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天影の華  作者: AIO
第一章「学園」
24/25

第二十三話「救われる意味」

《和摂:市街地》

時刻は4時52分、紗由美が吹っ飛んでってから12分経った頃。

前代未聞の、市街地を爆走する三人乗りの軽快車が目撃された。


「はぁ、はぁ、はぁ......流石に.....前後に人を......乗せるのは......きついな......」

「頑張ってください新島先生。」

「先生!頑張ってー!」


新島が自転車を漕ぎ、新島の腕の中でフレームに立つようにして乗っているのが白野、後ろの荷台に乗っているのが碓氷だ。

中古1000円くらいで売られていそうな銀色に錆模様が特徴である、この自転車は何処から持ってきたか。


持ってきた?いいや、置いてあった。


浅香山は学園が管理する、燎科園による治外法権が敷かれた場所。

つまり不法投棄が不法ではなく合法、いや、そもそも捨ててはいけないなんて法はこの地に定められていないため、不問となるのが妥当であろう。


そんな自転車に乗ってどこに行くのかって?


決まっているであろう。渦中の中心、天野上越学園だ。

直線距離で1.7kmといっても浅香山から学園まで行くには最短の道を通っても3kmはある。しかも、最後には登り勾配7%の坂道付き。

現在はその坂道の途中という訳だ。


「先生、あとちょっとで正門です」

「わかっとるわ!」


その時だった。

校庭から立ち上がる土煙とそれに伴う爆発を、三人は五感すべてで受け取ったのだ。


「新島先生!急いでください!」

「分かってます!......しっかり掴まって!」


残り70m程だろうか。

信じられない速さだった。

ボロボロ中古自転車のタイヤに溝なんて残っているハズなく、ツルツルのタイヤは空転を引き起こし、結果として白煙を上げながら地面とのグリップ力が上昇する。

とんでもない出力とグリップ力によって破格の加速力を得た自転車は、ギャグマンガでしか見たことない挙動で正門まで爆走した。


「先生、大丈夫ですか?」

「はぁ、はぁ、はぁ...もう動けん......ってか、白野しらの先生は.....?」


白野はガス欠になって自転車と共に倒れる新島から飛び出し、そのまま未だに爆発音がする校舎へ走っていったのだ。


「校舎の方に.....」

「碓氷......!あの人を......何としても保健室に連れていけ......ッ!いいから行けッ!」


カッスカスの声でブレッブレの視線で確かに伝えてくる新島に、碓氷は返事の間も無くすでに行動に移していた。


「少しは......躊躇して、欲しかった......ガク」


その短い脚で一生懸命に下駄箱に回り込み、馬鹿正直に正規手順で校舎に入ろうとする白野に追いついた碓氷は、声を殺して冷静に現状を伝えた。


「先生、ダメです!下駄箱付近は危険です。正面から入れない以上、波棟に直接入りますよ!」

「わ、わかったわ......」


白野はそれを理解した。



《波棟一階:保健室》

ここには残された数少ない生徒がけが人と共に息をひそめており、それはもう野戦病院のような、そんな現状だった。


「さっきの音......」

「紀藤先生、私たちも出ましょう。このままじゃ、この子たちが......」


「......」

「唯波も、いつまで東条を止めていられるか分からないんですよ!」


唯波が倒れれば、ここをヤツから守れるのは、もう、先生である紀藤と遠藤の二人しか残っていない。

公安への通報、学外測定組への連絡、これ以上打つ手はない。

これらが行われてから、約20分経った。

紀藤と遠藤は話し合った結果、


「動ける人は、学園から出てください。」


動ける人間を避難させることにした。

事態が事態だ。対応に時間がかかるのは分かる。しかし、この無限とも思える20分にどれだけの決断を強いられたか。

けが人の手当をしていた生徒の視線が紀藤を見つめる。


「今までありがとう。君たちは逃げなさい。」


この場にいる人全員、救助や避難の際に負った傷など、自分の手当は一切せずに懸命に重傷者の手当をしてきた。もちろん紀藤も遠藤も一緒だ。

しかし目と鼻の先で戦闘が起こっている以上、ここに留まれないと判断した。

そんな窮地の最中の、午後4時57分。

東条が下駄箱に突っ込み、下駄箱から廊下にまで土煙が充満し始めた、その時。


ついに、到着した。


視界が悪い中、保健室の扉を開けたその影は碓氷だった。


「大丈夫ですか......ッ!」

「紀藤先生!みなさんの怪我の具合は!?」


あれから正門付近まで一度引き返して、倒れてる新島を横目に波棟の末端側へと回り込み、非常出口から入ったのだ。

ピッキングなんて丁寧なことをするわけがなく、ドアの隙間に鋭利な氷の歯を通してデッドボルトとラッチボルトを切断したのだ。

この際、器物破損だとか不法侵入だとか言ってられないのは火を見るより明らかであろう。

何はともあれ、碓氷と白野は保健室へ無事たどり着けたのだ。


『え?子供......?』


碓氷が小学生を連れて来たとか、隠し子かみたいな誤解をどうにか解消して白野についての理解が追いついたところで、そこにいた動ける生徒全員が避難の準備を開始した。

すぐそこで爆発音がする中、ひたすらに。


絶望から希望へ、一瞬の転換。


しかし、コイツはちょっと違う意味での転換だった。

涼夜は目の色を変えたのだ。


「僕を、もう一回動けるようにしてください」


「なッ、柊君!もういいだろ!」

「柊、お前もこの子たちと逃げるんだ!」


それを聞いた紀藤と遠藤は、なだめるように、しかし諭すように、涼夜を制止しようとする。


「柊君だったかな?君は、彼をどうしたいんだい?」

「え......?えっと......」


思いがけない返答だ。そんな質問が返ってくるなんて思ってもみなかった。


「正義感かな?もしかして、復讐?」

「......」


からかってなどいない。それはわかる。目が、真っすぐすぎる。

こんな小さい年下の女の子から、まさかこんな質問されるなんて誰が想像するだろう。

涼夜はしばらく黙り込んでしまった。


「私も、さっき彼を見たよ。あれは正気じゃない。もうこれ以上......」


「助けたいんです」


そして、絞りだした。

真っ白の頭の中、出てきたのはこの言葉。


彼女さゆみを?」

「いいえ。どっちも」


欲張りな回答だ。

しかし


「左手、前に出して。」


白野にとって、これは満点の回答だった。



《昇降口》


「おい......サユミは......紗由美はどうした」

「マッてた。おマエ」


既に煙の晴れた昇降口、東条のすぐ後ろには涼夜がいた。


「質問に答えろ」

「オまえオ、殺ス」


その涼夜の視線の先にはボロボロになった傘と、その先で血の池に倒れている人影があった。


「......東条ォォオオッ!!!!!!」

「ヒイらギィぃィぃいい!!!!!!」


救済。

それは、救い助けること。


「お前をぶちのめして、目ぇ覚ましてやるッッ!!」

「ひひぃい.......イヒヒ」


その手法が多少荒々しくても、結果良ければ全て良しなのだッ!



《保健室》


「さて、先生方。」


「は、はいぃ」

「どうしました?」


三人の先生は彼を教室から送り出すと、脱出に向けて動き始めた。


「若返りたくありませんか?」

『......え?』



《昇降口》

二人の間は徐々に詰められていく。

お互いゆっくりと前に進み、お互いの目を見ながら着実に歩み寄る。

そして、お互いあと一歩で衝突する。


「ふんッ!!」

「あぁア!!」


お互い右足をこれでもかというほど踏み込んで右手を大きく振りかぶり、相手の顎を目掛けて思いっきり振り上る。


第二回戦ガチケンカ、開幕の合図は能力なしの本気ガチアッパーカットであった。


ゴンという鈍い音が校舎の一階を駆け巡り、その瞬間にお互いの視線は揺れまくる。

その後、揺らぐ体を左足で踏ん張って立て直し、お返しといわんばかりの左ストレートがお互いに決まった。

これが、話し合い。これが、ケンカである。


右足を踏み込み、放たれる拳はもちろん。

地面を掠るように、腹部へ打ち上げられる強打も。

天を割るかの如く、鋭く刺さる上段蹴りも。

全部、全部、会話である。

丁寧に一言を伝えるのだ。


「ぶちのめす」と。


そのうち能力という雑音が混ざり始めるのだが、それでも関係ない。

聞こえないわけがないのだ。相手に精一杯、かけられる声が。


「うル、さい......」


昇降口にあったものは爆風と衝撃で地面に散乱しており、もう何がどこにあったとか分かるものはいないであろう。

しかし、足場が悪くとも必死の声かけが止まるはずがない。

一瞬、地面に伏した涼夜を踏み抜こうとした瞬間、両側から下駄箱が挟みこんでくる。


「捕まえた。」


なんだか、聞こえる。聞こえてしまう。

耳を塞ぎたくなるような、脳をつんざく音が。


「ヤメろッ!」


押されてるのだ。

自分を挟み込む下駄箱を収縮しようとしても、メキメキと音を立てるだけで一切縮まろうとせず、自分を拘束することをやめようとしない。


「もう疲れてきたんだろ」

「ウるせぇ......」


こうなれば、より収縮が簡単な空気を使って脱出する他ない。

その瞬間、衝撃波と共に東条の周囲の瓦礫が跳ねのけられ、東条を昇降口の外へと弾き飛ばした。



《一階:昇降口前》

これは好機。さっき黙らせた女を尻目に東条は上へと逃げた。

比喩じゃない。上の階へ自身の能力によって飛び上がったのだ。


「逃げんな」


しかし、何も飛び上がれるのは東条だけじゃない。

涼夜もこの時、非常に極限だったのだ。そう。ハイな方の極限。

空気をつかむ感覚。

空気、流れ、大気、手に取れるのだ。

こちらも比喩ではなく、本当に手に取れる。

そうなれば、自身に万物操作が使えなくても空気の操作でどうにでも、宙を舞えてしまう。


「ハイ......ご......だトッ!?」


瞬間、涼夜の体ごと捻った最大限、最大出力の蹴りは東条の振り返った顔面を直撃クリーンヒットし、顔面の残像を残すまでに加速した東条はそのまま三階図書室に突き刺さった。



《三階:図書室》


「グっ......イてぇ」


そんな感傷に浸っている時間は無い。猶予など与えるはずがない。ヤツが。

意味が分からないが、考えてもみなかったが、なぜか目の前のこの黒い何かにおびえて自分の体が言うことを聞かず、腰が引けてしまうのだ。

だんだん霧が晴れるみたいに、より深い黒が世界を埋めていく。


散らばった本をかき分け、乱れた机と椅子を跳ねのけ、図書室を出る。



《三階:波棟廊下》

その後ろ、東条が一生懸命かき分けて通った道を涼夜は何の気なしに、何の障害もないかのように一瞬で通過した。


あ、怖いんだ。


その時、察した。

今まで知らなかった恐怖。

自分が他人に痛いほど味あわせてきたであろう、恐怖という名の暴力。


「あ、アァ......」


正気に戻ってしまう。

自分をここまで強めていた、あの狂気が抜けていく。

体をまばゆく照らしていたあの光が、黒く染まっていくのだ。いや、隠されていく。


逃げなくては


言葉に出すにも当たり前すぎて、行動のほうが速く出てしまう。

光が暮れてしまう。

黒が白を吞んでしまう。

まって、暗いのは怖いんだ。

目を焼くほどの光をくれよ。


「逃げても意味ないって」



《三階:呂棟西階段》

その瞬間、無情な蹴りは振り返り際の右わき腹をえぐり、再び東条を吹き飛ばした。


「ウぅ......」


何故だ。自分の能力が通じなくなっている。


疲労による限界か?

弱体化してる?

〈無効化されている〉

ヤツより離れた場所なら能力は思う存分使えるぞ。

〈ならば、今、絶好のチャンスじゃないか?〉

確かに。そうだナ。

〈やっちゃえよ〉

そうダナ、ヤっちマオう。


聞こえる、聞こえてはならない声。

東条の目から再び恐怖が消えた。


「チッ、また持ってかれた」


目に見えるものを眩ませるほどの光。


ぜんブゼんぶノミコンでやル

〈そうだお前ならできる〉

ゼンぶオレが


恒星の墓、ブラックホール。


「ゼンぶ!ノみコンデやルッッっ!!」


恒星が最期に自身の重力によって圧縮された成れの果て。

その時、そこにいた全員が波棟三階部分が徐々に壊れていく様を目撃した。

丁度、通報を受けた公安も大半が到着しており、重傷者の手当も開始されたころ。


呂棟三階の窓ガラスが割れ始めた。


〈人間、仰ぎ見よ〉


そこにいる50名程が徐々に暗くなり始めた空を横目に、渦を見た。

瓦礫が宙を舞い始め、嫌な風がそこを目掛けて吹き始める。


〈これが世の真理だ〉


目がおかしくなったかのような、文字化けを見ているかのような、そんな見た目。

開いた口が塞がらないとは正にこのこと。

呂棟と波棟のつなぎ目、その部分が丸ごと何かに抉られたのだ。


〈さぁ、ひれ伏せ〉


異様すぎるその玉は次第に軸を持ち、プラズマを放射し始めた。

直感でわかる。非常にマズい事態だ。

何かにつかまっていないと吸い込まれてしまう。



「はぁ、それくらいで図に乗るなよ」



一撃。

たった一撃。


「よく聞け東条」


パンと、一喝。

涼夜は両手を大きく開き、かき消すかのようにしてその両手を閉じた。


〈え?〉


消えた。そこにあったブラックホールが、一瞬にして。一撃で。

理解が追いつかない。おそらくあそこで何かあったのだろう。

渦中の二人が、何か起こしたのであろう。

しかし、分からない。

今まで見たこともない異様な光景と感じたこともない緊張感、本当に世界が終わる寸前の因子を直視した感想は、皆口をそろえてこう言う。


「よく分からなかった」


あまりの情報量の多さに、怖いくらいに美しいと......感じてしまった。



《波棟:三階》

涼夜は、残った数個の残骸と共に未だ浮いている東条を見ていた。

校舎は球状にくりぬかれた様になっており、その中心、丁度東条が立っていた場所にほんのちょっと残骸が東条の周りに衛星のようなものを形成して空中に留まっていたのだ。


伝えなきゃ、分かるもんも分かんねぇだろ。

逃げてちゃ、助けられるもんも助けられねぇだろ。


〈や、やめろ!〉

「アァ、あ......」


言ってくれりゃ、何とかしてやるよ。友達なんだから。


〈まだ、完全じゃなかったんだ!〉

「ウぅ......」


助ける理由なんてそんなもんだ。


〈まってくれ!〉

「タ......」


だからさ、救われたいなら


「助けてって、言ってみろ!」


東条は、必死に光から遠ざかろうと目を閉じようとした。

まぶしいばかりの光を、目を焼かれるような閃光を、直視しまいと目を閉じたかった。


〈やめろ!目を閉じるな!!〉


少し怖いけど、頑張ってみるから



「タす......けて......」



〈やめろーーーーッ!!!〉


言えるじゃん。


「分かった、任せろ。」


涼夜は落ちていた校舎のコンクリート片を持ち上げ、東条の胸の中心を撃ち貫いた。

最も光っていた場所、最も輝いていた場所。

白を切り裂く一撃に光は輝きを失い、消滅。

東条も一瞬にして能力を失って一階へとその身を落とすのだが、涼夜が空気を操ることで何とか地面との衝突を回避した。


これをもって

午後5時37分【天野上越学園3025第6事案】解決。

《登場人物:東条(とうじょう)来人(らいと)

身長157cm、体重45kg、年齢13歳

誕生日:06月02日

卒:端出第二小学校

在:天野上越学園 一年生

能力等級:第二級

能力区分:第一能力

能力名:超圧縮

・端出小学校の問題児

・キレ症、口下手、常に喧嘩腰の不良少年

・まともに授業を受けたことがない

・能力と学力の双方がそれなりにできる

・身体能力が高く、喧嘩は常勝


次回予告

その時、それ目にした者は涼夜だけじゃない

あの時、上を見上げたものは紀藤だけじゃない

しかし、恐怖よりも強い何かは彼女にだけあった。


次回「壊れなかったモノ」

お楽しみに!!!


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