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天影の華  作者: AIO
第一章「学園」
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第一話「終点と始点」

《駅のホーム》

そこでは入学式に遅れまいと、急いで電車に乗り込む学生の姿があった。

髪型はショート、身長161cm程度、顔は普通くらいで容姿は平凡そのもの。


「はぁ......間に合った。」


朝早いこともあり、その学生は誰も座っていない座席に腰を掛けると眠ってしまった。

その間、僅か2秒。

しかし、入眠は早くても睡眠は果てしなく長いもので、学生は目的の駅に到着する寸前まで一度も目覚めない程に深い睡眠であった。


果てしない、どこまでも続く荒れた大地

数多の倒れる人々と、自分の背中に感じる視線

そして、自身の胸に突き刺さる刀


最後、引き込まれるように堕ちる感覚。


「まも......く......和摂(わせつ)......和せ......」


学園生は額に少しの冷や汗を流し、少し驚いたようにして目を覚ました。

自分が座っている座席の周りには多くの学園生がおり、いつの間にか身動きが難しい状況にまでなっていた。

そんな中、学園生はふと目を覚まして先程まで見ていた夢を思い出す。


「(うーん。変な夢を見ていた気がする......)」


しかし、そんな賑わいも和摂(わせつ)駅までの話で、ここを過ぎると学園の最寄り駅は存在せず、文字通り電車内はもぬけの殻となるのだ。


「左側の扉が開きます。ご注意ください。」

「はっ......降りないと......」



第一章【学園】



学園生は眠い目をこすりながら座席から立ち、人の波に飲まれながら駅のホームへとその足を付けた。


ここは《学園特急:和摂(わせつ)駅》


学園特急とは学園がある地区だけを結ぶ鉄道で、その最高時速は194.2km/h。見た目はそこら辺を走る電車と少し違い、正面は平べったい四角ではなく流線型を描いている。

特急なのに横向き座席なのかという疑問には、学園特急は一般人も利用する鉄道であると答えよう。快適より効率である。

それに停車駅が少ないのも相まって、長距離であっても長時間ではないのだ。


話を戻そう。

和摂(わせつ)駅から歩いて約15分に位置するのは、『天野上越(あまのじょうえつ)学園』という学園。

前述した七大学園程に優秀な学園ではない、色々な面で平均的な学園である。

数年前に凄い学園生が在籍していたとかいなかったとか、その程度の噂があるくらい。

そんな学園の入学式に参加すべく、正門を通る新入生たち。

しかし、その中に彼の姿が見えない。

同じ制服の学園生に着いていけば必ず辿り着けるはずなのだが、何故か入学式が始まる直前までその姿を現さなかった。


彼が正門を通過したのは、式が始まる三分前。

通常授業の日であれば、指導を喰らうような時間である。

そこで彼は新入生用の紀章を貰うはずだったのだが、自分が一番最後だったこともあり、とあるアクシデントが発生した。


「あ、すみません......紀章が足りないので少々お待ち頂いてもよろしいでしょうか?」


用意されていた紀章が一つ足りなかったのだ。


「わざわざすみません......」


紀章の配布係は先輩がやっていたため、中々先生に取り合って貰えず、対応が少し遅れてしまった。しばらくして、ようやく取り合って貰えた緩そうな女性の先生から代用品として渡されたのが、色の違う紀章。


「仕方ないねぇ。まぁ、遅刻の代償ということでコレを付けな。席は一番後ろの空いてる席に自由に座ってね。」


新入生には黄色の紀章が渡されるのだが、彼に渡されたのは赤色の紀章であった。

目立ちはしないのでこれでいいと渡されたのだ。


「ご入学おめでとうございます。」


かわいい先輩からお祝いの言葉を貰って上機嫌の彼は、少しの色の違いには目を瞑り、体育館二階の扉を通ると一番後ろの空いていたパイプ椅子に腰をかけた。


四月一日、午前8時40分。


「開式の辞。これより3025年度、天野上越(あまのじょうえつ)学園第416期生の入学式を執り行います。」


入学式。

それは、今まで優秀であり続けた自分の終点であり、新たな旅立ちの始点でもある。


「名前を呼ぼれた者はその場に起立するように。」


ここで名前を呼ばれるまでは、この学園に入学していない、何者でもない存在。

名前を呼ばれた時点で、これから新たに自分を再構築していく6年が始まる。

残された命を護るために、自らの命をかける6年間が。


「学園長式辞。その場で姿勢を質して。」


ある者は、それを大いに祝福してくれる。


「満開に咲く桜と、やわらかなそよ風が春の心地よさを伝える今日、天野上越(あまのじょうえつ)学園第416回入学式を挙行できますことは、私たち教職員と在校生にとりまして、このうえない喜びであります。」


ある者は、それを切に望む。


「さて、新たに天野上越(あまのじょうえつ)学園生となった200人の諸君、入学おめでとうございます。諸君の入学を心より歓迎いたします。

天野上越(あまのじょうえつ)学園は創立416年目を迎えた伝統ある学校です。諸君にも、伝統を受け継ぎ、自信と誇りをもって充実した学園生活を築いていってほしいと願っています。」


教員は、心から応援する。


「これから、この天野上越(あまのじょうえつ)学園で生活をする諸君に、二つのことを要望します。一つは、決して『諦めない』ということです。何事にも挑戦し、挫け、そしてまた立ち上がって下さい。諸君の背中には大きな責任と期待が募っています。それらは諸君を縛り、そして苦しめるでしょう。しかし、それらに押し潰されそうになっても、諦めないで欲しい。私たち教職員は諸君に寄り添い、向き合い、助けることができます。もし、辛い時は私たちに助けを求めてください。」


彼女は、強く、懸命に願う。


「二つは、必ず『生きる』ということです。諸君は必ず挫折を体験するでしょう。そして、命について深く考える時が来るはずです。その時、そのまま倒れていてはいけない。必ず立ち上がると、必ず生きると、この場で固く誓ってください。毎年学園を卒業する人数は100を超えません。しかし、諦めないで欲しい。生きて、生き抜いて欲しい。」


「終わりに、新入生諸君に輝く未来が訪れることを願って式辞といたします。天野上越(あまのじょうえつ)学園学園長、遠坂(とおさか)京子(きょうこ)。」


運命は、必ず人を縛る。

しかし、その身体に絡まったものをどうするかは、その人次第ということ。

縛られたまま諦め、そこで倒れ伏すのか

縛りを振り解き、最後の最後まで走り抜けるのか


と、まぁ重たい話はここまでにして、ここからは現実的な話をしよう。

長い長い直線上に点を二つ付けるとしたら、あなたはどうするであろうか。


「新入生代表挨拶です。代表者は前へ。」


如何なる点の付け方をしようと、二点は絶対に被さる事は無いであろう。

なぜなら二つ点が一点で重なった時点で、それは一つの点にしかならないのだから。

必ず二つの点を付けなければならない。しかし、重なればその二つは一つになる。ならばもう一つ点を付けなければならないのだ。


「はい。」


小等部を卒業することで、今までの優秀に縛られた自分に区切りを付ける。いわば、終点である。

学園に入学することで、新たな自分を再構築していく。いわば、始点である。

しかし、この二点に限っては重なる場合もある。


「桜の花弁が舞い上がる今日、私たちは天野上越(あまのじょうえつ)学園に入学いたします。」


そう。コイツのように。

眼鏡をかけた勉強の出来る普通にカッコイイ奴、


鬼才、碓氷(うすい)神真(こうま)


天野上越(あまのじょうえつ)学園、第416期生の首席。この学園に於いて、数年前に初めて打ち立てられた学力試験、能力試験共に満点の大記録。

その大記録を、コイツは数年越しに打ち立てたのだ。

学園に入るべくして生まれてきたような存在には終点と始点の二点も、ただの通過点にしかならないのである。

一番後ろの彼から少し見える碓氷(うすい)の背中は何故か、遠ざかるにつれて大きくなっていくような気がした。


「以上を持ちまして、天野上越(あまのじょうえつ)学園、第416期生の入学式を閉会いたします。一同、起立。......礼。」


入学式が終わり、一番後ろの席から退場するように言われると、そそくさと彼もその言葉に従う。体育館を出ると、一階体育館前にクラス分けが張り出されていた。

全学園では200名が8組に分かれて1組25人とする少人数教育が採用されており、自分の名前を探すにはそれほど苦労する事は無いはずである。

しかし、彼は最前列にいた人達が自分の組を確認して散らばっていった後も組分けが貼られた壁の前に張り付いていた。


碓氷(うすい)......じゃない。あれ?無いぞ?」


そんな訳あるか。

名前順なのだから、各組の上から見ていけば中盤辺りで見つかるはずであろうが。

そんな、いつまでも組み分けの張り紙の前にいる彼を見つけた教員が話しかけようとすると、


「あなた、名前は?」


一人の学園生が彼にに話しかけてくれた。


「......俺ですか?」


彼は周りを確認し、一度自分に声をかけてきたのかどうかを聞き返した。


「あなた以外誰がいるのよ。」

「確かに。」


彼は納得し、そして自分の名前を彼女に告げた。


「俺は(ひいらぎ)(ひいらぎ)涼夜(すずや)っていいます。」

(ひいらぎ)ね。ひ、ひ、ひ、あっ!有った!私と同じ七組ね、行きましょ。」


肩まである黒い髪、セミロングであろうか。

涼夜(すずや)から見ると、少し見下ろすような小柄な身長で声は優しく透き通っており、今まで出会ってきた女の子の中で1番目に美しい、いや、可愛かった。

ちなみに2番目は先程お祝いの言葉をくれた先輩である。


彼女は優しく涼夜(すずや)の手を引くと、七組の教室がある()棟三階へと向かった。

一階から三階まで続く階段は一般的な踊場がある階段なのだが、会話がないと少々虚しいくらいには静か。

もちろん、一年生の教室がある三階からは賑やかな声が聞こえるのだが、階段で無言を貫き通すには援護射撃にもなっていない。

そのため、涼夜(すずや)は前で階段を上る彼女に名前を聞いてみることにした。


「あの、」

「どうしたの?」


「君、名前は?」

「あぁ、まだ言ってなかったね。私は唯波(ただなみ)紗由美(さゆみ)、サユミって呼んでね。」


紗由美(さゆみ)は優しく接し、


「分かった。」

「それでよろしい。」


涼夜(すずや)は、それを受け入る。

その時、何故か彼女を呼び捨てで呼ぶことに、これっぽっちも違和感を覚えなかった。

昔に会っていたとか、そういうものではなく。

ただスッと頭に収まったような気がしたのだ。


「サユミはどうして学園に入ったの?」

「へぇ、そんな事聞いちゃうんだ。」


そして三階に着くと、紗由美はその場で止まってそっと後ろを振り返り、まだ階段を上っている涼夜を見下ろした。

涼夜から見ると逆光で紗由美が少々見にくかったが、しかし眩しくはなかった。

いや、眩しいと感じなかったが正解か。


「どうして私が学園に入ったか知りたい?」

「聞きたい......かな。」


この場面だけ切り抜くと、まるで恋愛漫画の1ページの様であった。

まぁ現実は違うのだが。


「それはね、内緒。」


紗由美はそう言うと、口に人差し指を当てて少し前屈みになる。

この時ばかりは、いくらベタベタのベタなポーズでも可愛いと思わざるを得なかった。

なんだその姿勢、なんだその態度、なんだその顔。全て満点ではないか。


「えぇ......気になるんだけど。」

「教えないよん。もし、スズヤと私が同部屋だったら教えてあげる。」


もうこの時点で二人は仲良しというか、友達である。

そこから七組の教室まではそこまで遠くなかったというか、遠く感じなかった。

徐々に大きくなる賑わった声に遮られながらも二人は何気ない会話で盛り上がり、そして笑い合う。


教室には既に涼夜たち以外の生徒は揃っており、真面目そうなやつから不真面目そうなやつまで様々な属性の奴らが先生が来るまで談笑していた。


「は、はぁい!こんにちは......み、みんなぁ、席に座ってねぇ」


すると、七組の前の扉が自信なさげに開いた。

その時にはもう涼夜も紗由美も自分の席に座っており、先程までの雰囲気は振り出しへと戻っていたのであった。


「みなさん、はじめまして......あお、ああ、あの、私は七組の担任の、応西(おうにし)と申します......」


聞き取り辛いのなら申し訳ないが、コレが彼女の話し方というか性格なのでご容赦ください。

ここでは応西の詳しい説明は控えておこう。

なんせ彼女、こう見えてとんでもない経歴の持ち主のため、今書き連ねると終わりが見えなくなってしまう。

しかし、せめて容姿だけは伝えておく。


身長は160cmあるかないか、紅梅色の髪は肩下程まで伸びており、やや癖毛気味。

白い長袖の上にカーキのジップバックで、ヒラヒラは一切無い飾らないスタイルである。


ということで先生の自己紹介の後、学園生活を送るにあたっての注意や説明がなされた。

最初こそ普通の学校と大差ないような校則の話だったり、教材の配布などが行われたのだが、少し違う点が。


「え、えっと、今皆さんが着ている制服は、正装と言って、学園生活を送る上で一番長く着る制服です......」


そう、制服についてである。

制服は学園の数だけデザインがあり、ひと目でどこの学園に通っているのか分かるようになっているのだが、その制服にも種類があるのだ。

まず一着目が制服(正装)と言われるもので、一般的な布を使った一般的な普通の制服。

今更だが、天野上越学園の制服は真っ白のカッターシャツの上に真紅のブレザー、スカートとズボンはグレーのチェック柄である。また、リボンとネクタイもグレーのチェック柄。


「そして、あの、また後日配るんですけど、第二制服っていうものが、あ、あって、それは礼服と言われています......他の学園にお邪魔する時とかに着るやつです......」


そして、二着目が第二制服(礼服)。

制服と第二制服の違いと言ったら、その色であろう。

真紅だったブレザーは袖口を除いて黒へと色を変え、スカートやズボン、リボンやネクタイからチェック柄が消える。

逆にブレザーが袖口を除いて白になるものもあり、その用途によって着分けるのだ。

と、まぁ違うのはこれくらい。

その次は耳が痛くなるような宿題の話と他学園見学会の話がなされたのであった。


終礼の後、生徒たちは家に帰る......訳では無い。

家から学園には通えないのである。

学園に入学した時点で燎灯科園(りょうとうかえん)の管理下であり、機密情報漏洩防止の観点から、家族と会えるのも年に数日程度しか許されなくなるのだ。

では、学園生たちは一体どこへ帰るのか。


「そ、それでは、寮の部屋割を前の黒板に貼るので、み、見てから帰るようにしてくださぃ......」


答えは寮である。

各学園には、それぞれ三棟から四棟程度の寮が設けられており、学園生はそこで生活するのだ。

もちろん自炊。


応西の言葉の後、この組の生徒は大きく二つに分類された。


「先生!下の名前はなんていうの?」

「先生可愛いね!私もその髪型にしようかな?」

「先生!先生!」


応西に群がりたい派と、


「チッ。行くぞ。」

「えぇ、そうね。」


さっさと寮の部屋割りを確認して相手を確認したい派である。

ちなみに寮の部屋割りは公正なくじ引きで決められ、男女で一部屋なんて事もよくあるのだが、何故そんなことが許されるのか。

それは、都外演習(とがいえんしゅう)が大きく関わってくる。

その都外演習では男女混合四人組の三週間に及ぶ班行動が主であるため、『男女の仲を保ちながら行動するという生活を身につけられるように』という燎灯科園(りょうとうかえん)の粋な計らいにより実現されたという過去がある。


そこの健全な君。そう君だ。


寮が開設されてから約300年、そういった事は一件も起きていない。

学園生は無垢なのだ。純粋なのだ。清純なのだ。

というか、ついこの間まで優等生だった奴らの集団のため、一切と言っていいほど無知なのだ。


涼夜と紗由美は、ある程度混雑が解消された頃を見計らって黒板の前へと向った。


『あっ。』


息の揃った、何かに驚くというか察するような声。

張り紙の真ん中辺りにはこう書かれていた。


304号室:柊 涼夜

304号室:唯波 紗由美


「同じ部屋じゃん......」

「そ、そうね......」


そう、あろうことか涼夜と紗由美は同部屋だったのだ。


「あのさ、」

「あの、」


二人は言い出しが被り、お互いにどうぞと譲り合う。そして、申し訳なさそうに涼夜は先陣を切った。


「よ、よろしく。」

「こ、こちらこそ。」


今、この場であの事を掘り返すのは野暮。

あの時の紗由美の言葉は、まさかそんな訳が無いという自信の元に成り立っていたものであり、現実となってしまった今はそっと脳の奥底に置いておくことが賢明な選択なのである。

ただ、それ以前に"自分でいいのか"という思考がお互いの頭の中を駆け巡る。

もちろん男女が嫌なら女子のみの部屋、男子のみの部屋へと変更が可能なのだが、それもそれで相手を傷付けてしまうかもしれないという思考がまた()ぎる。


ならば、もういいかと。


同室の仲間同士、親睦を深めようと一緒に下校することにした。

下駄箱で待つ涼夜(すずや)

そして申し訳なさそうに小走りでどこからか戻ってきた紗由美(さゆみ)


『......』


先程も話したように、この二人の距離感は先程リセットされたのだ。

初対面だから、出せるあの態度だった。

わかる人にはわかると思うのだが、初対面より顔見知りの方が正直気まずいのである。


『......』


ただ、この二人、全然喋らない。

もう既にほとんどの学園生が寮へ帰った中、太陽が傾き始めた時間帯に、誰もいない道を二人でとぼとぼ帰る。

涼夜が少し前を歩き、紗由美がちょくちょく小走りを混じえて追いかけるような感じ。


《学園特急:和摂(わせつ)駅》

天野上越学園から15分、駅でも喋らない。


《学園特急:車内》

学園特急での移動時間30分、ここでも喋らない。


《学園特急:三高(みたか)駅》

ここでも。


この間大体50分位だろうか。

移動距離54km。喋った回数0である。

これでは(らち)が明かない。

足音ですらよく耳に届くような静寂の中、


「なぁ、サユミ......さん。」


少しぎこちないが、涼夜は勇気を振り絞って話しかけてみた。


「......はい」


紗由美からは恥ずかしがっているのか緊張しているのか、よく分からないような声で返事が返ってきた。


「サユミ、さんって......」

「サユミ......」


「え?」

「サユミでいいって言ったじゃない......」


これで、やっと一歩目である。ぎこちないのも、逆に効果があったのかもしれない。



三高(みたか)天野上越(あまのじょうえつ)学園第一寮》

寮の最寄り駅である三高(みたか)駅から15分、喋った時間10分。

進歩である。大きな進歩である。

あれ程までに気まずそうだった二人は今や立派な同居人で、何気ない会話を出来るまでに仲が復活していた。


部屋に入った後も気まずいと地獄であった。

間違いない。

何も喋らず、ただ部屋の中に届いた荷物を自分の部屋へと運び、夕ご飯を静かに済ませ、静かに風呂に入り、静かに眠るまでが容易に想像できる。


それはともかく、寮を見るなり二人は驚きのあまり空いた口が閉じなかった。


『す、すご......』


一般的な集合住宅の様な構造だが、外装、階段、廊下、その一つ一つがとても綺麗で、新築レベルの清潔感と何もかもが新しいという高揚感が一層それを引き立てていた。

部屋は1階は101~号室、2階は201~号室、という風に階によって頭数が変わる仕組みで、涼夜と紗由美は304号室。

つまり3階だ。

荷物は燎灯科園(りょうとうかえん)の業者によって全て運び込まれ、家具は全て綺麗に整えられていた。

二人は建物の真ん中辺りにある階段を上る。


「あ、そういえば。」


紗由美はふと何かを思い出し、スカートのポケットに手を入れた。


「これ、二つあるから一つ渡しておくね。」

「これって?」


そういって二つ目の鍵を涼夜に渡した。


「304の鍵。スズヤ、事務室で受け取らなかったでしょ。」

「あぁ、ごめんごめん。」


そして二人は304号室の扉の前に立ち、涼夜は先程渡された鍵を鍵穴に差し込み、鍵を回す。


「”ただいま!”」

「”ただいま!”」

《3025年》

舞台は西暦3025年、はるか先の未来の物語である。

ほとんどが史実とは違い、全く違う道を歩んだ世界は果たしてどこに行き着くのか。

それは、神のみぞ知るであろう。


次回予告

遂に学園生活が始動。

入学式の翌日に行われたのは能力測定。

体操服に身を包み、己の力を見せつけろ!!


次回「能力測定」

お楽しみに!!!



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