エマの役割
【明けて『マギ・クラフト』店内にて】
「本日は私も同行します。よろしくお願いいたします」
地獄のダンジョンアタック翌日。本日のアタック準備をしていたソルへ、エマが声をかけた。
不満たらたらながら、借金の返済も兼ねているため渋々準備をしていたソルは、その言葉に一瞬口ごもる。
「・・・・・何か?」
「あ、いえ。マギ・・・さんが出かけるときいつも留守番だったんで、てっきりエマさんは
非戦闘員なのかと」
「非戦闘員ですが?」
「は?」
待ってくれ。戦えるから同行するんじゃないのか?丁寧な物腰で実は強い、とかじゃないのか?
「ちょ、ちょっと待ってください。じゃなんのために行くんです?」
「荷物持ちです」
「荷物持ち!?」
もう訳が分からん。荷物ってのは、冒険者一人一人が最低限必要なものを選んで、自分たちで背負うものだ。
人によって種類も数もバラバラだし、使いどころも戦闘を経験したものでないと、見極めるのは難しい。
それを、非戦闘員にさせる・・・・?
そこで、ソルははっと気づく。
・・・聞いたことがある。
金持ちの冒険者は、荷物持ち専用の非戦闘員を使い捨ての道具として雇うことがある、と。
まさか。マギは。あの人形は。
人の、命を。エマの命を、なんとも思ってない・・・・・?
「なにか、失礼なことを考えていませんか?」
「えっ。あっ、いえ!エマさんに失礼なことはなにも!!」
「・・・・店長に失礼なことは考えていた、とか?」
「うっ」
図星をつかれた上で、だらだらと冷や汗を流すソル。失礼どころか、とても伝えられるような内容じゃない。
無言のソルを見て、エマははぁ、とため息をひとつ。
「・・・とりあえず、どんなことを考えていたかは把握いたしました」
「えっ」
さっと血の気が引く。なぜバレた・・・・?
「昔、よく言われましたので。人の命をなんとも思わない人形とその道具、とか。
ご安心を。お手を煩わせるようなことにはなりませんので」
的確に考えていたことを指摘し、エマは先に行きます、とダンジョン入口へ向かってしまった。
ソルはぽかんとしたまま、その姿を見送る形になってしまった。
・・・マギ、さんはともかく、エマさんは優秀だ。
商品の値段決め、管理、帳簿など、お店の営業を取り仕切っているのはほぼエマさんである。
冷静で理知的で仕事のできる人、というのが、ソルの抱いた印象だ。
そんなエマさんが大丈夫、というからには、大丈夫、なんだろうけど・・・
「・・・・どうする気なんだ?」
ソルの疑念も疑問も、晴れないままだった。が。
【『深層』のダンジョンにて】
「・・・・そんなのありかよ」
疑問は、すぐに晴れてしまった。
アタックを開始してすぐ。
上層にしては少々手ごわい猿人型の人形が現れ、対処しようとしたのだが。
『ここは、わたしたちにお任せください』
そうエマが言ったのち、マギとともに敵へ向かっていき、そこでエマの役割が判明した。
「エマ」
「はい」
マギの指さした方向へ、エマがアイテムを空間から射出。
――――たしか、「スライムネット」という、スライムの粘液を染み込ませた網だ。
それが、飛びかかってきた敵の動きを止め、
「”発射(shoot)”」
すかさずマギが”砲(cannon)”を発射。一体撃破。
「”火炎(flame)”と”照射(ray)”」
「はい」
マギの要求に、エマが空間から出した『腕』をマギに渡し換装、毒液を噴き出してきた敵を液ごと焼き尽くし、
「”照射(ray)”よろしく。”閃光(flash)”」
マギの目が強烈な光を発し、一斉に襲ってきた集団の目を眩ました直後。
「”照射(ray)”」
エマに渡された新たな腕の熱線に切り裂かれ、敵勢力は沈黙した。
・・・空間をつなげ、ものを行き来させる魔法、『門』。
生物を移動させることはできないうえ、使用する際も、固定されたところならともかく、場所と場所を繋ぐための術式が複雑になるため、他魔法との活用が難しいとされる。
・・・エマは、その魔法のエキスパートだったのだ。
「おつかれさまー!いやー、やっぱエマがいるとすごい楽だわー」
「当然です。感謝してください」
「ありがとー」
「ふふふ。いいでしょう」
戦闘後の微笑ましいやりとりを見る限り、「使い捨て」「命をなんとも思ってない」ような状態もない。・・・・それに、あれは信頼しあった同士じゃなきゃできない連携だった。
「ソルくんー?どした?いくよ?」
「あ・・・はい。すんません」
「?」
しょげているソルにマギはわけがわからず、頭に疑問符を浮かべる。
ソルは、深く反省していた。先入観や、聞いたことのある噂との勝手な結び付けに、侮り。
・・・・・・本当に失礼な勘違いをしてしまっていた。
エマの能力もすさまじい。荷物持ち、なんて呼べるもんじゃない。ダンジョン内で、戦闘で、必要なものを必要な所に出現させられる、なんてのは、正直、反則級の能力だ。
侮っていた自分が恥ずかしい。
そんな気持ちでぐるぐるとしているソルに、エマが声をかける。
「ソルさん。よくある勘違いですので、気にしないでください。
言ったでしょう?昔よく言われたので慣れています、と」
苦笑しながら・・・・気までつかわせてしまった。もうだめだ。
「・・・・・エマさん!ほんとに、本当に失礼しました!」
ソルは、その場で地面に手をつき、しっかりと頭を下げた。突然の行動に二人が驚く。
「門をここまで使いこなせる人に、俺は会ったことがありません!
荷物持ちなんて、とんでもない!あれだけ的確にアシストできるところもすごいですし、二人の信頼を侮ってました!すいませんでした!!!!!!」
「・・・・」
全力の謝罪。なりふり構わず、ダンジョンのど真ん中で。
ぽかん、としてしまった。と共に。
「ぷ。ふふふ・・・・ふふふふふ・・・」
「・・・え?」
その、あまりにもまっすぐな謝り方に。不覚にも。
「す、すみません・・・あまりにも、まっすぐだったので、つい・・・ふふ」
「へへへへ。ソルくん、いい人だねぇ、君」
なんだか微笑ましくなって、二人とも笑ってしまったのだ。
ああ、この人が継いでくれたら、とてもいいなぁ、と。
とてもとても。嬉しく思ったのだ。
「なっ・・・・なんすか、こっちは真剣に・・・」
その反応を見て、恥ずかしくなってしまうソル。そういうところも好ましい。
「はい、ふふ。謝罪は、きちんと受け取りました。ソルさんの誠実さに免じて、許します」
「・・・・なら、よかったっす」
なんだかばつが悪そうだが、ちゃんと謝罪を受け取ってもらえてホッとした様子のソル。
当のエマは、むしろ上機嫌だ。マギも、新人くんをエマが気に入ってくれたようでうれしかった。
「・・・・そういえば。聞いてなかったですけど、二人ともどういう関係なんすか?
ただの店長と店員、にしては、ずいぶん仲良さそうなんすけど・・・・」
と、ことのついでに気になっていたことを尋ねるソル。
あれだけ巧みな連携をとれるなんて、互いに相当な信頼がないとできないと思うのだが、どういう関係か、というのは聞いてなかったのだ。
「あ、言ってなかったっけ?」
マギがぽけっとした顔で驚く。そして、
「僕ら、夫婦だから。信頼しているのは当たり前なのよー」
「もう5年になりますか。早いですねえ」
「・・・・・・はいいいいいいいいいいいい?!?!?!?!?!?」
衝撃の事実により、ダンジョン内に、ソルの絶叫が響き渡った。




