意外な来客
早朝に起床し、道場の掃除をする。
道着に着替えて朝の鍛錬を始める。
呼吸法を一つ一つ確認していくが、香澄の顔が頭に浮かんで集中ができない。
もう終わった関係じゃないか。
高校二年の冬の深夜、月明かりの下で凛とした狐姿のシロちゃんを見た。
またシロちゃんと会いたい。
ただそれだけの感情。
あの時の渇望を忘れてはいけない。
もう一度シロちゃんに会う為には生活全般を全て変える決意をした。
会えるかどうかわからなかったが、それを信じて生活を改善した。
また堕落した生活に戻るつもりはない。
自分の気持ちを再確認すると集中力が戻ってきた。
一通りの呼吸法を行い、刀を握る。
清浄な空気に包まれる道場。
気合いを入れて刀を振る。
少しずつ無我の境地に足を踏み入れた感じがする。
まだまだ邪念が多いが。
朝食を軽く食べ、丁寧に庭の祠を掃除する。
ついでにそのまま庭掃除を始めた。
そこそこ広い庭だ。
業者を入れる事も考える必要がありそうだな。
昼近くまで庭掃除をしていた。
お昼ご飯はチャーハンを作って食べる。
独り身の料理なんてこんなもんだ。
午後は家の中の掃除をしようと思っていたら来客のチャイムが鳴った。
玄関の扉を開いて驚いた。
そこにいたのはシロちゃんの妖狐高等学校の同級生のカナデとその眷属の久礼直人だった。
カナデは前回と同じように上が白色で下が赤色の巫女装束を着ている。
顔は整っているが、少しつり目がちの顔であるためキツい印象を受ける。
髪は白色、頭に狐耳、お尻に尻尾が生えている。白狐の特徴だ。
その眷属の久礼直人は細身の身体に細い目をしている。今日は日曜日なのにスーツを着ている。
カナデが口を開く。
「お邪魔して宜しいかしら。力徳ナギさん?」
予想もしない人物の来客のため、固まってしまった。
取り敢えず、応接室に通す。
直人からは手土産に東京の銘菓を渡される。
俺は冷たい麦茶を出して口を開く。
「カナデさんと直人さんで良いんだよね。俺の記憶が間違っていなければ、君達が俺の家を訪ねて来るほど親しくないと思うのだけど」
カナデが俺の言葉を気にするふうでもなく普通に声を出す。
「シロが地狐になるのを聞きました。どのようにしてそんな事が可能なの?それを確認しに来たんです」
言って良い情報なのかな?
教えたらカナデも荒行に行くかもしれない。
怪我されても困るしな。
「神格管理局に聞いたらどうですか?こちらがカナデさんに教える義理はありませんから」
カナデの目が一層吊り上がり、怒鳴り声を上げる。
「その神格管理局に聞いても教えてもらえないから、こんな田舎まで来たのですよ!言えないのですか!どうせズルでもしたのでしょう」
少しカチンときた。
しかしこの程度の煽りで情報を漏らす俺ではない。
「別にカナデさんがどう思おうとこちらには関係はありません。ただシロちゃんが地狐になるのは決定してます。それだけですよ」
歯軋りをするカナデ。
横から直人が口を挟む。
「ナギさん、どうか教えていただけませんか?お願いします」
殊勝な態度だな。
少しだけ心が動く。
俺って単純。
直人に質問をしてみる。
「神格管理局の局長代理のサクラさんの眷属は久礼秀一って言っていたけど、直人さんの親戚?」
「父親です」
「それなら秀一さんに聞いたら良いんじゃない?わざわざ東京から仙森市まで来る必要はないと思うけど」
悔しそうな直人の顔。絞り出すように声を出す。
「父には既に聞いています。お前らにはできない事だから忘れろと言われました」
「ベテランの眷属である秀一さんがそう言うならそうなんでしょ。忘れるのが一番良いと思うけど」
カナデがソファから立ち上がり怒鳴り出す。
「あなた方に出来て、私達ができないはずが無いでしょ!何を馬鹿な事を言ってるの!」
ヒステリックな女性の対処は簡単だ。ほっとくに限る。
「それは俺に言わないで秀一さんに言って欲しいな。あ、サクラさんはカナデさんのお母さんなんでしょ。サクラさんに聞いてみれば良いんじゃない?」
顔が赤くなるカナデ。
もう聞いているけど嗜められた後なんだろうな。
まぁ暇つぶしにはなったか。
そろそろ帰ってもらおうかな。
「俺の口からその情報を2人に話したとする。君達が無理をして怪我でもされたら恨まれる可能性があるからね。メリットが全くなく、デメリットしかない。教える馬鹿はいないんだよ。そろそろ帰ってもらっても良いかな?」
怒りを増したカナデを直人が宥めながら我が家を後にした。
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