17-約束を契って
炎:
「……?」
今なにか…
ピアノの音も、
舞風の気配も消えた?
‖
‖
《約束を契って》
‖
‖
気になって音楽室に
戻ってみる。
炎:
「……っ!?」
なんだこれ?
途中から
前に進めないぞ!
音楽室は
すぐそこなのに‥
手を伸ばしても
それでも届かない。
炎:
「もう少しでいい…
もう少しだけ
舞風と話したいんだ‥」
まだ…私は…
どうしたらいい‥?
?:
「しょぼくれた顔は
似合いませんよ、
炎ちゃんっ」
?:
「水無月には
見せれない顔よ」
底抜けに明るい声と
冷静な声が後ろから
聞こえてきた。
白石:
「いい?
そっちは前じゃないわ」
在夢:
「そっちは後ろ。
もう後戻りできないよ」
舞風は…いない?
炎:
「待て!
まだあそこには
舞風が残ってっ‥!!」
白石:
「……はぁ」
舞風みたく、
頭の悪い子を見るような
目で私を見て、
溜め息をつく。
在夢:
「…誘い次は私たち。
姉貴はもう…
そこにはいないんだ」
炎:
「……っ!」
これは現実なのか?
夢なのか?
もし夢なら、
早く覚めろわたし‥
Ι
Ι
在夢:
「いやぁ、
懐かしいねここもぅ」
連れてこられたのは
執行部室。
私は初めてきた。
白石:
「あのリーダー格から
与えられた
時間は有限よ。
チャイムで
知らせてくれるみたい」
在夢:
「わぁお!
ドッキドキだねぇ」
白石:
「で、はい紅茶」
白石が馬鹿と
私に紅茶を
持ってきてくれた。
でも馬鹿
(炎視点で在夢)と
白石がなんで
ペアで登場なんだ?
意味がわからん。
白石:
「あの人じゃないけど、
あなたの考えてること
言い当てて
みましょうか?」
在夢:
「え、なに!?
お姉ちゃん
まさかのエスパー!?」
白石:
「そんなわけ
ないでしょう、
もう在夢ったら」
炎:
「お、お姉ちゃん?
在夢ったら?
お前らどんな関係だ!!
そんな青少年少女に
みせてもいい
間柄なのか!?」
在夢:
「誤解ですよぉ!!」
白石:
「姉妹よ、ただの。
で、言い当てて
みましょうか?」
炎:
「なんだ」
白石:
「もう答えは
わかったでしょう?」
確かに本当に姉妹なら
矛盾しないな、うん。
炎:
「そのとおりだ」
在夢:
「がーん!
まさか妹にも
隠さないといけない
事情があったのかぁ?
………つづく」
続かんでいい。
終われ。
在夢:
「もう、
絡み足りないなぁ。
じゃ、本題に
いきましょうかねぇ」
Ι
Ι
白石:
「あの人から
どこまで聞いたかは
知らないけど、
彼女なら多分
全ては明かして
ないでしょうね」
ごもっとも。
だから戻りたいんだ。
在夢:
「さてさて、
じゃあ炎ちゃんは
何故ここに
お姉ちゃんまでいるのか
知りたくない?」
炎:
「知りたくない」
在夢:
「即却下!?
ていうか既に
準備してたよねぇ!?」
面倒くさい、
適当に返事しておこう。
炎:
「ああああ」
在夢:
「適当すぎぃぃ!!」
白石:
「くだらない談は
とらなくていいの。
ここからが本題よ。
何故あなたたち
メンバーでもない私が
ここにいる理由、
それはこの子のためよ」
馬鹿の?
あほの子の?
在夢:
「今なんか
侮辱された気が
したようなねぇ‥」
白石:
「…話が一向に
進まないんだけど、
気づいてる?」
炎:
「ん、あ、何だったか」
白石:
「私のいる理由よ!
私はあなたの兄に
誘われたのよ」
炎:
「バカ兄が?
お前はロリの対象に
入らないと思うんだが」
白石:
「…相当の
言われようね。
そんなのじゃなくて、
私はこの子と
離れたくなかったの」
炎:
「…ん?
お前ら顔をあわせる度に
喧嘩してなかったか?」
疑問を投げかけてみる。
在夢:
「それはお姉ちゃんが」
白石:
「この子が安全に
学校に行ける
ようにするための
一種のフェイクよ」
在夢:
「最後まで
言わせてぇぇぇ!」
段々あほの子が
更にあほになってるな。
同感よ、ホント。
いつになったら
まともになれるのか
気が気でならないわ。
なに!?
意識にまで
干渉してきたぞ!!
白石:
「いいじゃない別に。
減るもんじゃないわ」
炎:
「…まあいいけど」
在夢:
「2人だけで
以心伝心するなぁぁ!!」
‖
ボカッ。
白石:
「少しは黙りなさい」
在夢:
「はい‥」
話を戻すように
コホン、と咳をつく。
白石:
「あなたや水無月は
気づいてないけど、
この世界は
ループしてるのよ」
炎:
「るーぷ?」
在夢:
「はいはーい!
それはずばり
腰らへんに付けて
おもいっきり回‥‥」
どんがらがっしゃん
ドドドドドガラッ!!
黒輝在夢、
志半ばにして意気消沈。
何が起きたかはお約束。
白石:
「ループ…
循環することよ。
あなたたちの
記憶以外だけどね」
炎:
「どういうことだ?」
白石:
「もし記憶が
残っていたら、
あなたたち2人は
もう立ち上がれない
ところまで堕ちてるわ。
それほど過酷なのよ」
炎:
「…そのループしたあと
私たちはどうなった?」
白石:
「………」
なかなか
明かそうとしない。
言いにくいんだろう。
きっと、私たちは‥
白石:
「死んではないわ」
意外だった。
生きてるのか?
白石:
「でも終わってない」
炎:
「終わってない?
なにがだ?」
白石:
「その、世界よ」
Ι
Ι
白石:
「あなたの兄、
崋崎直弥は幾度となく
あなたたちが
危険に遭う直前に
世界をリセットした。
もちろんそんな
簡単なことじゃない。
没落した部分も
なかには出てくる。
この世界の場合、
宮島要と磯貝雅紀の
記憶が著しく欠如した」
…そういえば確かに
最初あいつらは
何かおかしかった。
でも理人のおかげで
元にもどった。
白石:
「正確には
崋崎直弥がその後
彼らに吹き込んだ‥」
っ!!
意識が読まれてる!?
白石:
「当然よ。
ここは私たちの
虚空のテリトリー。
そこに足を踏み入れれば
すぐにその人の
心が読める」
炎:
「…良い趣味
じゃないな」
白石:
「今だけよ。妥協して」
炎:
「ん……
もしかして舞風も
読んでいたのか?」
白石:
「読めてたはずよ」
あいつ…
現実に戻ったら
いつか罵倒してやる。
在夢:
「そんなこんなで
在夢ふっかーつ!!
炎ちゃんっ!
あんまり私からは
お伝えできることは
なかったですけれども!!
最後に…一言…
……………いてね」
炎:
「うん?
よく聞こえなかったぞ。
もう1回言え」
在夢の微笑んだ顔には
微かに軌跡が
見えては消え、
流れていってた。
在夢:
「…元気で、いてねっ!!
約束、なんだから…
約束…」
もう顔は
笑ってなどいなかった。
それでも、必死に
笑おうとしていた。
そして私も、
必死に…笑おうと‥‥
炎:
「在夢!!
あっちでも
私たち親友だっ!!
また会えるんだ!
だから……泣くな」
炎は泣きじゃくりながら
突っ込んできた在夢を
胸に沈ませて、
「よーし、よーし」と
肩をさすっていた。
白石:
「…崋崎炎。
これ、ヴェルロッサに
渡しといてくれない?」
白石はポケットから
それを取り出すと、
拳に隠しながら
私に渡した。
炎:
「これは…御守り?」
開けた拳には
白い御守りがひとつ。
何を意味するかは
私は知らない。
炎:
「渡せばいいんだな」
白石:
「ええ、お願い」
私は御守りを慎重に
ポケットに入れた。
それを見届けた白石は、
白石:
「崋崎炎、あなたに
幸があらんことを‥」
続いて在夢も、
在夢:
「また教室で
会おうね、みんなと!」
炎:
「うん!」
それを最後に、
私は振り返ることなく
執行部室をあとにした。
直後、私の目の前で
部屋は青白い光に
包み込まれて、
次第に、部屋の中から
手を振っていた2人は
見えなくなって
消えてしまった。
炎:
「…………はっ」
まだ忘れられない
最期のビジョンで
放心していた私を
頬をたたいて
元にもどす。
炎:
「まだ舞風も
在夢も白石も、
死んだわけじゃない。
まだどこかで
きっと見てるんだ。
私がしっかりしなくて
どうするんだ」
炎は廊下をまた
歩き始めていった。
炎:
「そういえば
理人のやつ、
今頃どうしてるかな」