表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天影の華  作者: AIO
第一章「学園」
10/25

第九話「まぐれ勝負の行方」

測定が始まったとはいっても装填、構え、次弾装填の点数はその日のうちに分からないので、二人の勝負は標的をどれだけ正確に射貫けたかで決まる、マジの競技方式である。


「じゃ、ヒイラギ。装填から始めて。」

「それじゃ、タダナミさん。始めて下さい。」


そういえば、生徒たちが握る銃について説明をしていなかったため、ここで説明しよう。

『二九〇七式 駿河銃するがじゅう

正式名称を二九〇七式駿河銃特殊貫徹軟鉄玉装填型(=乙型)と言い、回転式ボルトアクション方式を使用した、いわゆるボルトアクション式歩兵用銃である。


「(えぇと、まずこの棒を引いてっと)」

「(それで弾倉に装填よね)」


二人は応西の説明を必死に思い出し、五発の弾薬を弾倉に込めた。


「(一直線じゃなくて互い違いになるように)」

「(ちゃんと装填されてるはず)」


『よし。』


二人は“当てる目”をしていた。

応西と新島もその目に少々の驚きと関心を抱き、引き金を引く瞬間を今か今かと待ち望んだ。構える姿勢も相まって、まるで、射撃屋台で子供ながらに欲しい人形を射殺する目で見ているような感じである。


二発、銃声が響いた。


「痛ッ!痛ッ!」


的中である。......紀藤に。

応西、新島そろって期待外れの結果にガクッとこけそうになった。


「ちゃんと的を狙ったか?」

「はい、狙ったはずなんですけど......」


「サユミちゃん、ちゃんと的を見てた?」

「見ました。」


疑問は分かる。なぜ紀藤が生きてるのか。

それは弾に理由があるのだ。

特殊貫徹軟鉄玉とくしゅかんてつなんてつだま

先ほどまで模擬弾と言っていたのはコレのことで、テツテツ玉や、単純にナンテツ玉と言う。

この弾は対人にあり得ないくらい適性がないことでも有名で、余程の近距離で撃たない限り皮膚すら貫通しない代物である。故に50mも離れていれば、殆ど威力はない。

しかし射程距離が短いという訳でもなく、この弾の有効射程距離は700mである。

どういった仕組みなのかと言うと、弾自体が一定の硬さを持つ物体に当たると急速に軟化し、ちょうど水滴のように弾けてしまうのだ。

これは弾の先端の尖った部分からの衝撃にのみ起こる現象で、射出時の衝撃ではびくともしないのが上手くできている点である。


「紀藤先生!大丈夫ですか!」


「うーん、ジンジンするなぁ。まぁ大丈夫ですねぇ。」


相変わらずやる気なさそうな感じだが、50m先から声は届く。

紀藤の無事も確認できたので二人は次弾装填を行い、再び50m先の的を狙った。


また、二発の銃声が響く。


「いでッ!痛ッ!」


しかし、幾ら高性能な弾だとしても1000m/sで飛んでくる水滴と大差ないため、普通に屋台に売っているような玩具の銃で撃たれるくらいには痛い。


「本当に的狙ってる?」

「狙ってるんだけどなぁ......」


「サユミちゃん、的だよ!的を狙うの!」

「狙いました。」


確かに“そこに居る”という時点で、無意識下に狙ってしまうかもしれないのは事実である。

テニスの試合で見たことはないだろうか。前にいる選手にサーブを当ててしまう選手を。

そう。そこに居るというだけで、視界に入った時点で一つの視線のやり場になるため、自然とそちらに目が行ってしまうのだ。見てはいけないと思うほどに見てしまうのである。


「紀藤先生!大丈夫ですか!?」


「んー。まぁ、大丈夫でーす。ちょっと私移動しますー。」


紀藤はそう言うと横へ10m程移動し、この施設の隅にスッと納まった。

ここまでくると、敢えて銃口を紀藤に向けない限り当たるはずがない。

次こそは大丈夫。

そして、またまた銃声が二発響いた。


「痛ッ!どうしてぇー......」


しかし二人から射線を切り、どうあがいても当たらない位置にいても、紀藤は額に先ほどまでと同じような痛みを覚えた。


「銃口は......ちゃんと真っすぐだったな。」

「はい。」


「きちんと銃口は正面を向いてたよねぇ......跳弾とかもあり得ないし......」

「狙ってませんよ。」


この弾に限って跳弾はあり得ない。

向こう側、50m先の標的もしくは盛土に着弾した時点ではじけ飛ぶはずだからである。

そのはじけ飛んだ破片が運悪く当たったのだとしても、その当たったという感覚を感じないほどに小さな破片にまで弾けてしまっているはず。

では何が紀藤を襲ったのであろうか。


答えは簡単。


「すみません!紀藤先生、大丈夫ですか!?」


隣で練習していた生徒の弾である。

もう少しで自分が測定という緊張感から、的を凝視しようとすればするほど、奥でうごめく何かに目が映ってしまうのだ。

この施設に入って50m先の壁の方向を見ているとしよう。

射線は全部で八射線あり、測定用の50mは右端より二射線を使用している。

練習用の10mは残りの六射線を使用しており、練習用の六射線の裏には奥行き40m、幅12mの何もない空間が広がっているのだ。

先ほどまで紀藤は右側、練習用と測定用のちょうど隙間くらいで的の交換係として滞在し、被弾。その後、被弾を避けるため、練習用の六射線の向こう側を横切る形で移動したことで、練習していた生徒たちの目に映ってしまったのだ。


「あぁ、そっちかぁ。これは私が悪いなぁ。」


「練習用で撃ってる人達!気を付けて撃つんだぞ!」


新島は紀藤に弾を当ててしまった生徒を含め、練習用射線にいた全員に気を付けるよう注意を促した。


普通の感性ならあり得ない対応であろう。

向こう側で人が立っている時点で、人に弾が当たる時点で、中止すべき条件はそろっている。しかし、それは一般的な概念であって、人もしくは生物に対し、射撃してはいけないという感性を捨てさせないためである。

学園はそういった概念を育てる場所ではない。捨てる場所だ。

故に決して故意ではない誤射に関しては、人に弾を当ててしまったということに計り知れないほどの責任を問うのではなく、的を外してしまったということに教育としての注意をするのだ。

少々重い話だが、これが学園という組織なのだ。


話を戻そう。

紀藤に当たった弾が二人のものでないとするならば、二人が放った弾は一体どこへ行ったのか。紀藤が再び練習用射線の奥を横切り、的の周辺を探すと、それらしき跡とまだ少し暖かい弾の破片が、それぞれの的の中心よりそれなりにズレた場所にあった。


涼夜、中心より八時の方向に97cm。

紗由美、中心より一時の方向に66cm。


的にかすりもしていない。

初心者とはそういうものだが、これでは勝負にならないのではないか。

確かに的に当たっていなくても、どれだけ的に近いかで競えるかもしれないが、実際にどれだけ離れていたかなど伝えられることはなく、ただ外れたという事実のみが伝えられるのだ。


「よし。四発目いこうか。」

「わかりました。」


「サユミちゃん!が、がんばって、あと二発だよ!」

「次は当てます。」


槓桿を起こして次弾を装填し、固定照門を覗く。

次は当てると意気込み、引き金に指をかける。

紀藤はというと同じ轍は踏むまいと、先ほどまで被弾しまくった場所でうつ伏せになって、顔だけ起こしていた。


四度目、また二発の銃声が響いた。


「うーん。はずれだねぇ。」


しかし、今回は的にも紀藤にも当たらず、ただただ的の後ろの盛土へ弾を打ち込んだのみとなった。


涼夜、中心より六時の方向に55cm。

紗由美、中心より三時の方向に67cm。


「なるほど。まぁ、初心者だし気にするなヒイラギ。」

「あらら、大丈夫だよ。しょ、初心者だしね、全弾外しても大丈夫。」


この時、涼夜は一切焦っていなかった。

何故なら、この射撃で引き分けなら涼夜の勝ち、もしくは引き分けで幕を閉じるからである。

逆に焦っていたのは紗由美である。

あれほど余裕を見せていた50m走の後からは想像もできないほどの劣勢であり、ここで勝たなければ勝ちの目が無くなってしまうのだ。


「(まずいわ。非常に。このままじゃ本当に負けちゃうじゃん!)」


紗由美の焦りも虚しく、残る弾はあと一発。

この感覚で行くと、まぐれでも起こらない限り絶対に的にすらかすらないのは確定している。それは涼夜も理解しており、まるで焦ることもなく余裕で次の一発も外すであろう。


「じゃ、最後の一発。どうぞ。」

「最後だよ!サユミちゃん、がんばって!」


槓桿を起こし、最後の弾を込める。

排夾された空薬莢の弾む音がこれほどまでに焦りを生むものだとは、思いもしなかった。

五発目。勝負の一発。


「(構えと装填だけはきちっとしておこっと。)」

「(スズヤにだけは負けたくない!)」


固定照門に糸を通すように、紗由美は視線を通す。

遠い。的が遠い。

白衣を下からめくりあげて頭にかぶせ、伏している紀藤を横目に、確かにそこにある的を目で確認する。


「(ふっふっふ。サユミ!今晩作るのはカレーだッ!)」

「(遠くのもの見てたら、鼻がむずむずして...)...ハッくしゅんッ!!」


五度目、銃声が二発響いた。


「タダナミさん、命中だねぇ。」


紗由美、命中である。

余裕で外した涼夜とは違い、的のど真ん中、中心0cmを記録したのだ。

この記録は、天野上越学園の歴代一年生の中で二人目の大記録で、くしゃみをしたからといって蔑ろにできるものでもない。

この瞬間に3対3となり、勝負の行方は来週の4月9日に持ち越されることになった。


「ほぉ、やるなタダナミ。」

「えぇぇええ!?命中!?しかも、ど真ん中って......」


「やったぁ!サユミちゃん!すごいよぉ!」

「た、助かったぁ......」


紗由美はこの事実に心底安心し、構えていた小銃をスルッと手放してその場に崩れ落ちた。

緊張状態から一気に解放された紗由美は、全身から一気に力が抜け、つかの間の放心状態に陥ったのである。


これをもって、本日の二人の計測は全て終了した。

50m走、幅跳び、長座体前屈、握力、1500m走、そして射撃。

それぞれ涼夜と紗由美は三種目ずつ勝利をおさめ、3対3と大接戦となっている。

この勝負の行方は来週の9日に行われる能力測定までお預けとなり、暫しの休戦協定が結ばれたのであった。



《天野上越学園:正門》

一年生しかいない帰り道。16時02分。

終わるのが一番遅かったのは七組のようで、あたりには全くと言っていいほど人がいなかった。


「まさか、的に当たるなんて......しかも真ん中って、そりゃないよ。」

「私も当たるなんて思わなかったわ。でも、運も実力のうちって言うでしょ。」


まだ散り切っていない桜を横目に、隣を歩く紗由美を細い目で見る涼夜。


「でも、来週こそは勝つからな。」


その言葉を聞いて、紗由美は涼夜の隣りから小走りで駆け出し、前に出て涼夜と面と向かう様にして立ち止まった。


「勝ちは譲らないよ」


桜が夕日に照らされる午後四時。

紗由美は涼夜を指さし、自信ありげに、そして満面の笑みで言った。



《天野上越学園:凍三階》


「ちッ。イチャつきあがって。」

「ライトもあんなことがしたいの?」


この二人、午後から一切姿を見かけないと思ったら、こんなところにいたようだ。


「馬鹿か。俺は......」

「ふーん。」


「あれ、こっちから声がしたような気がしたんだけどなぁ......」


そこへ、東条と姫を探していた応西が通りかかった。

しかし、そこに二人の姿はなく、ただただ夕日が少し差し込む薄暗い廊下が奥まで続いているだけであった。

《二九〇七式 駿河銃するがじゅう

正式名称を二九〇七式駿河銃特殊貫徹軟鉄玉装填型(=乙型)と言い、回転式ボルトアクション方式を使用した、いわゆるボルトアクション式歩兵用銃である。


重さ:3820g

長さ:1276mm

装弾数:5発

口径6.5mm

有効射程距離:700m

最大射程:4400m

製造:春場重機械工業


特殊貫徹軟鉄玉とくしゅかんてつなんてつだま

テツテツ玉という愛称、もしくは単純にナンテツ玉と言う。

対人にめっぽう弱いが、酷天者オボロの朽ちた表皮にはもろに刺さる。

酷天者の核を射貫くことも可能。


弾丸径6.65mm

以下極秘


次回予告

これにて一旦休戦!

決着は来週の土曜日、能力測定にて。

と、その前に通常授業の開始である。


次回「これが日常となる」

お楽しみに!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ