「知っている」強さ
【引き続き 『深層』ダンジョンにて】
「shaaaaaaaaaa!!!」
「んぬぅぅぅぅぅぅぅっ?!?!」
まるで前回のやり直し、のようだった。
ソルはいま、前回殺されかけた、蛇のような人形に追いかけられている。
『ほい、ここまでで説明は全部かなー。頭に入った?大丈夫?OK?
よーーーし!じゃあ、トラウマ克服れっつごーーー!!!』
・・・と。数日掛けて、リュックの中身の解説と実践が終わったところで、
マギに崖の上から突き飛ばされ、落とされた先にいた奴との戦闘がはじまっていた。
・・・いや、逃亡劇か。
「くそくそくそふざけんな、なんだ突然!狙ったように襲ってきやがるし!
つか、蛇いるの確認してから突き落としやがったなあの人でなし・・・って人形だったわくそーーーー!」
さっきまで少し尊敬できるかも、と思っていた矢先、これである。
やっぱあいつ、心とか魂とかないと思う!!
「sha!」
「ぐぅっ!!!」
強烈な尻尾の一撃。薙ぎ払われたソルは、岩へと叩きつけられる。
幸い、背負っていたリュックと中の道具がクッションになったおかげで、吹き飛ばされたダメージはそこまででもない。
が、このままでいれば、死亡するのは確実。
「・・・・痛ってぇ・・・・・・
くそっ!やるしかねーのか・・・・」
あきらめと自棄と、いまの痛みで決心はついた。
ありがたいことに、相手との距離もさきほどの一撃で空いている。
対策は聞いたし、お手本も見た。初めての相手ではない。
・・・今度は、前のようにはいかない。生き残るため、最善の対応をとらなければ。
震える手で握ったのは、最初に持たされた小さいハンマー。これで・・・
「まずは、目!!」
手元の出っ張りを押して投擲。蛇の眼前でハンマーは破裂し、強烈な光を放つ。
「sha・・・・・!」
突然の光に、蛇が面食らう。
いくら人形とはいえ、目という器官を設けている個体は、大部分の認識を視覚に頼っている。
もともと対策を施していなければ、強烈な光で短時間機能しなくなるはずだ。
「んで、触覚!!」
今度は青色の液体の入ったボール。これを奴の頭上へ投げ込み、手元のボタンを押す。
ねばついた液体がボールからあふれ出し、蛇の顔にまとわりついた。
「sha!sha!」
顔を振って落とそうとしているが、液体がへばりついて取れていない。口も開けずらそうだ。
これで、この人形特有の、顔面にある感覚器官は使いものにならなくなった。
その隙に――――接近する!
「shaaaaaaaaa!!」
顔面の液体が取れないせいか、蛇が周囲を暴れまわる。
・・・・正直、危ないことこの上ない。瓦礫やら岩場やらにぶつかりまくって、その破片だけでケガをしかねないほどの暴れっぷりだ。
だが。
こいつの尻尾の可動域は、前回の死闘と、教わった知識で知っていた。
動く針の隙間を通すような、ギリギリの道を通り抜け、
「・・・・終わりだ、蛇野郎」
蛇の胴体部へと接近したソルは、柄の長い、特殊なナイフを隙間へと突き刺した。
そして、握りの部分を捻る。
「”炸裂(Burst)”!!」
その単語と共に、起動術式が発動する――――――――――――――
「shaaaaaaaaaaaaa!?!?!?!」
蛇の胴体部から爆発。そして、内部から燃えていく。
胴を真っ二つにされた蛇は、しばらくもがいたものの、徐々に動かなくなった。
「・・・・・・熱っち。手元から火ぃつけるとか、危ねえ武器だな、ほんと」
ナギに持たされたアイテム満載のリュックの中の、『深層』おすすめアイテム。
敵を内部から破壊する「ヒルトボム」の使い心地を愚痴りながら、目の前の敵だったものを、あらためて確認する。
―――――恐れは、もうない。
「知っている」ことが、こんなにも力になることを、自分は知らなかった。
というか、忘れていた。思えば、冒険者のなりたての頃など、教えてもらうというところが始まりだったはずなのに。
・・・・・己の力や技術があれば、どうとでもなると慢心していた。実際、いくつかそういう危機も、それで乗り越えてきたからだが。
しかし。
知識、知識だ。経験でも蓄えられるものではあるが、知っていることの恩恵はすさまじい。
わかっていることが多いほど危機は回避できるものだということを、あらためて、身をもって知った。
「おつかれーーーーー!リベンジおめでとーーーーー」
そんな感慨にふけっているところへ、崖の上から能天気な様子で降りてくる、それを教えてくれた元凶。
この恩人には、あらためて。
「・・・・ふっざけんな!!このアホ人形ぅぅぅぅぅぅ!!!!」
思いっきりの罵倒と、少しの感謝を。
俺は今日、成長した。




