
香澄はあらためて俺を正面から見据える。
香澄が妖艶に微笑む。
俺の心がざわめく。
香澄の真っ赤なルージュに目が吸い寄せられていく。
目が離せない。
「破っ!」
ナラクさんの声で我に変える。
「術を使うのは感心しないのじゃ。一生ナギを人形にして操るつもりなのか?説得するなら真面目にやる事じゃな」
俺はまた変な術をかけられそうになっていたのか?
香澄と相対するのはヤバくないか。
そんな俺の心中を見透かしたようにナラクさんが口を開く。
「ナギもこんな初級の術にかけられそうになってどうするのじゃ。汝の心にある揺るぎない想いをしっかりと思い出すのじゃ。それで房中術を自ら解いたんだろ」
月光を浴びて凛とするシロちゃんの姿。
掛け替えの無い大事な俺の思い出。
シロちゃんと共にある、それが俺の揺るぎない想い。
俺はナラクさんに頷いた。
俺の心は穏やかになっている。
「今度からは言われる前に気付くのじゃぞ。全く手がかかる弟子じゃ」
一つため息をつくナラクさん。
不肖な弟子ですいません。
俺は香澄を正面から見る。
もう大丈夫だ。
「さすがに空狐の前で術を使うのは馬鹿だったわね。正面から口説く事にするわ」
香澄は悪びれる様子もなく話し出す。
「ナギ、率直に言うけど私たちの仲間にならない?」
「お前らの仲間?さっき、我々野狐の里って言っていたな。野狐の里の陣営になれって事か?」
「それで間違いはないわ。狐神界をひっくり返すのよ」
「何のためにそんな事するんだよ」
「それは仲間になってからじゃないと残念ながら教えられないわ」
「それじゃ無理だな。こちらのメリットもデメリットも判断が付かないじゃないか」
「メリットはあるわよ。あなたのパートナーのシロのお母さんの情報を得る事ができるわ」
なるほど、それは確かにそれはメリットだな。
ナラクさんが言葉を挟む。
「香澄といったか。尼義家の者だったな。デメリットを提示しないのは不義理というものじゃ。お主が喋らないなら妾から話す事になるがどうする?」
香澄は無表情で黙り込んでしまった。
ナラクさんが話し始める。
「野狐の里は黒狐の集まりじゃ。これは善狐の代表である白狐と対となっておる。ナギが野狐の里に与するのなら、シロの眷属をやめるか、シロが黒狐になるしかないのじゃ。白狐が一度でも黒狐になったら元には戻れん」
俺がシロちゃんの眷属をやめる事はあり得ない。
シロちゃんを善狐じゃない黒狐になるのも選択肢から排除される。
なんだ、無理な話じゃないか。
「香澄、全く野狐の里の陣営に入る意味を感じないぞ。これ以上は意味のない話し合いになるんじゃないか?」
香澄は無表情のままだ。
そしてゆっくりと口を開く。
「ナギ、貴方がどこまで知っているのかは知らないわ。妖狐の眷属になれる血筋の家は知っている?」
「あぁ、ウチの力徳家と久礼家、それに明智家の三つだろ」
「その他に高仁家、上信家、そして尼義家よ」
あと3つもあったのか。
尼義家もか。
香澄もやっぱり眷属なんだな。
香澄の話が続く。
「眷属のなれる家には明確な格があってね。一番上が力徳家、次が高仁家、その後は久礼家、上信家、尼義家、明智家の順番になるわ。現在、狐神界の中央に与しているのは力徳家と久礼家、明智家、野狐の里は高仁家、上信家、尼義家よ」
三対三か。
バランスが取れているのか?
香澄が妖艶な笑みを浮かべる。
「今は危ういバランスなのよ。それが貴方の存在ね。一番力が強い力徳家。血筋は貴方だけ。貴方が野狐の里に協力するだけで、そのバランスは容易に崩れるわ。協力できないのなら排除する選択もあると理解はしておいてね。私みたいに行儀の良い人ばかりじゃなくて、野蛮な人も多いのよね」
「ご忠告、有り難く思う事にするよ。もうお帰りで良いかな?」
「そうね、今日の勧誘は諦めるわ。いつでもこちらの陣営にきたくなったら連絡をしてちょうだい。携帯の電話番号は変わってないから」
そう言って香澄は帰って行った。
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