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ギルド職員 アロン=ベイル

 モンスターに被害を受け、討伐してほしい依頼人と、依頼を受けてモンスターを討伐することで生計を立てている冒険者の仲介人の立場となる『ギルド』という機関にアロン=ベイルは所属している。


 アロンは、自身のスキルのことから「冒険者にかかわる職に就いた方がいい」と考えたため、この職に就いているが、自分の働き以上に評価されている現状に申し訳ない気持ちでいっぱいになっている。

 というのも、そのスキルの説明から面接の際には難儀したが、下手に言語化するより実際に見せた方が速いと、テキトーな冒険者を捕まえてスキルを使用した。すると、勝手に成長させられた冒険者は、これといった才能のないありふれた新人であったにもかかわらず、数か月もするうちにはベテラン冒険者たちが数人のパーティーを組んでようやく討伐できるか、といったレアモンスターを単騎で討伐してみせたのである。


 このことからギルドの上層部は、アロンを高く評価し、ギルドの本部である首都ホッグホッグにて新入社員ながら幹部クラスの給料となり、通常業務もあまり覚えていないままいつの間にかできた部下への指示や、冒険者へのアドバイザーといった業務を行うこととなった。


 このアドバイザーという業務、率直に言ってしまえば冒険者に対するスキルの使用である。アロンのスキルは、ただ冒険者のスキルを成長させるのではなく、十三の夜よりも明確な対象者のスキル使用時のイメージを見ることができる。いや、実際には夢の中で対象者からスキルの効果や使用法を聞き、夢が覚めた後に冒険者にその内容を伝えているため、『スキル使用時のイメージ』どころか未来の対象者と話しているのではないか、と『十三の夜、予知夢説』をアロンはひそかに信じているのだが、対象者にこのことを話しても、「あまりご自身を謙遜しないでください。たとえそれが事実だとしても、今のわたしたちの力は皆、あなたのおかげですよ」と皆一様にまるで聞き入れてくれない。

 そして、アロンのアドバイスを受けた冒険者たちは、(一部効果がないものもいたが、)メキメキと実力を伸ばして、次々に結果を出していったため、アロンのギルドでのポジションは盤石なものとなっていった。


 しかし、早期にアロンのスキルの有用性に気づいていたギルド上層部は、アロンのスキル使用には上限があることから、アドバイスの対象者に、才能豊かでかつ現在伸び悩んでおり、新たな力を求めんと狂ったようにモンスターを駆逐して回る、いろんな意味で著名な冒険者ばかりを優先して選んでいた。そのため、もともと才能あふれる彼ら彼女らが、アロンのアドバイスによって更なる才能が開花し、結果を出すことなどハナから分かりきっていたことである。にもかかわらず部下や冒険者からの評価はうなぎのぼりでとどまることを知らず、一部ではアロンのことを現人神のように平伏するものまで出てきている始末である。


「こんなハズじゃ、なかったんだけどな」


 アロンは執務室兼アドバイス室となっている一室で、大きくため息をついた。『他人を成長させるスキル』、最初は正直ハズレスキルを引いてしまったなと思っていた。どうせなら自分も炎や雷を出せる魔法を使ってかっこよくモンスターを倒してみたい。そんな男の子なら誰もが夢見るヒロイックストーリーをあっさりと叩き潰され、よくわからないスキルをつかまされたと思っていれば、入社直後に幹部クラスになって評判もうなぎのぼりで逆に気味が悪い。もしかすれば自分はまだ、十三の夜の夢のなかで囚われているのではないか、毎晩床に就き、目が覚めても現実はイージーなサクセスストーリーで憂鬱になる。


 アロンが一人執務室でぼんやりと天井を眺めていると、執務室のドアがコンコンと子気味いい音で二度鳴った。アロンは一度咳払いをした後、「入ってくれ」というと、腰まで伸ばしたブロンドが目に付く細身の女性が入ってきた。


「アロン様、本日アドバイザーの業務が一件ございます。冒険者の方がすでにいらしているのですが、お連れしてもよろしいでしょうか」


 彼女の名前は、イザベラ = バイロン。三年ほど前にアロンがアドバイスしたことがある冒険者で、ギルド上層部から優先的に選ばれた著名な人物であり、通り名は「鮮血の女帝」。化粧にモンスターの返り血を使っているのではないか、と噂されるほどに苛烈だった彼女は、アドバイスの際にも血濡れの戦闘服でぼとぼとと血を垂らしながらこの執務室へとやってきた。そのときの彼女は、いかにも「こんな下らないことはさっさと終わらせて早くモンスターを刈りに行きたい」と心が読めるスキルを持っていなくても分かるくらいにあからさまだった。アドバイス中も貧乏ゆすりは止まらなかったし、彼女の夢から覚めたのも自然にではなく、彼女の腕力によるものだった。


 しかし、彼女の実力は才能(スキル)だけではなく、彼女自身の知性も作用していたのであろう。アロンが夢の中で聞いた彼女のスキルの正しい使い方を説明しようとすれば、三を説明するまでもなく十全に理解して、見惚れるようなカーテシーをした後、飛び立つように執務室を後にした。アロンは砂時計の砂がすべて落ちきるほど硬直した後、紅に染まった執務室をもとの青に戻すべく立ち上がったのだった。


 そんな彼女にどのような転機があったのだろう、アロンがアドバイスをした一ヶ月ほどたったころ、いつものモンスターの返り血に染まった深紅の出で立ちとは正反対の、深いブルーのドレスを身に纏い、胸元には大きなサファイアを携えて、一つの木箱を持ってこの執務室へとやってきた。初めは誰がやってきたのか分からなかったが、彼女が行った美しいカーテシーによってようやくアロンの鈍い頭でも見当がついた。


「先日のアドバイスの席にて、大変なご迷惑をおかけしました。非礼このうえないことと、謹んでお詫びを申し上げます」


 アロンはあわてて、


「気にしないでください、誰だって素人にアドバイスしてもらいたいなんて思いませんから。ましてや一線級で働く冒険者の方ならなおさら」


 と気にしていないことを伝え、頭をあげてもらうよう言った。


 以外にも彼女はその願いをすぐさま受け入れ、頭を上げたかと思いきや、曰く自分は思い立ったが最後、止まらなくなってしまう性質である。自らの欲望に対して正直で、服屋に行けば端から端まで買い上げてしまう。そのおかげか、モンスター討伐の際に新品のドレスを着て行って、返り血でダメにしてもスグに替えが用意できるなどなど、先ほどの見惚れるようなカーテシーをしていた令嬢はどこへやら、そこには鮮血の女帝や青の令嬢の姿はなく、アロンと同じくらいの年頃の十代の少女がころころと話題を変えながら、鈴のような笑い声をあげていた。


 一通り話し終わったのか、鈴の音が鳴りやんだ執務室で彼女は自らの手の中にある木箱に気づいたのか、「あっ」と声をあげた。


「そういえばその木箱、気になっていたんですけどなんでしょうか」


 アロンがそうたずねると、イザベラは申し訳なさそうにアロンに木箱を手渡した。


「申し訳ありません、すっかりお詫びの品を忘れていました。先日のお礼でございます、どうぞお受け取りください」

「それはどうも」


 アロンはそう言って、受け取った木箱の中身を確認した。


「これは、ルビーでしょうか」


 中には、ちょうどイザベラが胸元に着けているサファイアと同程度のサイズの彼女の瞳の色に似た、ルビーが入っていた。アロンはすぐさま、


「さすがに受け取れませんよ」


 とイザベラにつき返そうとしたが、冒険者と非冒険者の腕力の差か、アロンの腕よりも細身の腕からは信じられないほどの力で押し戻されてしまった。そのあとも何度も返そうとしたがあえなく失敗し、アロンは渋々受け入れることにした。


「しかし、なぜルビーをくださったのですか。お礼ならお菓子やお茶などでもよろしいでしょうに」


 アロンがそうたずねると、イザベラはしばし黙った後、


「それを私に言わせるのですか」


 と一言ぽつりとこぼした。


 アロンは何かいけないことを聞いてしまった、と一人後悔していると、執務室では鈴の音がまた鳴った。そこでようやくアロンは、自分がからかわれているのだと気づき、ため息をつく。


「そういえば、今日は普段とは趣向の異なる装いですが、いかがされたんですか」


 いつもの血濡れではないのですね、とはさすがに聞けなかったアロンは、仕返しとばかりに指摘した。それに対してイザベラは、クスリと一笑した。


「たまには、誰かに染まってみたくなったのです」


 ――誰か、か。


 おそらく直近で何者かに影響を受けたのだろう、とアロンは一人納得した。


「誰か、ですか。よくわかりませんが、きっとその出会いがあなたに良き影響を及ぼしたのでしょう。私の部下などからの人伝てではありますが、近ごろのあなたは変わったという話を耳にします。あまり接点のない私からも、以前のあなたは危なげに見えた。まるで死に急いでいるかのように」


 ――もちろんこうやって実際にこの目で確認しないうちは、アロンはまるで信じていなかったが。


「えぇ、私もこの出会いが私に良き影響を及ぼしたのだと思います」


 その後、しばらく話したあと、イザベラは帰り際に


「またこうして話をしに来てもいいか」


 と尋ねられたので、アロンは特に考えることもなくそれに了承した。そして、しばらくこういった交流を続け、アロンは敬語から崩れた口調となり、「イザベラさん」から「イザベラ」と呼び捨てで呼ぶようになったが、イザベラは一貫して敬語で話し、アロンのことは「アロン様」と呼んだ。

 アロンとしては、気安い口調でアロンと呼んでもらいたかったのだが、何度かお願いしてみてもイザベラの態度は変わらず、きっとビジネス的な関係でいたいのだろうと、アロンはそれ以降そのことに触れなくなっていった。


 あれからもう三年ほどたつのだろうか。すっかり慣れてしまった胸元にかかる重みに手をかける。あの日もらったルビーのネックレスは、今日も燃えるようにギラついている。

イザベラ = バイロン……三年ほど前に主人公にアドバイスしてもらった冒険者。

アロン同様TRPG 名前作成というサイトで、「英語名」「女性」で貴族っぽい名前が出るまでポチポチ生成していて出てきた名前なので特に意味はなし。よく分からないけど、調べたら同姓同名の貴族がいたみたいだけどただの偶然。イザベラがエリザベートみたいだったので、血関連のスキルにしようかなと思ってます。


正直プロローグと分ける必要あったか、と疑問に思う。

出てきた登場人物のこと紹介しなきゃと思い、唐突に過去編みたいになったけど、どうやって現在に戻せばいいのかよくわからん。


宝石に関しては、なろう大学悪役令嬢学科で、「なんかその人の色の宝石を身に着けるとロマンチックらしい」ということを知ったので、そうさせました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] よくある誰かを嵩上げするスキルではありますが、回数制限が自分の年齢とかと関係するのはあまり見ないタイプですね、良く考えないと意味のない相手に与えるかもしれないし、でも有給休暇みたいに繰り越…
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