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月光の狐  作者: 葉暮銀
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プロローグ

 俺は力徳(りきとく)ナギ、23歳。(わけ)あって神界に来ている。

 目の前には大きさ50㎝ほどの紫色の火の玉。所謂(いわゆる)、悪霊がいる。

 俺は神刀を振るい一刀両断にする。周りにはまだ10体以上の悪霊が浮いている。気合いを入れ直し、刀を握り直す。

 今日はまだまだこれからだ。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「ただいま、シロちゃん」


 会社から帰って俺が玄関の扉を開けると、飛んでくる白いキツネ。俺の同居人だ。

 同居人と言ったのには訳がある。彼女はキツネではないからだ。どちらかと言うと人に近い。

 何せ神様だからだ。


「晩御飯は生姜焼きにする予定だから」


 僕の言葉に反応するように白いキツネは光りながら人型に姿を変える。

 その女の子が口を開く。


「ナギのつくる料理は美味しいから好きよ」


 シロちゃんは狐姿から人型になると何も着てない。さすがにこちらが困ってしまう。


「それより服を着てくれ。あとシロちゃんは食器と箸を並べてくれな」


「了解です! それならお肉を少しサービスしてね」


 隣の部屋で服を着てくるシロちゃん。

 身長が160㎝、白い長い髪、頭にはキツネ耳、巫女服を着ている。

 特別に加工されている紫色の袴から白い尻尾が出ている。色白の目鼻立ちがしっかりしているお目々ぱっちりの可愛い女の子だ。

 その後、食器を並び終えたシロちゃんはフライパンの中身を覗きにきた。


「シロちゃんは神様だから、食事を与える事は奉納って言えば良いのかな?」


「ナギ、そんなくだらないこと言ってるとハゲるよ」


 微妙に傷つく23歳の俺。

 焼き上がる生姜焼き。シロちゃんの尻尾が激しく横に振れている。皿にメインディッシュの生姜焼きを乗せ、キャベツとポテトサラダを添える。ご飯と味噌汁と漬け物を用意して出来上がりだ。


「はい、できたよ。召し上がれ」


 美味しそうに食べる可愛らしい女の子。

 こうやって見てると神様とは考えられないなぁ。


「今日はどうするの?」


 俺の問いに口の中のご飯を飲み込んでから話すシロちゃん。


(おだ)て山と言うところで悪霊が騒いでるそうだから、それの討伐かな」


「結構、時間かかりそう?」


「煽て山はそれほど大きな山じゃないから悪霊はすぐに見つかると思う」


「分かった。お風呂に入ってすぐに用意をするよ」


「ナギ、いつもありがとうね」


「シロちゃんが立派な神様になるためだからなんて事ないよ」


 そう言って俺は風呂に入りに行く。

 裸になり、身体を隅々まで洗い、最後に裏庭にある井戸からの冷たい水を頭から被り終了。

 裸に白い作務衣を着て、肩から塩を振りかける。

 自室に行くとシロちゃんの用意は終わっていた。


 部屋の電気は消えている。

 布団は洗い立ての白いシーツに変えられている。

 俺は身体を横たえ目を閉じた。

 衣擦れの音がする。

 俺の鼓動が高まっていく。

 身体に重さがかかる。

 柔らかい感触が伝わってくる。


「ナギ、もっとリラックスして。そうじゃないと神界に行けないわ」


 耳元でシロちゃんの甘い声がする。

 神聖な匂いだ。この匂いはどう形容して良いかわからない。

 身体が浮いていく感覚に包まれていく。

 とても気持ちが良い。

 そして唇に柔らかい感触、その瞬間背中に電気が流れる感覚。

 意識が深く落ちた。




「ほら、ナギ、早く起きて!」


 俺の頭が覚醒していく。


「あ、神界に来たんだな。用意するよ」


 ここはシロちゃんの神界における(やしろ)である。

 (きつね)神界(しんかい)の片隅に存在している。大きさは6畳くらいか。

 はっきり言って立派とはいえない。

 俺は部屋の隅にある装備を身体に装着していく。


 刀は二束三文の神刀。神刀だけど二束三文……。身体に付ける装備も安物だ。


「早く行くわよ、ナギ」


 シロちゃんは既に用意が終わっていた。

 白いストレートの長い髪をポニーテールにして後ろにまとめている。上が白色、下が紫色の巫女装束。右手には薙刀を持っている。凛々しい顔付きがいつもの幼さを感じさせない。

 用意ができ、社の外に出た。


「ナギ、場所はここから3キロくらいね。しっかりついてきてね」


 シロちゃんが走ると、その外に出ている白い尻尾が左右に揺れる。

 俺は揺れる尻尾に(いざな)われて、シロちゃんの後を追う。

 10分ほど走ると山道に入った。

 シロちゃんが目を閉じて集中している。


「ナギ、こっちよ!」


 シロちゃんは山道を離れ、ケモノ道に入っていく。

 5分ほど行くと開けた場所に出てくる。

 開けたところの中央に黒い(もや)が集まっている。その周囲は紫色に発光する物体が飛び交っていた。

 低級の悪霊である。全部で20体以上はいそうだ。


「よし、行くわよ!」


 そう言ってシロちゃんは悪霊に薙刀を振り上げる。悪霊はひらりひらりと、その薙刀を躱していく。


「むきぃー! 早くナギも手伝ってよ!」


 その声に応えるように俺は安物の神刀を使って悪霊を一刀両断にしていく。

 上半身の身体は最低限の力でリラックスする。ゆったりと動き、必要な力で刀を振っていく。

 俺は数分で悪霊は全て斬り捨てた。その間、シロちゃんの薙刀は全て空振りしていた。

 まぁいつもの事だ。


「ほれ、終わったぞ」


「はぁ、はぁ、はぁ」


「今日はこれで終わりかな?」


 息を落ち着かせてからシロちゃんは話す。


「ちょっと待ってね。妖気が残っていないか確認してみる」


 そう言ってシロちゃんは目をつむる。

 1分ほどでシロちゃんは口を開く。


「あっちの方向から妖気を感じるわ。それじゃ霊片を拾ってから行きましょう」


 神界で悪霊を倒すと八面体の細長い欠片に変わる。霊片(れいへん)と言われている物だ。

 この程度の低級悪霊の場合直径が6㎝くらい。とても小さい。

 拾った霊片は全部で24個あった。


 それから六時間くらい山の中で悪霊を倒していった。どれも低級の悪霊ばかり。

 ヘトヘトになり山道に出る。今日の討伐は終了だ。

 街への帰り道、シロちゃんが暗い顔をしている。


「どうした? お腹でも空いたか?」


「失礼ね、いつも食べ物ばかり考えているわけじゃないわ! でもこんな事をやっていて立派な神様になれるのかなって考えていたらね……」


 俺は暗い顔をしているシロちゃんの頭に手を置く。


「何事も一つ一つだ。大丈夫だよ。眷属の俺が保証してやるよ」


 シロちゃんの顔が暗い顔から笑顔に変わる。


「そうね。ナギがいるなら立派な神様にならないとね」


 それから2人で手を繋ぎながら狐神界の街に帰った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 狐神界の街の中央には大きな社が建ち並んでいる。有名な神様の社ばかりだ。

 少し歩くと神格(しんかく)管理局の木造二階の建物が見えてくる。

 はっきり言って神格管理局は神界の役所だ。

 シロちゃんは霊片納品所の受付に行く。


「もう少し神力をもらえないの」


「こちらは規定通りでしか処理ができません。なんと言われようと、変わる事はありません」


 ばっさりとシロちゃんの言い分をぶった斬る受付の女性。少し粘っていたシロちゃんだが諦めたようだ。肩を落としてこちらに戻ってくる。


「神力はこれにしかならなかったわ。これじゃ全然ご利益を与えられないわ」


「それでも少しは神力は上がったんだろ。まだまだこれからさ。朝ご飯作ってやるから家に帰ろうか」


 俺の言葉にすぐに顔が明るくなるシロちゃん。


「今日の朝ご飯は何? パンよりご飯が良いなぁ」


「それならウィンナーがあるから、それを焼いて後は目玉焼きだな」


「目玉焼きは卵二つにしてね」


 シロちゃんは案外チョロい。

 神界でも朝日が昇ってくる。それから街外れの狐神界のシロちゃんの社に戻った。

 俺が神界から現世に戻るのは楽だ。深呼吸を2〜3回して瞑想する。1分間ほどで身体の重さが感じられるようになる。目を開くと自分の家に戻ってきている。

 横にはシロちゃんがいる。


 頭も身体もスッキリしている。

 どれ、目玉焼きでも作るか。

 今日も俺の一日が始まる。

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