16-奏でられるは鎮魂歌
今回は舞風です。
彼女の目的には
まだ裏がありそうですね
舞風:
「なに、
怖がることもあるまい。
まあ時間もないから
紅茶も出せんが、
くつろいでくれ」
炎:
「ミッション
コンプリート!
じゃあ帰‥」
舞風:
「待ーちーたーまーえ」
肩を掴まれて
出口を目の前にして
あえなく確保。
炎:
「私は忙しい」
舞風:
「忙しい?
私と会うことが
君に与えられた
指令だよ」
炎:「?」
‖
‖
《奏でられるは鎮魂歌》
‖
‖
意味がわからない。
私はただバカ兄から
舞風たちを捜せと
言われただけで、
話を何故
聞かにゃならんのだ。
舞風:
「そうむっとするな。
さて、本題に入ろう」
‖
炎:
「意味がわからん」
舞風:
「まあそういうと
思ってたよ」
夢想?世界?崩壊?
なんで舞風は
幾何学だとか
質量保存の法則に反する
だとか難しい言葉を
使いたがるんだ。
炎:「要約」
舞風:
「要約か…
つまりだな、
今私たちがいる世界は
君のロリコンブラザーが
主体となって
創りあげたもので、
現実じゃない。
この世界を
創り出した理由は、
君と理人君を
あの世界から隔離して、
生き長らえさせるため。
これでわかったか?」
炎:「…微妙」
舞風:
「(当然といえば
当然の反応か。)
一部掻い摘んで
話を切り出すと、
もう私や未頼君、
他のみんなに
会いたくても
会えないんだ」
炎:
「っ!?
そ、そんなのイヤだ!!」
舞風:
「それを回避するために
君のロリコンブラザーは
この世界を創った」
大体意味はわかった。
要はこの世界が
崩壊しないように
すればいいはずだな。
舞風:
「…君の考えてることを
当ててあげよう。
ずばり、
この世界が
崩壊しなければいいと
思ってるな?」
炎:「違うのか?」
舞風は一瞬
物わかりの悪い
子供を見るような目で
私を一瞥したあと、
頭を掻いていた。
舞風:
「この世界は
限界を迎えた。
もう戻ることは出来ん。
日が暮れる頃には
もう残すところ
この学校だけだ。
他は跡形もなく
ロストする。
言い換えれば
世界から見たとき
たったの0.0000001%にも
満たないこのちっぽけな
世界のために、
他を全て犠牲にする」
炎の顔は感慨深く、
思い悩んでいる
ようだった。
それも仕方ない、
たった2人のために
世界は消えると
言われたのだから。
舞風:
「そう思い悩むな。
その考えはすぐ
廃棄処分されるからな」
炎:
「どういう意味だ?」
舞風:
「簡単なことだ。
私たちは、
この世界の崩壊を
望んでいるのだから」
……意味がわからない。
Ι
Ι
舞風:
「さっきも
言ったことだが…
私たちメンバーは
皆、瀕死の重体だ。
つまり君たち同様
私たちも死にかけてる」
炎:
「確かにそうなる」
舞風:
「そして君の兄、直弥は
君たちを現実で
生きさせるためにと
この世界を創った。
ここまでは
理解できているか?」
炎:「まあまあ」
曖昧な回答だな…
いつものことだが。
舞風:
「だが目的の中には
私たちのことは
載っていない。
何故だと思う?」
炎:
「なぜって……知らん」
舞風:
「ん……
私たちは、駒だからだ」
炎:
「駒?」
舞風:
「そうだ。
将棋で例えるなら、
《王》は君と理人君。
《金》は
オールマイティな直弥。
《銀》は
彼を理解したうえで
カバーする私。
《桂馬》は
戦略的な白石君。
《香》は
一直線にしか進めない
馬鹿の在夢君。
《歩兵》は
最後まで辿り着ければ
《金》にも匹敵する
力を持つ未頼君。
《飛車と角》は
方向こそ違うが
強い力を持っている
要と雅紀。
それら全ての力を
合わせて護られるのが
《王》、君たちだ」
炎:
「……私は…
どうすればいいんだ」
顔が沈む。
それもそうだ、
たった1人の一存で
世界が消滅するかも
しれないのだから。
舞風:
「…好きなように」
今の私には…
これしか言えない。
許されていないんだ。
舞風:
「好きなように
進めばいいさ。
きっと理人君も
君に同調するだろう」
炎:
「…いつまでに
決めなきゃいけない」
舞風:
「……夕暮れだ。
さあ、私の役目は
これで終了した。
また誰ともわからぬ
誰かに会って、
この世界の命運を
決めてくれ」
炎:「…舞風」
舞風:
「質問はこれで最後だ」
炎:
「お前は正しい答えを
知ってるんじゃ
ないのか?」
舞風は涼しい顔をして
こう答えた。
舞風:
「正しい答えなんて
探せばあるものだが、
私はその可能性に
頼るつもりはない。
自ら切り開くものだと
私は奴に教えられた」
炎はそれだけを聞くと、
ゆっくりと扉を開けて、
振り返ることもせず
その場を立ち去った。
舞風:
「それでいいんだ。
私は"この"世界には
もう必要ない。
黙って見守らせて
もらうとするか‥」
直後、音楽室を
青白い光が包み込み、
舞風はその中で
理人に初めて会った
ときのことを思い出して
高々と笑っていた。