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天影の華  作者: AIO
第一章「学園」
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第十七話「美しいを伝える術」

自分が美しいと感じる世界を如何として伝えるべきか。

かの天才たちは言葉で語るよりも、より直観的で明確な手法を用いた。

あり得ない、信じられない、非現実。

だからどうしたのだ。これが美しいのならば、それで良いだろう。

これから教わるのは「美しい」を伝える術。


美術である。


「次の授業って、七組の教室でいいの?」

「次は美術がここでできるわけないでしょ。ほら行くわよ!」


少し時間を戻そう。具体的には15分くらい。

昼ごはんを済ませ、雑談を少しの間かわした頃だった。


「あ......!えぇっと、あの、用事思い出したから、お先に失礼してもいいかな.....」

「全然大丈夫よ。また後でね!」


有美が用事を思い出したようで、焦りを少々面に出しながら謝るようにして、涼夜と紗由美にそのことを伝えた。

約束による用事というよりかは、どちらかと言うと命令による用事といった印象。

分かりやすく言えば、友達との遊ぶ約束を忘れていた子供が急いで家を出るというよりかは、親のおつかいを忘れていた子供が急いで家を出るといった印象だったという感じ。


「えらく焦ってたなぁ。」

「先生に呼び出しでもされてたんじゃない?」


故に、先生からの呼び出しを忘れていたと思うのが一般的。


「大垣さんが?」

「まぁ確かに。真面目そうだし、それはないか。」


しかし、先ほど話した感じだと呼び出されるようなことをする子じゃないというのは明確であるため、少々の疑問を抱かざるを得なかった。

まぁ、15分前にあったことといえばそれくらい。

ここからは二限に及ぶ美術の時間だ。



【波棟一階:美術室】

美術室には誰が描いたか分からないような絵画や、誰が掘ったのか分からない彫刻、誰が組み立てたのか分からない寄木細工などが散見され、いかにも工房のような雰囲気を漂わせている。


「皆っさん、初めまして。私は、美っ術の授業を担っ当する明石あかししょうです。よろしく。」


この癖の強い喋り方をするのが、一年の美術の担任教師である明石あかししょうである。

授業が始まってまだ一分も経っていないが、もう明石がどんな先生なのか分からない生徒はいるまい。


「既に察している生っ徒さんもいるかもしれないですが、私はここにある全ての作っ品を手がけているのですよ。ふふ。」


しかし、ここにある作品というのは大して尖っているものは無く、ごく普通の大衆の感性にも多少の感銘を与える程度のデキのものが大半である。

故に、さほど感性が傾いているという事でもなさそうだ。


「こういうモノに興っ味がある生っ徒さんは、放課後にまたこの教っ室に来てください。待っていますよ。」


『(勧誘かよ.....)』


美術の授業では各個人の机と椅子があるわけではなく、4から5人で一つの大きな机を囲むような感じ。順番は自由という訳ではなく、出席番号順だが。

故に涼夜と紗由美の席は離れており、互いの作成する作品は直接見れないような位置関係になっている。


「と、勧誘はこれくらいにしておいて。今日、皆っさんにはなんでも良いので絵を描いてもらいまっす!なんでも使っていいし、なんでも描いていい。皆っさんの絵を見せてください。」


「(へぇ、自由なのか。サユミはどんな絵を描くんだろ)」

「(ふぅん、自由ねぇ。スズヤって絵心あるのかしら)」


ならば、起こらないはずがない。


静かなる競争。


常日頃から何かを競いたい年頃である生徒達にとって、自由課題、自由制作というのは格好の的であり、自己を確立したいという思春期ならではの逸る気持ちに合わせた、なんとも上手い課題だ。


「教室の外に出るとしても、私の目の届く範囲でお願いしますね。では、お好きに何でも描いてください。はじっめ!」


「よし、俺は水彩画!」

「私、油絵しちゃおっかな」


美術とは自分の世界を表現する技である。


「鉛筆画......やるか。」

「クレヨンなんて何年ぶりだ」


己のやり方で観察、想像。


「外の桜でも描こうよー」

「いいよー」


自らの感覚で創造、表現。


「人物画っていうか、漫画?」

「ふふん。かわいいでしょ!」


これで、表面上では確認しづらい性格や思考も分かるというモノ。

本物みたいな風景画を描く子は現実的、幻想的な想像画を描く子は夢見がち。

また、水彩は繊細な子が多かったり、油絵は独創的な子が多かったりと、断定はできないまでもそれなりの傾向は分かるのだ。


「(このっ子たちは行動的ですねぇ。お、この子は水彩で風景を描きますかぁ!下書き無しという豪快さも兼ね備ていますねぇ。)」


全員が全員、違う描き方で描くもんだから面白いのなんのって。

明石は歩き回りながら早くも結論に至った。今年の生っ徒は逸材だと。

普通、人間は個で動くことはない。

自由に生きろと言われた際、個より集団のほうが生存できるのは周知の事実である。しかし、こと芸術においては一概にそうとは言えないのが面白いところ。


「(ほっほぉ、鉛筆で漫画を描きますか!なんと独創的!後でじっっっくり見させてもらいましょう。)」


集団で生きる社会において突出した才能というのは、足並みを添えるという観念から排除されがちである。

ならば、芸術における突出した才能というのはどうであろう。


「(んっ!?クレヨンで緻密な筆箱の写生!?色鮮やかな筆箱、いいですねぇ。)」


それは一等星のごとく輝く。

何も遮るものがない、燦燦と輝く一等星と成るのだ。


「(はぁ......ッ!美しい油絵、幻想的なあなただけの世界ですかァ!素晴らしい。)」


しかし、今年は一等星が多すぎる。

目が潰れそうなくらいに輝く芸術の光に、明石は眩暈すら感じるほど。

一年間、この子たちにありったけの時間を与えたいと思うほどである。

授業はできないが、決してサボりではない。本当である。


14時40分。

一瞬であった。美術の一限、つまり五限目は明石の体感時間にして5分でおわりの鐘を告げたのだ。明石は、この鐘の音に少々の嫌悪感を抱いた。

芸術に焦りは禁物。何があっても、自分の世界と時間を邪魔することは許されない。

故に授業が終わってしまうという焦燥感を与える鐘の音は、明石にとって天敵なのだ。


「皆っさん!休憩時間なので、きちんと休憩してくださいねぇ!あと五回くらい自由制作の時間を設けるので焦らないでねぇ!」


しかし、これに何もしない明石ではない。

ならば、焦ることがないほどに時間を与えればいいのだ。

もちろん、一年間の授業構成はガン無視である。学園長がこのことを知れば、大目玉を食らう事間違いなしの案件なのだが、その危険を背負ってまで見たいものがそこにあるのだ。



《美術室》


「スズヤー、どんくらい描けた?」

「うーん。」


なんか、覇気がない。


「白紙じゃん」


こいつ、先程の時間何をしていたのかと言うと、白紙をずっと眺めていただけである。

描くものなんて何も握っていない。その腕を組み、自分の描きたいものが何かをじっと考えていたのだ。

確かにいきなり何かを描けと言われても、何も思い浮かばないのは万人に起こり得る現象なのだが、50分間丸ごと手を動かさない奴は初めて見た。


「どうすんのアンタ......」

「うーん......」


このままではマズイ。


「ちょっとトイレ行ってくる。」

「いってらっしゃい。」



《中庭:美術室前》


「ライト。何か思いついた?」

「うーん。」


こっちも覇気がない。


「小学生の絵みたい。」


しかし、こっちはどっかの誰かさんとは違い、絵心がないなりに少しは手を動かしていたようだ。


「うるせぇ......苦手なんだよ、こういうの。」


しかし、そこらへんに落ちている石を適当に鉛筆で描いただけじゃ、とても点数があるとは思えない。


「もう一枚、紙貰ってくる?」

「うーん......」


かと言ってもう一枚描くのもめんどくさい。


「トイレ。着いてくんなよ。」

「いかなーい。」



《波棟一階:男子トイレ》

ここは中央階段の横にある男子トイレ。


『あ。』


邂逅。いや、エンカウントか。

必然のようで偶然。

どちらも相手にビビるとか引けを取るとかしないため、気まずいとかそういう空間にはならず、この空気感を簡単に言い表すなら、そう。


一触即発。


「なんだよ。」

「いや、別に。」


来人は両手をポケットから出し、そのまま垂れ下げた。

対する涼夜も組んでいた腕をほどき、そのまま垂れ下げる。


「少しはビビれよ。」

「嫌だ。」


しかし、その手がお互い出ることはなかった。

弁えるというか、お互い乗り気じゃなかったというのが正解だろうか。

しかし、緊張状態であることには変わらず、仲がいいという訳でも決してなかった。


「お前、何描いた」

「何も。」


便器の前に二人並んで喋る光景は、会話の内容と奇跡の合致。

これこそ学校でよく見る連れションに似た何か。


「煽ってんのか」

「別に。」


まぁ、連れションと言うのは教室に始まり教室で終わると言うように、本命がトイレという訳ではない。

厳密には、これを連れションと言わないという事である。


「......ホントに何も描いてないんだよ、お前こそ煽ってんのか」

「んだよ。最初からそう言え。」


そもそも、コイツ等はそんなに仲良くない。


「お前、下は金じゃないのな」

「流石に染めねぇよ」



《美術室》

少し時間が経った、15時01分。六時間目が始まって11分。

25人いる七組の生徒の中で、手を動かしていない生徒は涼夜ただ一人となった頃だ。

最初はあった紗由美と張り合う気すらなくなった涼夜は、ただひたすら何を描くかに苦悩していた。


「(ん?このっ子、手が動いて......白紙。何も思いつかないのかな?)」

「(あー、どうしよ。)」


あまりに何も思いつかないため、白紙の上を鉛筆の芯が触れない程度に滑らせる。


「(ッ!!??違うッ!何も思いつかないんじゃない、思いつきすぎているのかッ!)」

「(描いてる気分にでもなっとくか。)」


それに飽き足らず、次は両手に鉛筆を持って鉛筆を空振りさせる。


「(ハガッ......両手だッ!手が追いつかないとでも言わんばかりの豪っ快な動き!)」

「(これ、両手でペン回しできるんじゃね?)」


次は両手でペン回しをするらしい。

鉛筆であるという点で既に不可能に近いと思うのだが、彼にはそれ以外やることが無いのだ。長い間考えた結果、両手ペン回しに辿り着いたのだ。


「(止まった......はッ!?見える!?この時間の内に描いたであろう全てが!彼の世界がほんの少しだけ見えるッ!美しい......)」

「(やめとこう。芯折ったらめんどくさいし。)」


間違っても明石が感じ取っているような創造性は、涼夜の頭の中をどれだけ探そうが微塵もない。


ひいらぎ君。」

「(あ、やべ!怒られる!)......はい」


まぁ、芸術というのは案外そういう一面もあるのかもしれない。

意図せぬ表現の解釈は、時に本人の世界を超越したものが生まれることがある。

自らの価値観で勝手に評価して、当てはまらなければ勝手に駄作とする見る側の悪い癖だ。


「美術部に来ないか?」

「遠慮します。」


美しいとは創造する側と、感受する側で一致するとは限らない。

それを一律に美しいと思わせる事ができるのならば、それこそが”世紀の美”と言えるのであろう。

《部活》

学園でも他の学校と同じように部活動をすることができる。全国大会などには参加できず、学園統一大会などが代わりに開かれる。

各学園ごとに固有のものや強豪校なども存在し、学園生にとって無くてはならないものとなっている。


次回予告

学園における1日の流れは大体わかっただろうか。

次回は少し時間が経った土曜の話。

能力測定の最終項目の測定だ。無事に測定が完了するのだろうか。


次回「友達であり標的」

お楽しみに!!!

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