第二十一話「助けてなんて言ってない」
《天野上越学園:昇降口》
「電話が通じないですぅ!」
「やっぱり、さっきの爆発に巻き込まれちゃったんですかね......?」
裏山の爆発、今までの測定であれほどのは見たことがなく、もしかすると裏山でも何かあったのではとコチラはこちらで心底焦っていたのだ。
「もう一回かけてみましょう。」
「そ、そうですねぇ......」
《天野上越学園:校庭》
「なんだ、今の爆発......」
「よそ見してていいのか。」
風下の方に爆発のものと思われる土煙がある。
そんな裏山から立ち上る土煙に、一瞬の視線移動を行っただけだった。
次の瞬間、東条を囲むテニスボールは3回起こった爆風によってはじけ飛び、撃ち放ったテニスボールも全て消されていた。
「バカが」
「なッ!?」
東条は、まんべんなく全方向から撃ち放たれるテニスボールを一つ一つ丁寧に圧縮し、その手に収め、そして貯めていた。
そのうちのたった3個を破裂させただけで涼夜の包囲網は破られ、瓦解したのだ。
《天野上越学園:裏山》
「ん?電話?はい、もしもし......え?はいはい。見えますね。」
電話越し「ごにょごにょ」としか聞こえないが、新島の身振り手振り、視線の動きを見ればある程度のことは分かる。
学園の方を目を凝らして見たり、幾度も紗由美や碓氷を見てくる。
まるで学校と母の電話を見ているかのように、なんとも言えない何かしちゃった感がこみあげてくるのだ。
「はぁ、なるほど。柊と東条が......ッ!って、あ!待て唯波!!あぁ!」
《昇降口》
「うぅ、すごい音でしたけど大丈夫ですか......って、あれ?」
「どうしたんですか?」
「切れちゃったぁ......」
「また、なにかあったんですかね......?」
遂に、裏山でも何かあったと察し覚悟を決めた。
「公安に、通報しましょうかぁ......」
「公安ですか......学園長の許可は?」
「先に公安に通報してください。学園長には先程連絡して急ぎこちらに向かってもらっていますし、到着してからの報告でも遅くないと思いますんでぇ。公安から追及される責任は私が負いますねぇ。」
「......わかりました。」
公安。
ここでは『学園公安委員会』の事を指す。
学園の生徒によって構成された、能力者による組織的な都内反抗を取り締まる燎灯科園直轄の組織。
上記が主な役目だが、こういった能力に関する単独の事件にも対応する。
「東条くんの能力、圧縮でしたよねぇ。」
「はい、その通りのハズなんですけど......」
しかし、公安にどう説明したものか。
「一体、どういうことなんですかねぇ......?」
明らかに、当事者の能力に差異があるではないか。
「あの、外で暴れてるのって......!」
「あれ、君は東条君の......午前の測定を終えて帰ったんじゃないんですかぁ?っていうか!早く避難を!」
しかし、現状はそんなこと考える暇も与えてくれない。
次から次へと問題は発生し、山のように積み重なっていく。
「やっぱり。」
「ちょ、ちょっと!待ってくださいぃ!」
「待ちなさい!あぁ!」
突如、昇降口に現れた生徒は紀藤の口ぶりから全てを察し、靴も履き替えないまま校庭へと飛び出した。
《校庭》
そんな山積みの問題も一か所に集めてしまえば、案外サクッと片付いてしまうかもしれない。
地面に尻もちをついたかのような姿勢で、後ずさりする涼夜に無言で距離を詰めてくる東条。
「一瞬だ。一瞬で首を飛ばして殺してやる。」
「ペンをぶつけたことは謝る!本当にすまん!ちょ、話し合いをしよう!!」
待ってくれ、覚悟なんてできない。
こんな傷だらけで、体力も残ってない。どうにもできない。
人生って、こんな簡単に終わるんだ。
「ペンなんてどうでもいい。そんなんじゃない。」
「はぁ!?ちょ!じゃあ、どうしてそこまでキレてんだよ!!正気!正気になれって!」
あの驚異的な爆発をする、小さな小さな爆弾が数えきれない程こびり付いているであろう、東条の両手を首にかけられそうになった瞬間だった。
「待って!!」
昇降口から駆け出した生徒が東条と涼夜の間に入り、大の字になって涼夜をかばったのだ。
「え......?」
東条は何より、誰より驚いた。
「何してるんだ!殺される......って、姫さん......?」
そう。その生徒は姫木乃美だったのだ。
この現実を東条は理解ができなかった。
姫は俺を止めるより、俺に寄り添うより先に、この屑を先にかばったのだ。
「やめてよ、ライト!!もういいじゃん!こんなことまでして、どうして昔っからそうなの!?」
あぁ、うるせぇ。
「私を助けたときも、ユウミを助けたときも!!いつもそうだった!!相手をズタボロにして、相手も謝ってたのに!どうして許せないの!?」
黙れ。
「こんなことになるなら、もう守ってもらわなくていい!助けてほしくなんてない!!」
……殺す
「もういい、殺す」
憎しみ、怒り。いや、悲しみか。
もう周りの色、ましてや景色なんて見えてないだろう。
「東条!おい!!」
「うぅ......」
涙を必死にこらえて彼の目を見ても、もう返事はない。
もう、姫に向けられるのは友情でも優しさでもなく、殺意そのものだ。
悲しく曲げられたその感情は、確固たる形として死をもたらす。
手をかけるのか?本当に。それでいいのか東条。
「くそッ!」
姫の首に伸び始めたその両手を、もう止める意思は東条にない。
涼夜は尻込み状態から動く右手を伸ばして姫のお腹に手を回し、自分の体重をかけて、姫ごと自分を地面に倒そうとした。
その瞬間だった。
「...ってん......ぁぁぁああああ!!!」
何処からともなく飛んできた飛翔体が東条を直撃したかと思えば、衝撃によって東条が吹っ飛ばされていったのだ。
それも、校庭のど真ん中から端っこの防球ネットの支柱までの約70mを一度も地面につくことなく、音速に近い速さで。
その衝撃は凄まじく、伊棟の窓ガラスが音を立てて揺らぐほどで姫と涼夜が目の前のそれに耐えられるはずもなく、そのまま地面に倒れて転がっていった。
「ふぅ。大丈夫?姫さんと東じょ......あれ?あんたスズヤじゃない。」
今話しかけられても答える事なんてできない。
「えぇ......?」
「へぇ......?」
極度の緊張状態から、いきなりこんなギャグ漫画みたいな登場する奴に助けられても、助かったとか、怖かったとか、そんな言葉は出てこない。
出てくるのは精々、喉を空気が通る音くらいだ。
「ってことは、今蹴り飛ばしたのって......?」
2km近く離れているであろう裏山から勢いよくすっ飛んできたのは、何を隠そう紗由美だった。
「サユミ......?あぁ、サユミか」
「あれ、私、え?」
やっと現状を理解できるようになった二人は、初めて息をするかのように言葉を発し始めた。
「そろそろ、その手、離しなさいよ。」
紗由美も到着して二秒程度で現状を把握し、何やらいい感じの二人を見て食いしばったかのように、その手の場所を涼夜に伝えた。
「え?あぁ!ごめんなさい!」
「あ、いえいえ、こちらこそ助けて頂いてありがとうございます」
一瞬の困惑を終えて正常な判断もできるようになった今、疑問が一つ浮かび上がってくる。
「サユミ、どうしてここに?」
何故、紗由美はこの事態を察して文字通り裏山から飛んできたのか。
察しの良い方は既に分かっているかもしれないが、新島の電話中の素振りとポロっと漏らした「柊」という言葉に反応したからだ。
「あぁ、それは新島先生の電話で......」
まぁ、今この現状でそんな話をしている時間はない。
吹っ飛ばされた東条が、ものすごい爆発と共に土煙を払い除けて立ち上がったのだ。
三人の視線は前から横へと音もなくゆっくり移され、その空間をも曲げる勢いの東条の姿を見て震えるほかなかった。
「って、マジ?あれ食らってまだ立てるのね......」
「......ッ!サユミ!構えて!」
刹那の反応、見ている情報以外に感じたもう一つの情報。
それが、この体をそうさせたのかもしれない。
「(来るッ!)」
防御姿勢。
自分から見て相手の左の足、それが飛んできた。
分かったのはそれくらい。
「重ッ!!!」
東条が立ち上がって2秒、先ほどとは打って変わって、今度は紗由美が立っていた場所から10mほど後方に飛ばされた。
やってることは東条も紗由美も一緒で、爆発による推進力を活かした蹴りだ。
しかし、出の速さに関しては音を使う紗由美に対して、音速を超える反発を使う東条の方に軍配が上がる。
そう。速さが違うのだ。
「(左手が痺れてる。あいつ、威力も速さも私以上かもしれない......)」
ギリギリ反応できる速度で繰り出される攻撃から、あの二人を守る余裕は生まれない。
「スズヤ!姫さんと逃げて!」
「わ、わかった!」
故に一旦、二人を逃がす。
「でも私、ライトを止めないと!!」
「今は紗由美に任せましょう、もうアイツに言葉は通じないと思います」
それくらいのスキなら作れる。
「......ごめん、ライト」
言葉より、動くものに反応する感じだろうか。
もう、ある種の怪物かのように見える東条は、校舎へ走る二つの物体を目掛けて攻撃を仕掛けた。
「アンタの相手は、わ・た・しッ!」
しかし、邪魔が入る。
毎度のごとく飛んできては邪魔をする、虫のような何かが付きまとうのだ。
うるさいような気がする。何か言ってるような騒音が。
「ジャマ......だ......」
「やっとこっち向いたわね。」
《浅香山の衝撃波》
住宅街の住民によると、4時40分頃に7回爆発音と衝撃波を確認したとのこと。
この一連の事象は地震などの自然現象とは考えにくく、一部の学園生による指定区域外における能力使用が原因ではないかと推測される。
住民の声には学園や燎灯科園への不満や不信感もあり、これを後ろ盾に天野上越学園への立ち入り調査も行えるかもしれない。
浅香山付近の住宅街にて確認された爆発音と衝撃波に関する報告書より一部抜粋:和摂警察
次回予告
ここからは意地と憎悪のぶつかり合い。
圧倒的な正義は、必ず悪しき怪物を撃ち滅ぼす......ハズ。
その憎悪に終着点は、一体どんな景色なのだろう。
次回「衝撃の救世主」
お楽しみに!!!




