第十八話「友達であり標的」
友という概念を観測したことはあるだろうか。
数値で表せる?凡その大きさはわかる?長さはどれくらい?質量は?色は?匂いは?
”かたち”は?
分からないだろう。
存在しないものを観測するのは限りなく不可能に近い。
しかし、彼はそれを確かなものとして欲してしまったのだ。
その鋭利な信頼で、阻害的な保護欲で、酷烈な安心感で纏わりつく極大な友という概念は、矛先である彼女の枷となり、より殻に籠らせてしまう結果と相成ったわけだ。
第十八話「友達であり標的」
六限目が終われば生徒全員が感受する、解放を感じる時間。
「き、金曜日が雨の予報で、土曜の測定に影響が出そうな場合は、その、翌週に持ち越されるので覚えておいて下さい......それでは連絡は以上なので、みなさん......!気を付けて帰ってくださいね」
未だに時刻は4月4日の月曜日、15時47分。そう、放課後である。
「帰ろうぜ、サユミ。」
「う、うん。」
休み時間とは違って無限とも思えてしまうような時間の流れで、おしゃべりをしたい女子にとって、放課後というのはしゃべりまくれる空間と時間が確保された理想郷なのだ。
故に帰り際の紗由美は歯切れが悪い。
「やっぱ、ちょっと待って。」
「お、おう......」
折角仲良くなった新しい友達。放課後に話さないなんて勿体ない。
なんなら下校も一緒にしたいくらいである。
「ユウミー!しゃべろー!」
「あ、サユミちゃん!いいよぉ」
男子にとっては、よくわからない女子の友情というヤツである。
「なぁ、アレ。」
「あぁ、唯波さんとユウミじゃない。」
しかし、彼にとってそれは見えないながらも鬱陶しいほどに目障りで、当てつけのように眩しくて、自分より確実性のあるそれに嫉妬し、静かに憤怒した。
《天野上越学園:校庭》
前日の雨はすっかり止み、校庭の隅にはまだ水たまりが散見される4月9日午前8時、土曜日の校庭。
土曜であるにもかかわらず、何故登校しているのか。
それは、測定すべき事項が一つ残っているから。
「よし。七組は揃ったな。島巳先生、七組全員揃ってます!」
「了解です。主任!揃いました!」
大変長らくお待たせしました。能力測定のお時間です。
「では......おはようございます、一年生の皆さん!君たちが入学して一週間経ちますが、学園生活には慣れたでしょうか?今日は入試の時より細かい部分を測定するので、手を抜いたら一瞬で分かります。全力で測定に臨むように。全力というのは......」
学年主任のありがたーいお話と、能力についてこれまでお伝えした内容は割愛して、早速測定について概要を話そう。
まず、最初。
学生たちは入試時に測定した各個人の能力情報を元に、第一から第六能力のいずれかに分けられる。
「第一と第三能力の人は校庭にそのまま残ってください。第四と第五能力の人は体育館、第二能力の人は射撃練習場に向かってください。あと、今から名前を呼ぶ人は分類関係なく指定された場所へ向かってください。」
「第三は校庭であってるよな?」
「第一と一緒だから校庭よ。ここで座ってましょ。」
能力の分類ってなんぞやということで、簡単に説明しよう。
第一能力:生成に関与する能力
第二能力:身体に関与する能力
第三能力:力場に関与する能力
第四能力:変体に関与する能力
第五能力:精神に関与する能力
第六能力:分類不可の能力
てな具合。
ちなみに、第六能力者はこの学園には居ない。なぜなら、皆さんの想像している能力とは少々違うものだからである。
詳しくは語らないが、ぎりぎり人の範囲に収まっている感じで、逆に言えば限りなくアチラ側に近い。そんな能力が第六に分類されるのである。
生徒たちがしかるべき場所へ移動し始めてから5分ほど経つと、200人ほどいた校庭は少々空いたかな程度に人の数を減らした。
ここにいるのは、大体100人ほどである。
「はい!よく聞いて!第一と第三は人数が多いので皆さん指示を聞いて円滑に動いてください。でないと、皆さんの帰る時間が遅くなりますよー」
なんと恐ろしい脅しであろうか。
こんなこという奴は一人しかいない。
七組副担任、新島泰斗である。
「我々も迅速な測定ができるように、様々な先生に協力してもらっています。なので、
ちんたら動いて迷惑をかけないように!では、早速指示を出していきますね。」
《校庭:精密動作性測定所》
運動会の時のように多くの集会用テントが様々な場所に設置されており、各テントに先生が二から四人ほど配置されている。
その内容は計6つで、
・精密動作性測定(全員)
・連続動作性測定(全員)
・限界範囲測定 (全員)
・応用力測定 (推薦)
・最大耐久力測定(推薦)
・最大出力測定 (推薦)
がある。そのうちの一つがコレだ。
「組と名前を教えてください。」
「四組、碓氷神真です」
こんな感じで、組と名前を先生に告げるとテントに応じた測定用紙が渡され、校庭に出るとまた別の担当の先生に用紙を渡し、測定が始まる。
「碓氷君、冷気の生成ですね。」
「はい。」
校庭には測定用紙に応じた測定場があり、精密動作性測定だと、的のような円が描かれた地面に何かしらの生成あるいは鉄球の運搬を行い、中心に近ければ高得点といった測定である。
ちなみに最外円の半径は10m、最心円の半径は10㎝。鉄球の重さは3kgだ。
もちろんmm以下は切り捨て。
そこまでの精度の測定は、七大学園の上位測定もしくは燎灯科園の施設で測るときのみである。
「では、中心に高さ112cmの氷柱を一本生成してください。形状は何でも構いません。」
「わかりました。」
mm以下は切り捨てだ。
そこまでの精度は要求しない。しかし、これは単なる的当てでもない。
「中心との誤差2cm、精密性99.998%です。」
こういった激ムズの課題が与えられるのだ。
確かに、原点Oにコンパスの針を刺すような感じで、慎重かつ丁寧にやれば誰にでもできるのだが、これがえげつないほど脳を酷使するのである。
「冷気による氷の生成は、空中でもできますか?」
「できます。」
空中に生成とは単なる生成ではなく、X軸とY軸上に描かれた円の座標を求めるのとは、わけが違うのである。
「では、空中に10cm程度のつららを生成して中心に落としてください。」
ここに三次元的要素、つまりZ軸が加わるのだ。
これがもうヤバい。
皆さん、想像上は上手くいくだろうが、実際は三次元空間のある座標一点を正確に求めるというコンピューターに任せるような空間認識能力を求められるため、脳の使用率が異常値を超えて鼻血を出す生徒が出てくるほどに、この課題は鬼畜なのだ。
まぁ、ここまで正確でなくとも、これに似たようなことができなければ都外演習にて足を引っ張るだけなのである。
「碓氷君、総合精密性98.998%。10点です。」
よって、頂点からの景色を見ている者からしたら破格の実力を誇るのは当然なのである。
《プールサイド:連続動作性測定所》
ここはプールサイド、ここで測定しているのは連続動作性である。
連続動作測定とは、読んで字の如く一定時間内に連続で能力をどれだけ使用できるかを測定するものである。故に、結構しんどい懸垂的な測定なのだ。
「唯波です、お願いします。」
「はい、よろしくねぇ。」
この連続動作性測定では1分間で何回能力を使えるかを測定するのは勿論なのだが、それ以外にも、威力や効果の減衰、精密性の低下、余力の有無などを見ている。
「測定時間は1分ですよぉ。では早速、測定を始めますねぇ。」
「ふぅーッ!!」
《校庭:限界範囲測定所》
場所は、校庭に戻った端っこ。
「名前と組をお願いします。」
「柊涼夜、七組です。」
限界範囲測定とは、一番簡単かつ一番素早く終わる測定である。
皆さん、長座体前屈を思い出していただきたい。
あと1cm、いや5cmと前年度の記録を超えるために体を精一杯前に倒すであろう。
それと全く一緒だ。
「柊涼夜、万物操作ですか。」
「......はい?」
先生の声が聞こえないのだが、それも無理はない。
連続動作性測定所では、あの紗由美が割れんばかりの爆音を立てながらプールの水を1秒間に何回も空中へ爆散させているのだから。
ちなみに、大体震度1くらいの地響きもしていることを付け加えておこう。
《プールサイド:連続動作性測定所》
その根源、つまり紗由美はというとプールサイドでジタバタしていた。
紗由美の能力は『音衝波』、つまり『衝撃系』と俗称される内の一つで、最も破壊力を持った能力の一つに分類される。
「残り!15秒!がんばってぇ!!」
どういった能力かと言うと、自分で発した音を何千倍にも増幅させることができ、その向きや伝わり方を操作できるというモノ。
音自体をかき消すことはできないが、地下の果てや空の彼方まで音を飛ばすことで実質的に消音効果を得ることができる。
まぁ、今はそんな事はどうでもいい。
今はただ、目の前の水にできるだけ多くの衝撃を与えることに集中したらいいのだから。
「うおーーーーーあああああ!!!」
音は自分が発したものなら何でもいいため、このように飛び込み台の上で足踏みをするようにジタバタしていたら、後は衝撃を発生させたい場所を意識するだけで勝手に何千倍にも威力が増幅されて衝撃波として放たれるのだ。
「はい!1分!!おわりー!!」
「ふぅーっあぁ、疲れた!」
この様子だと、まだいけそうだ。
こんなものを見せられると、特に衝撃系の生徒は圧倒されてしまう。
「連続性、持続性において文句ないねぇ。まぁ、全力じゃないでしょ?」
「あ、バレました?」
何故か。
こんな連続で、あんな威力の衝撃を発生させられる時点で殆どの攻撃系能力において上位互換であるのは確かだ。その中でも特に破壊力を持つ衝撃系は、その発動間隔が長い代わりに高威力というのが魅力だったのに、紗由美のそれは、その概念を根本的に覆してしまっていたのだ。
「これ以上はプールが壊れちゃうから、今回は目をつむりまぁす。」
「ありがとうございます!よっ紀藤先生!」
しかも全力ではないと来た。
「褒めても何も出んぞぉ。あ。そういえば、最大出力測定の推薦は貰った?私が推薦しようか?」
「えー!?ホントですか!ぜひお願いします!」
《校庭:精密動作性測定所》
「東条君、圧縮の能力ですね。」
「......。」
精密動作性と言っても、一様に同じ測定方法な訳ではない。
精密な動作とは、多種多様なのだから。
「では、こちらです。」
円が描かれた測定所から少し離れた精密動作性のもう一つの測定所。
テニス部が使うテニスコートだ。
しかし、テニスコートを使うかと言われれば全くそんなことはなく、ただ、場所がココしかなかったというのが理由である。
「お、東条か。」
ここにいたのは新島だ。
「さっきのプール見たか?あれ、唯波だったらしいんだ。やっぱアイツはすげぇわ。」
「......へぇ。」
別に嫉妬ではない。
アイツに何もかも負けてるとか、思ってない。
「まぁ、興味ないか。じゃぁ早速、測定しよう。」
圧縮。
触れたものをなんでも圧縮することができる能力で、応用すればダイヤモンドだって作れる凄い能力。
まぁ、東条の能力等級では流石に無理な話だが。
「このテニスボールを、こっちのピンポン玉くらいまで圧縮してくれ。」
「......ん。」
東条は新島に言われた通り、テニスボールを圧縮した。
「んー?おいおい。テニスボール、どこ行った......?」
「さぁ。」
ただ、ピンポン玉の大きさという指示を無視し、完全に目に見えない大きさまで圧縮してしまったのだ。
「お前なぁ、手加減できないのか?」
「したことない。」
直径6.54cmあったテニスボールは、おそらく髪の直径程度まで小さくなったのであろう。
しかし質量は変わらないため、新島の手の上には、その重さがまだ確かに残っていた。
「はぁ、もう一回。次は手加減しろよ。」
「チッ。」
新島はその重さを払うかのように手を叩き、テニスボールを再び右手にのせた。
「......また消えたじゃねぇか!!」
《校庭:効果範囲測定所》
「横方向は満点。測定範囲限界も余裕ですね。」
「簡単です!」
テニスボールごときを100m先まで届けるなんぞ、寝ながらでもできるわといった顔だ。
「では、先程の要領でテニスボールを空高くまで、できる限りでいいので運んでください。能力で弾き飛ばすのはなしで。」
「わかりました。」
そう言われると、涼夜は先生からもらったテニスボールをゆっくり確実に空中へ浮かせた。
あとはできる限り空の彼方へ運ぶだけ。
まるでヘリウム入りの風船かのように空へと上昇を開始したテニスボールは、1分も経たないうちに視界から消えた。
~5分後~
「あの、今どのくらいですか?」
「僕にもわかんないです。」
何故わからんのだ。お前が今も操作しているのではないのか。
「えぇ......?」
いつも真顔の社会科教師、遠藤美香もこれには困惑の表情を見せざるを得なかった。
「分からないって、一体どういう......?」
「いやー、空高くっていう感じで浮かせたは良いんですけど、操作の仕方わかんないんですよねぇ。」
困惑。
これは万物操作というより、念力操作だ。
コイツ、意識外でも物体を浮かせ続けているあたり、ボール自体に何かしらの永続的な念力を与えたのではないか。
「空高くって、どれくらいですか?」
「さ、さぁ......」
それも分からないんかい。
おそらく、あのテニスボールは果てしない時間をかけて、やがては太陽系を脱出するのであろう。
「ではッ、この.....ッ砲丸をッ!空高くまでッ!」
「あの、持ちましょうか?」
見た目だけで10kg以上あるのは確実な砲丸だ。
「大丈夫ッ、ですッ!ふぅ。」
重さは20.23kgで直径13㎝。重さ以外は、ごく一般的な砲丸である。
ただ、少し違う点がある。
「この砲丸は5秒以上空中に浮くと中の固定ピンが抜かれて、能力が解かれた瞬間に重力によって勝手に信管が抜かれる仕組みになっています。」
「は、はぁ。」
爆発するのだ。この砲丸。
もう、ここまでくると砲弾である。
「よって、能力範囲外に出た瞬間爆発する感じですね。なので!絶対に!100m上空まで浮かせられるという確証がないと使用が認められないのですが......」
~10分後~
『あぁ......』
二人して上を見上げて、開いた口が塞がらない様子。
「”範囲に限界なし”で、いいんですかね......」
「僕に聞かないでください。」
再び、宇宙にゴミがばらまかれてしまった。しかも次は爆発するという”おまけ”付きだ。
「涼夜くん。応用力測定、受けてきたら?」
「受けたら何かあります?」
応用力測定。
例えば万物操作だと、物を投げつける攻撃だったり、物資の運搬だったり、より精度が良ければ拠点設営も可能だ。
こういった、一つの能力に対してどれだけの利用価値を見出せるかの測定である。
「まぁ、ちょっと成績が良くなる。」
「受けます。」
紗由美と勝負している涼夜にとって1点でも多く欲しいと思うのは必然であり、まず分母を増やせるという点において、これ以上の有利は無いのだ。
それが例え、帰るのが遅くなる追加測定であってもだ。
《テニスコート:精密動作性測定所》
「東条、おまえこのままじゃ点数無いから応用力測定受けてこいッ!俺が推薦しておくからな!嫌って言ってもやらせるからな!」
「......はぁ。」
こっちはこっちで、1点でも多く欲しいというのは一緒のようだ。
まぁ、多少の理由は異なっていたとしても。
「返事ッ!!」
「......はいはい。」
東条も成績不振で退学は御免だ。
しかし、言われたことには反抗したくなるし、自分より優れているものには目をそむけたくなる。もし、こちらに危害を加えようものなら徹底的に相手を捻り潰すことだっていとわない。
思春期とは難しいものである。
《天野上越学園:校門》
「第二の測定ってどんなのだった?」
「普通ですよ。」
「普通って、例えば?」
「主席の神真君っているじゃん。あの子、推薦測定全部受けるんだって。」
「マジ?俺なんて推薦一つももらえなかったのに!」
「まだ3時かぁ。買い出し行く?」
「卵、無くなってた。」
「じゃあ決定だな。」
各々、測定を終えてパラパラと下校していく生徒が出てき始めた午後3時12分。
推薦を受けた者は、食堂に留まって他の生徒が全測定を終えるまで待っていた。
【2718年学園特急事件の能力に関する再現実験報告書(2801年発表)】
学園特急:新都会発姫野行に上り三号て行われた(削除)について、(削除)容疑者と同じ能力系統の人間を用意して同環境で実験を行ったところ、全く同じ結果となった。
(解読不可)の反発力は凄まじく、発火現象を伴いながら元の大きさに戻ろうとする。
この威力は当時の車体の耐久力を大きく上回っており、現在使用されている車体でも壊滅的な被害を受ける事が分かった。
次回予告
推薦された者のみが受けることができる三つの測定。
全力を秘めたる能力者がそれを放つとき、そこには一体何が見えるのだろうか。
次回「秘めたる全力」
お楽しみに!!!




