第十九話「秘めたる全力」
《テニスコート:精密動作性測定所》
「おい!何だ今の爆発!」
「分かりません、いきなり地面が......」
殆どの生徒が測定を終えた頃、テニスコートで謎の爆発騒ぎがあった。
幸い、測定を行っていた新島と生徒は離れていて無傷だったが、そこは、ちょうど新島が長い間立っていた場所だった。
それなりに大きい爆発で、地面が50㎝ほど抉れたほど。
そこには木っ端みじんになったテニスボールの破片が落ちていた。
《波棟二階:食堂二階食事場》
「あれ、スズヤも推薦受けてたんだ。」
「なんだぁ?受けちゃダメなのか?」
測定中はあっちこっちに足を延ばしていたため、会うことのなかった二人だが、今ここで相まみえた。いや、接敵したというのが正しいか。
「いや。でも、スズヤがねぇ。」
「顔に出てるぞ。」
別に嫌という訳じゃない。これでこそ好敵手と認めることができる。
しかし圧倒的な差を見せつけたいと思うのも、また事実。
「なんの推薦受けたの?」
「......応用。」
注:応用=応用力測定
いちいち説明するのは面倒だから、そういう生徒内で通じる略称はなるべく出してほしくないのだが。
「へぇ。私は最出。」
「だろうな。」
注:最出=最大出力測定
だから......そういう略称は、
「最出組と耐久組!!移動するぞ!出てこーい!」
注:耐久=最大耐久力測定
もういいや。話を戻そう。
今ここで呼ばれたのは最出組と耐久組。いわゆるバカみたいな威力を出せる生徒と、アホみたいな耐久力を持つ生徒達である。
「何個か推薦貰ってる奴も最出と耐久が最優先だから、出てこーい!」
で、
「応用の人ー!お待たせー、校庭に出るよー!」
少し時間が経って呼ばれたのが、応用組。応用組に関しては以前説明したので、ここでは割愛させてもらう。
《校庭:応用組》
「じゃ、応用組は私が担当するんでねぇ。テキパキやっていきましょうねぇ。」
数名の先生がいるようだが、応用組の筆頭担任は紀藤のようだ。
おい、そこ。采配ミスとか言うな。人手が足りないのだ。
最出組と耐久組はあり得ない火力と底なしの耐久力での攻防戦みたいなことをやるので、保健室の白野も裏山に駆り出されているのである。
この事から、どちらにどれだけの人員を割り当てればいいかなんて火を見るよりも明らかであろう。
現に、裏山では既に測定が始まったようで......
「おー。あっちも始まったみたいですねぇ。」
プールでは制限していた者も、校庭では自重していた者も、体育館では抑制していた者も、今ここでは全力を出せるのだ。それももう、気を失うほどの全力。
そりゃ地響きもするし、爆音も聞こえるし、煙も立つ。
「あっちに負けないよう、こっちも盛り上げていきましょう!」
『できるか!!』
ここに集まったのは計23名。
まだ暫定だが、応用組の殆どが三級以上確定の実力者揃いだ。
能力等級について簡単に説明するが、
第一級:単独で作戦区域を征圧できる程度
第二級:単独で作戦区域を鎮圧できる程度
第三級:単独で作戦区域を奪還できる程度
第四級:単独で作戦区域を調査できる程度
第五級:単独で作戦区域から生還できる程度
てな具合。
第三級と聞いて「そんなにじゃん」と思った、そこのあなた。
そう、あなた。
確かに第三級と聞いてもピンとこないのは分かる。しかしだ。
実際そこに立ってみると、明らかな、あからさまな壁を目の当たりにするだろう。
一般人から見た有名人、平社員から見た部長、若手から見たトリ。
上を見るとうらやましくて、自分もそうなろうと思えば努力次第でどうにでもなる壁。
しかし、やり方がわからない。やったことないのだから。そんなの学校で習っていない。
一年生から六年生のようにいつかなれるものでもないのに、そんな甘えたことを言ってる奴には到底乗り越えられない壁。
まぁ、第三級とはそんな立場だ。
努力を怠らず、地道に精進し、やることやった奴が立てる位置である。
「じゃ、始めようねぇ。」
応用力測定とは、能力における自己PRと言っても差し支えない。
「こんなことができます!」「こんなことも可能です!」「こんな応用もできます!」
御社が第一志望ですなんて言葉が聞こえてきそうだが、やってることは殆ど一緒で、他者と違った自分でも気付かないような優位性を全面に押し出すことが大切なのだ。
まぁ、本物の面接と違ってお堅い場面ではないので、そこは安心である。
校庭に生徒と先生が五組くらいに分かれて散らばっているため、ごく普通なモノを一例として挙げたいのだが。
「一年五組、姫木乃美です。」
「えぇっと、速度操作で大丈夫かな?」
そう、こんな感じ。
名簿をみて先生が驚くとか、能力を見て腰を抜かすとかそういう展開は要らない。
他の測定と同じように本人確認をして、本題に入る。これでいい。
「速度操作かぁ。じゃあ、物をゆっくり落とすとかできる?」
「重過ぎなければイケると思います。」
本題というのも生徒が必死こいて応用方法を提示するというよりかは、先生と一緒に考えて共に発展的な応用を見つけていくといった形式。
「なるほどなるほど。それじゃあ、このペンを落とすのでやってみてください。」
「あ、一回触らせてもらってもいいですか?」
最初の方は、この能力なら他にもこんな事ができたというデータを過去から引っ張ってきて試すのだが、なんせ実力差や個人差があるため、毎度新しい発見がある。
「一回触らなきゃなのか」
「はい......」
非接触で発動できたり、できなかったり。
視界外で発動できたり、できなかったり。
意識外で発動できたり、できなかったり。
もう、条件がありすぎて過去のデータなんて殆ど参考になんてならない。
「了解、了解っと。じゃ、このペン触ってやってみて。」
「はい。」
遠坂は手元の用紙に何やら記入した後で姫にペンを渡し、姫はペンを受け取ると縦式トルネードをした後に手放した。
ペンは地面に対し縦方向に回転しながら重力に引っ張られるのだが、まるで水の中かのようにゆっくりと地面へと向かって行く。
「なるほどなるほどー。じゃあ、この回転止められる?」
「いきなりは止められないですけど、ブレーキかける感じで止められます。」
「よし、やってみて。」
姫はそう言われ、右手でスッと空気をつかむような仕草をすると、いきなりではないがゆっくりと確かにペンは回転を止めたのだ。
「おー、スゴ。そ、れ、な、ら、これ落下速度をゼロにできたりする?」
「完全に空中に浮かすってことですか?」
「そう。」
「......頑張れば、いけるかも知れないです。」
遠藤はバインダーを抱え込むようにして腰をまげ、注意深くゆっくり落ちるペンを眺めていたのだが、姫の返事を聞くとパッと顔を上げて即行で返事をした。
「やろう。」
これ、結構難しいというか、不可能な注文である。
姫ができることを簡単に話すと、加速と減速だ。
球を投げると飛んでいくのは当たり前だが、視点を変えて見てみると球を加速させて飛ばしているとも捉えられ、この加速に対して思いっきり減速の力を加えると、球は手を離れた瞬間から落下を始め、目の前でゼロに向かう対数関数的な放物線を描いて地面に落ちる。
ここで誤解してはいけないのが停止させてはいないという事で、結果的には確かに停止するのだが、その結果の過程に姫の能力が絡むだけで、直接その結果を得られるわけではない。
落下という永続的に発生する速度に対し、できる限りの減速効果を与えているだけなので、完全に浮遊させるということはできないのだ。
「ふぅ......いきますッ!」
姫は深呼吸の後、ペンに対し凄まじい形相で睨みつけたのだが
「おー。止まっ......」
「クッ......ッハ!」
それも長くは続かず、気が抜けたように姫が息を吐き出すと無意識で能力を発動させてしまったのか、姫の視線に沿うようにペンは加速し、地面を貫いて姿を消した。
『あ。』
え?こういう一例ってのは主人公を出すのが普通だろって?
いつまでも分けわからん奴の紹介をするのはやめろだって?
弁明させてほしい。
主人公の世界ばかり見ていると、見上げすぎて首が痛くなる。ごく普通の、一般的な、ありふれた努力もあるということを皆さんにお届けしたかったのだ。
……それでは、ご期待にお答えして”優秀達”をお見せしよう。
応用力測定も残り5人になった午後4時03分。
テニスコートに一番近いコイツ。
数十、いや数百個のテニスボールを使って空中で隊列を組み、さして交差させている。
一つ一つが緻密に制御され、ぶつかりそうでぶつからない爽快感は正に人間の集団行動のそれである。
「あれすごくね?」
「うわー!スゴ!」
「あれ、テニスボールか!?」
「柊君、すごー!」
周りの生徒は見ればわかる凄さに騒めいており、
「柊くん、君すごいねぇ......」
これには紀藤先生もびっくりだ。
「普通ですよ!」
クッソ腹立つドヤ顔。
「これ、テニスボールの数に限界とかある?」
「限界ですか。多分、ここにあるテニスボールじゃ足りないですよ。」
なんだそれ。もっとオドオドしろ。これが限界ですと言え。
「じゃあ、ボールの数増やしても面白くないし、この隊列を交差させながら他のことしよう。」
「例えば?」
もっと普通でいろ。それ以上特別ぶるな。
「いきなり難しいことをさせるのもアレだし......うーん。ペン回しとか?」
「いいですよ。」
唯波の影でコソコソしてればいいものを、どうして、そう目立ちたがる。
「できちゃうかぁ」
「こうやって!ペンを回しながら宙に浮かせることだって可能です!」
なぜ、人の関係に土足で入り込むんだ。
「東条?大丈夫ですか?」
「......どうして.....」
どうして、お前はそう上から見下ろせるんだ......ッ!
「すごいねぇ!じゃあもう一本!」
「まかせて下さ......」
『あ。』
あーあ。最悪のタイミングとは正にこの事。
こういった主人公からの視点だと気付かないような所でも因果は形成され、そして”かたち”となって現れる。
今回は暴力という”かたち”になって。
「痛ッ!!」
「あ!東条!大丈夫!?」
回りながら吹っ飛んでいったペンは、運悪く隣で測定を行っていた東条の左蟀谷に直撃した。
その威力もすごくて、真面に立っていられないような衝撃を与えたのだ。
もちろん宙を舞っていたテニスボールは全て地面に下ろし、急いで東条の元へ駆け寄るスズヤ。これには普段表情を変えない遠坂も焦りの表情を浮かべる。
「ごめん!大丈夫か!?」
「すみません!私も調子に乗っちゃったぁ......」
現場を目撃していた他数名の生徒も渦中へと向かうのだが、あり得ないほど歪だソレに足を竦ませた。
「柊!お前何してるんだ!」
「すみません。本当に申し訳ないです。」
「彼に無茶な事させたのは私です......本当に申し訳ない。」
左蟀谷を抑えながら崩れた体勢を戻してフラフラとその場に立ち上がった東条は、右手でギュッと空気を握った。
まぁ、拳だ。それもギチギチに握られた。
「......ッ!!」
流石に殴られることはスズヤでも分かった。
それに、周りも。
「東条、それだけは......」
「東条くん!それは......」
しかし、東条は固く握った拳を解き、スズヤの肩にその右手のひらを乗せた。
『(え?)』
一瞬の静寂。
「殺す」
そして、刹那の爆発音。
すっ飛ぶスズヤ、どよめく周囲。
全てが異質で、理解が追い付かない。
「......え?」
地面に背を向けて空を見た瞬間、左肩脱臼による痛みが込み上げてきた。
吹っ飛ばされた。分かるのはそれくらい。
しかし、東条は悶えるという思考にも至っていないスズヤに猶予の瞬間など与えない。
「ッ!?」
スズヤがすっ飛んだ距離、約15m。その距離を東条はたった一歩、えげつない加速と共に迫り、そして勢いと共に殴る姿勢になった。
「(やば、殺される)」
『キャーーー!!』
「東条!!抑えて!!」
「うそ......」
マジで殺人現場になる一秒前である。
【端出小学校:東条来人6年生の通知表「生活のようす」】
人の話をきちんと聞く:もう少し
忘れ物をしない:もう少し
みんなと元気よく遊ぶ:もう少し
身の回りの整理整頓ができる:もう少し
自分の当番や係に進んで取り組む:もう少し
きまりをまもる:もう少し
友達と仲良くする:できる
・ひとこと
困っている子を見つけると少し不器用ながらも助けることができ、人のために動ける、とても友達思いな子です。
より多くの子と仲良くなれたらうれしいな......!
担任:(削除済み)先生
次回予告
彼が何故、何を恐れているのか。
彼が何故、今まで全力を秘めていたのか。
今この瞬間、渦中となった天野上越学園の校庭で明かされる......かも。
次回「きずだらけ」
お楽しみに!!!




