しばしの休息
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【ダンジョン街 診療所 休憩室】
「・・・・・・悪くない」
「ああー・・・・・・ずず・・・・・・ああー・・・・・」
盛られた椀を空にしてぽつりとこぼすトマスと、汁をすすってはため息をもらす少女。
目の前にはニコニコしたウィズと、ほかほかとした湯気を立てる寸胴鍋。
二人は、ウィズが持ってきたポーション鍋に舌鼓をうっていた。
マギはこの緊急事態に奮闘してくれた二人を労うため、患者を診療所へ運んだあと店へ戻り、疲労回復にうってつけの『完成版・ウィズ特製ポーション鍋』をウィズと共にこしらえていたのだ。
寸胴いっぱいに入った、ポーションと同じ青さ(毒々しさ、といってもいい)をした鍋料理に、話を聞いていたとはいえ引き気味だった二人だが、意を決して一口すすった後、あっという間に盛った分を食べきってしまったのだった。
「見た目はともかく、味に不満点はなく、精神疲労への効果が高い。ぼうっとしていた意識もはっきりしてきた。緊張と疲労で固まっていた身体も、弛緩し始めている。回復の兆しだ。
ライフポーションを直に飲むよりも遅効性ではあるが、病人にも好まれる可能性が高い」
評価を口にしながら、トマスが空になった椀をウィズへ差し出す。おかわりだ。
なにも食わずに数時間集中し、治癒をし続けていたのだ。いくら魔力回復にポーションを飲んでいたとはいえ、摂取した成分は吸収する間もなく治癒として即座に排出されていた。腹に貯まるようなものは何も口にしていなかったのだ。
そりゃあ、一杯程度では満たされない。
「えへへー、よかったです!自慢の看板メニューなので!!」
ウィズが笑顔で受け取り、具材をたっぷり入れてトマスの椀を満たす。味を認めてもらえたのが嬉しかったのだろう、最初よりも大盛りだ。
盛りに驚きながらも、トマスは素直に受け取る。相当、空腹だったようだ。
「・・・・レシピは、部外秘か?」
椀を受け取った後、一転鋭い表情になるトマス。
効能を確認し、病院食として取り入れたいと考えたのだろう。しかし、これだけの効果があるものだ。簡単に教えてもらえるとは思っていない。
「・・・・はい。そこに関してはちょっと企業秘密なので・・・・」
ウィズも真剣な表情で答える。苦労したレシピを簡単に明かすわけにはいかない。
となれば。
「・・・わかった。君のところから定期的に出汁を卸してもらおう。それでいいか?」
「あ・・・・・!ありがとうございます!!」
そう。定期的な収入源のゲットである。
飲食店として営業する売り上げのほかに、出汁を販売することで、ポーション鍋の普及にもつながり、商売もその日の売り上げだけに頼らずとも余裕ができる。いいこと尽くめだった。
「えと、注意点・・・・・食べるときは必ず火にかけて液状にしてください。じゃないと、うまく効果がはたらかないんです」
「ふむ、効果発動に条件があるのか・・・そのまま出汁を飲むのではだめか?」
「うーん、効果はゼロじゃないですけど、ほぼ薄まったポーションなんですよ・・・・。食材と合わせて煮ることでこの効果になってるので」
「ひと手間必要なわけか。面倒だが、味が良いのなら病人から文句は出ないだろう」
「あ!あと、スープは肉・魚どちらでも合うんですけど、相性がよくない具材があって・・・・」
問いにも答えつつ、補足する。
トマスの反応もいい。病院の食事にポーション鍋が追加されるのは確定だろう。
ウィズとしても、自分の店の料理が認められるのは嬉しいに違いない。しかも、定期的な卸先ができたのだ。願ったり叶ったりである。
などと、商談が進められている横で。
(・・・・ああ、なんというか。慣れてしまったなぁ、わたしも)
そのやり取りを見ながら、白ローブの少女――――ミーアが汁をすすりつつ、ため息を吐いた。
初日から、気絶するほど治癒を使わされ続け、倒れるように終わる日々。
一回で治しきれないので、ポーションを飲んで何度も何度も治癒治癒治癒。魔力が尽きればポーションで無理やり補充され、治癒治癒治癒治癒。
結果、ひと月でわたしの魔力量は飛躍的に上昇し、ここの激務にも身体が付いていくようになり、今回のこの騒動も乗り越えられてしまった。
(・・・・・わたしも、悪魔の仲間入りだなぁ)
飲んでいるスープに映る自分の濁った目を見ながら、そんな事を考えるミーアだった。




