団長と治外法権
【ダンジョン街 入口】
「だぁっ!・・・着いたぁ~~~・・・」
がしゃり、と荷物を地面へ放り投げ、馬車から降りてきた無精ひげの男。
テンプル騎士団団長、フューリー・ガザである。
龍討伐クエストまであと二日となり、招集した面々が続々と集まりはじめていた。
「っかぁ~、尻痛ぇ。何日かかんだよ、ったく。
辺鄙なところに呼び出しやがって、いい酒でも飲まねぇとやってられねえぞ」
ヒューリーが長旅で凝った尻と身体をほぐしながら、出迎えた人形を睨みつける。
「あっはっは、遠いとこごめんねー。酒は用意してあるので、ご心配なく」
からからと笑いながらさらりと受け流すマギ。なんとも手慣れた様子である。
「ふん。だいたい、俺以外にも龍殺しはいるだろうが。なんでわざわざ主都で書類仕事満喫してた俺を呼び出すんだよ」
「えっ。暇かなと思って」
「満喫してたっつったろーが!肉体労働反対なんだよ!!さては知ってて言ってんなコノヤロー!!」
「あはー知ってるー!でもごめんね、ヒューリーじゃないと駄目な理由が一応たぶんあるから」
「一応とかたぶんとかで騎士団長を呼び出すんじゃねえ!!国ぞ!こちとら国家規模ぞ!!」
軽口と突っ込みの応酬をする、アーティファクト級の人形と騎士団長。肩書だけで見れば謎すぎる空間になっていた。
そんな二人を、街の門からぽかんと眺めるソルとウィズ。
「すげぇ・・・ほんとにヒューリー・ガザだ・・・!」
「本物だ―、教会騎士の団長さんだー・・・式典とか以外で初めて見たー」
ソルは少々興奮しながら。ウィズは珍しい素材を見つけたかのように。
それぞれ反応は違うが、世界に数人しかいない本物の龍殺しを間近で見て驚いているようだった。
「あ、あの、エマさん。大丈夫なんすか?あのヒューリー・ガザ相手に、かなり失礼な対応してますけど・・・」
ソルが、二人のやり取りをニコニコと眺めていたエマに尋ねる。
実際、一緒に来た騎士団の面々は団長が馬鹿にされているように感じているのか、かなり空気が悪い。
「ああ。いつもの事なので大丈夫ですよ。二人は会うといつもああいう雰囲気なので」
「いつもの・・・・?」
「懐かしうございますなぁ。数年前に戻ったかのようです」
疑問符を浮かべたソルに、側仕えらしい老人が近づいてきて応えてくれた。
「爺やさん。ご無沙汰しております」
「エマ様もご健勝のようで何よりです。あの時は、坊っちゃんの件でたいへんご迷惑を・・・」
「いえいえ!あれはマギがしでかした事ですので、お気になさらず!
むしろ、あれから色々な所で便宜を計っていただいて助かります」
「いえいえ、当家にとってはあの程度。少々口添えしているだけですので。
こちらこそ、季節ごとに旬の果物など送っていただきまして・・・」
エマと親し気に、まるでご近所付き合いのようなやり取りをする側近の老人。
「お知り合い、なんです??」
疑問をさらに深めるソルに気が付き、エマが説明し始める。
「あ。こちら、ガザ家の執事長である爺やさんです。以前、ヒューリーさんをお預かりしていた時期から親交がありまして・・・」
「ヒューリー・ガザを、預かる?誰が???」
「僕がー!」
疑問どころか困惑しはじめたソルに、こちらに戻ってきたマギが返答した。当然、ヒューリーを伴って。
「・・・・え。ってことは。ヒューリー・ガザも・・・?」
「うん、うちの弟子ってことだね。ちょっとソルくんとは入った事情が違うけど」
「弟子扱いすんな。ほぼほぼ奴隷扱いだったろうが」
先ほどと同じく、鋭く突っ込みを入れるヒューリー。
「え~?力の扱い方を教えてあげたんじゃん?」
「ダンジョンに剣一本だけ持たせて放り出すのを『教える』とか抜かすな!!奴隷だとしても虐待扱いだからなあんなもん!!」
「・・・・あー、マギ・クレイマン流だわ」
「あはは、マギさん式だねえ」
騎士団の面々が驚愕し、弟子の二人が納得する。この異常な現場主義が『マギ・クラフト』である。
「でも、おかげで体質の問題はクリアできたじゃない?」
「そうじゃなきゃ生き残れなかったからな!!死ぬ気で考えて死ぬ気で試したわ!!」
「あはは!偉い偉い。
いやー、あん時は貴族に危害加えたってことで、訴えられて王城の裁判かけられたりもしたねえ。焦った焦った」
「『焦った』ってだけで貴族根絶やしにしようとするのはテメーぐらいだよ!!
ったく、常識知らずの人形が」
「待って!!!!いまとんでもないこと聞いた気がするんすけど?!?!?!」
怒涛の衝撃情報にソルと騎士団の面々が恐慌状態になりかけているところへ、
「ふ、はっはっはっはっは!」
爺やの朗らかな笑い声が響いた。
「・・・・爺や、さん?」
「いや、申し訳ありません。なにやら、当時の貴族の方々の狼狽えた姿を見ているようで懐かしくなりまして。
当時、アーティファクト級の人形であるマギ様を我が物にしようとしていた不届きな連中がおりましてな。自分たちの法に則ってマギ様を囲い込もうとした結果・・・・
ふはっはっは。手痛い教訓を学ぶことになったわけです。全く、腐った貴族意識というのは度し難いですなぁ」
楽しそうに語っているが、つまりこの人形、国家反逆の大罪人ということでは・・・?
とソルたちが思っている中、爺やさんが続ける。
「そのような事態があった後、国が長く苦しめられてきた龍を廃嫡状態だった坊っちゃんが狩ったことでその師としての功績が認められ、その件は不問となったという結末でございます。
なにより、マギ様を処刑どころか傷つける方法なぞ当時の国は持ち合わせておりませんでしたからなぁ。現在の技術発展はマギ様あってのものですし。
王家としても、不届きな連中をあぶり出せるいい機会だったようでしてな。現在ではその件や技術提供などの功績により、マギ様は国が認める唯一の治外法権となっているのでございます」
「ち・・・・治外法権???」
騎士団とソルが絶句する。
つまり、やる事為す事すべて法が及ばない、ということ・・・?そんな権力を、この無法な人形が持っている、と・・・?
「はい!というわけで、国家権力級のテンプル騎士団の団長も呼び出せちゃうのでしたー。
というわけで、協力よろしくねー!」
先ほどまで険悪だった騎士団たちは、青い顔になりながら、そんなマギの言葉にうなずくしかできなかった。




