授業 のち 理由
【『深層』ダンジョン入口/出口にて】
「あっはっは!ごめんてー、トラウマは早めに克服した方がいいと思っ―――」
「克服どころか死ぬかもしれねー状況だったって言ってんすよ俺はぁ!!
死んでたら恨んで祟ってたぞ、この人形野郎ぉ!」
先ほどの死闘のしばらく後。
無事(?)生還したダンジョン前で、マギの胸倉をつかみ、声を荒げるソルの姿がそこにあった。
あの直後、「さ、下層いこー」とか言いながら、単身敵へ突っ込まされ続け、
下層までついたと思ったら「よし、そろそろ戻ろー」とか言いながらまた単身敵へ突っ込まされ、
ようやく出口まで生還したところなのだ。恨み節くらい言わせてほしい。
「まぁまぁ。僕はソル君ができると思ったから、あの状況にしたわけでね?
現に大丈夫だったじゃない?」
「『大丈夫』ってのは、もっと余裕がある状況のことを言うんすよ!!」
というソルは、全身が前回(トラウマ時)のダンジョンアタックの際のようにボロボロだ。
身体のいたるところから出血し、火傷を負い、青あざが浮いている。
最初ずっしりとしていたリュックは、ほぼ空っぽで穴もあいてしまっている。
文字通り、道具も知識もすべてを駆使してなんとか切り抜けた状態だ。とても「大丈夫」ではない。
「いやー。でも、そーんな傷でもすぐ治っちゃう方法があるんだよー!治療っていうんだけど・・・・」
「そ・れ・が!!!!いちばんしんどいっつってんだ、この無神経ーーーーー!!!」
前回の痛みを思い出す。叫ぶほど痛かった。何回も、だ。
そりゃ・・・・すぐ治ったけども。また味わいたい、とは思わない。こんな短期間に、二度も!
だが罵倒されたマギは
「はっはっは。人形だからねーごめんねー」
あっけらかん、とした様子で、さらりと受け流す。
嫌味も通じない。ソルはがっくりとその場で膝をついた――――。
【クエスト後 マギ・クラフトにて】
「おかえりなさい」
戻っていたマギに、エマが声をかける。
マギはふやけた笑顔でただいま、と小さく返事をしたあと、ふらふらしながら、店の奥へと入っていく。
そこには、マギの身体を休めるためのメンテナンス機がある。ボディの不調を確認できる便利な人形用のベッド、とかいう優れもの。ダンジョンから帰ったマギは、いつもそのメンテナンス機に入っているので、行動としてはいつも通り。
・・・・だが。エマはマギの笑顔に若干の違和感―――――カタさを感じた。
気になってあとを追いかけると。
「-----・・・・・・!!」
そこには、メンテナンス機の前で倒れこんでいるマギの姿があった。
「マギ?!?!」
「・・・エマ、ごめん。ちょと、よろしく」
驚くエマと、息も絶え絶えなマギ。あわてた様子で、エマがマギを抱きかかえ、メンテナンス機の所定位置へマギを移動させる。
マギが、おおきく息をついた。
「・・・・がんばった。いや、しんどかったよ」
声からは、疲労の色が濃く見える。先ほどソルと話していたような気楽さはまったくない。
マギが動くためのエネルギーとしてのマナは、ダンジョン帰りなため枯渇するはずはない。
となれば。
「・・・・・・・警戒に気を使いすぎた。めっっっちゃ、疲れたわー・・・・」
心労、である。
魂が宿っているといわれているとはいえ、人形が。精神的に参っていたのだった。
「当たり前。障壁はあるにしても、武装一つだけで『深層』に潜るなんて、マギでも無謀よ」
咎めるように、エマが睨んでくる。気を許した口調になるのは、二人きりの時だけだ。
マギは、苦笑するしかない。
実はマギ、今回のダンジョンアタック中、ソルの生存のために常に気を張っていた。
周囲の警戒から、ソルの死角の防御、包囲戦にならないようけん制や、まだ対処できない敵・トラップの排除、落石などの事故、etc、etc・・・・
それを、威力はあるものの、繊細な動きがし辛い”砲(cannon)”だけで対応していたのだから、
疲労感は尋常ではなかった。
「・・・今日は、持てる道具枠を、ソル君の生存用にしなくちゃ、いけなかったからね。
僕専用のものは、最低限にしたかったのよ。荷物で、動きを制限されたくないし。
障害を排除するのに、威力は必要だから、”砲(cannon)”でいったけど・・・・失敗したなぁ。
ソルくんにあたらないよう調整するのに、ずいぶん、気を使って疲れちゃった」
マギが、息継ぎをしながら少しずつ喋る。
エマは、そっとマギを抱きしめた。
「・・・無理しすぎ。心配させないで」
「うん、ごめんね」
エマの頭をそっと撫でる。謝罪の気持ちを込めながら、やさしく。
この大事な人を、悲しませてはいけない、と、あらためて思う。
・・・ひとしきり抱きしめあった後、体を離す。名残惜しいが、そろそろ寝落ちそうだ。
「とりあえず、無事に『見極め』も済んだ。
―――――――――優秀だよ、彼。元前衛、って言ってたけど、状況判断が早くて適格。
言ったことはすぐ覚えるし、あと、敵の隙を見つけたりとか、タイミングがうまいんだ。
・・・・・あとどうなるかは、彼次第、かな」
最後にぽんぽん、とエマの頭を撫でて、メンテナンス機を起動させる。
組み込まれた術式が起動し、マギの身体をスキャンしていく。
「・・・この間のイレギュラー・・・芋虫の例もあるんだから。気をつけて」
エマが、機械のガラスごしにマギへ語り掛けた。
―――ダンジョンには、イレギュラーが存在する。
普通、階層ごとに棲み分けがされている生態系に、上層・下層からの侵入者が紛れ込むことがあるのだ。
当然、その場に見合わない弱い侵入者なら、すぐ淘汰されもとの環境に戻る。
だが――――階層に見合わない、強い捕食者が現れることもある。
ダンジョンから地上という階層に現れた敵。
侵入者の頻度が、最近、徐々に増えつつある。
「対策、進めないとね。いい素質の子も・・・・来てくれたことだし・・・・・・・」
マギの目が閉じかかっている。疲労感が限界に近いのだろう。
エマは機械越しにマギへよりそって、声をかける。
「おやすみ、マギ。ゆっくり休んで。
・・・・・次からは連れてって。じゃないと許さない」
マギが眠る(スリープ)状態へ移行。明日の朝までは起きないだろう。
見極めも済んだのなら、明日は自分もダンジョン入りだ。しっかり休んで、備えなければ。




