19-変わらない真実
もう…歩きたくない。
歩けば歩くほど
周りから人が消える‥
炎:
「こんなの、嫌だよぉ」
つい泣き言を
吐き出してしまった…
……らしくない。
‖
‖
《変わらない真実》
‖
‖
炎:
「あと、時間は?」
窓からじゃ
よく太陽が見えない。
そうだ、屋上に行こう。
炎:
「私は屋上に
行ったことがない。
よって誰も消えない‥」
……あまかった。
‖
ー屋上ー
普段生徒が
侵入できないように
堅く厚く
閉ざされている扉も
触った途端に
勝手に開かれていった。
未頼:
「久しぶりだね〜、
"炎ちゃん"っ!」
未頼ちゃんに
出会ってしまった。
一番仲良しだったのに‥
未頼:
「今日はあんまり
時間がないから…
なんてそんな事ないよ。
ここまでよく
頑張ったね〜…
辛かった…よね‥」
私は衝動的に
抱きついていた。
もしかしたら
痛いくらいに強く。
涙も止まらない。
すると、私の頭に
何か液体が零れてきた。
暖かい、でも悲しい。
そんな感じだ。
未頼:
「炎ちゃん、
まだ…泣かないでね。
まだ…まだ私との‥」
炎:
「未頼ちゃんこそ、
泣いてるじゃないか」
顔は微かに微笑んでる、
涙は流れてるが。
私も笑うように
必死に頑張ってみるが
慣れてないから
きっと可笑しいな。
未頼:
「私からはね、
別に何も言えないけど、
炎ちゃん、生きて!
生きて生きて、
理人君を大切に‥」
炎:
「り、理人は
か、関係ないっ!!」
なんでこんなに私は
動揺してるんだ?
たかが理人だぞ?
炎:
「ーーっ!?ー」
空がところどころ
点滅しては黒くなる。
茜色の夕焼け空は
時間が経つごとに
崩れるシステムらしい。
つまり、
"この世界は終わる"
未頼:
「…もしもね、
最後の試練に
失敗しちゃうと、
この世界は創られた
意味がなくなっちゃう」
最後の試練?
そんなの聞いてないぞ。
しかもそれに失敗すると
世界の意味がなくなる?
バカ兄は意味成すために
この世界を創った。
だったら、
"失敗すれば"
あいつはきっと‥
未頼:
「ーーダメだよそれは」
炎:
「え、な、なにがだ!?」
私は声に出してないぞ…
待てよ…確か今だけは!
未頼:
「あんまり意識には
介入したくないけど…
これだけは聞いて。
それはしちゃいけない」
炎:
「だ、だって…
そうしないと
未頼ちゃんたちが‥」
未頼:
「なら大丈夫!
私は死んだりしないっ!
炎ちゃんが、
生きて…いれば」
私が…生きていれば
未頼ちゃんは死なない。
でもきっと大きな傷を
負うことになるだろう。
私は未頼ちゃんに
そんな思いは‥
未頼:
「ん、ん、よいしょ!
…これ、炎ちゃんへ」
渡されたのは
未頼ちゃんの髪を
縛っていた赤色の
髪留めだった。
未頼:
「これさえあれば
私はいつも傍にいるよ。
ずっと、最期まで
炎ちゃんと一緒
なんだよ〜、えへへ〜」
未頼ちゃんが笑えば
みんなが笑う。
みんなが笑えば
未頼ちゃんも笑う。
でも今だけは、
サイクルは起こらない。
未頼ちゃんが消えれば
みんなが消える。
みんなが消えれば
未頼ちゃんも消える。
そう、消えるんだ。
それだけが、それだけが
変わることはなかった。
炎:
「私は、強くなる」
未頼:
「私も、強くなる」
炎:
「さよならなんて
言わないから…
また、明日ねだ」
未頼:
「…うん!
また、明日だよ〜」
手を大きく振って
その姿が
遠くになっていく。
振り返らない、
振り返ってはいけないと
心の中でそう思ってた。
ただ一つ、
涙の軌跡を描いて‥
Ι
Ι
時計はそろそろ
直弥出現時刻に
近づいていた。
理人:
「…あれ?」
遠くから
走ってくる小さな、
ダンボールの箱を持った
ヴェルがやってきた。
理人:
「ヴェル!
どうしてここに?」
ヴェル:
「はー、はー。
ど、どうしてって。
それはもちろん
私が必要だからですよ」
理人:
「ヴェルが必要?
なんのこと?」
ヴェル:
「…もう黙ってても
意味がありません」
ヴェルが初めての
本気モードに
なっていた。
あまり恐くない。
ヴェル:
「私は、直弥さんと同じ
無事である人間であり
この世界の中心です」
この世界の中心とは
一体なんのことなのか
今はまだ
わからなかった。