龍退治のため、第一歩
お待たせしました。今年もよろしくお願いいたします。
【炎熱ダンジョン 中階層にて】
「よっ、ほっ!!」
目前に迫る火を、爪を、まるで舞っているかのようにひらりとかわす。
熱で燃えるような暑さの中、軽々と羽のように飛び回る影。
「ふふーん、おそいおそい!あたしと新しくなったプロテオスの敵じゃないねっ!!」
得意げな顔をしながら、自身の獲物を構え、目の前の火蜥蜴と相対するウィズである。
失われた片目には眼帯が付けられているが、ほかの傷はすっかり癒えた様子だ。
攻撃が当たらずいらついた様子の火蜥蜴相手に、余裕しゃくしゃくである。
「ふっ・・・・いただきっ!”加速(accel)”」
再度回避した後、今度は足場も何もないところから急降下し、反撃。火蜥蜴の脳天へ、変形したプロテオスの槌を打ち込む。
ウィズの専用武器であるプロテオスには、新たな魔石と噴出孔のような機構が追加されており、向けた方向へ魔力が噴き出すことによって推進力が得られるようになっていた。
『Gafッ?!?!』
予想外のタイミングの衝撃に、たまらずふらつく火蜥蜴。そんな隙を逃さず、
「・・・・・あっ、ちちちちちち!!ソルくん、よろしくー!!」
高熱の鱗の熱さから、逃げるように遠のいたウィズに代わって、後方の彼が右腕を構える。
「へーーい。”装填(loading)”・・・・・”射撃(shoot)”!!」
収束された光が、一閃。
放たれた光弾が、ふらついていた火蜥蜴の頭を消し飛ばし、戦闘は終了した。
「ふー、おつかれー!!だいぶ新しい連携にも慣れてきたね!」
抱えていた武器を担ぎ、このうだるような暑さの中、溌剌とした笑顔を見せるウィズ。
「そうですね。前よりもフォローが直接的になった分、見なきゃいけないことも増えましたけど」
苦笑しながら答えるソルも、いつもの調子を取り戻していた。
「ま、この腕にも馴染んできた、ってことですかね」
そう言って、失われたはずの右腕を上げて見せる。
そこには、マギと同じような、鋼鉄の腕があった。
【数週間前 主都ヴェネティ 工房にて】
『というわけで、ソルくんの腕、持ってきたよー。
はい、”砲(canon)”~~~!!
はーーーーーい、引かない、逃げない。エマ、押さえつけといて―。
まぁね、人形の腕なんて、普通にくっつけても、そりゃ動きませんよ。ただぶら下がるだけの鉄塊になっちゃうよね。
なのでそこは、僕なりの工夫を加えます。
魔力を流す用に張られてる動力線を、エマが使ってる装備と同じく魔力用に変☆換。
あとは、直接神経と接続して、ソルくん本人が腕として認識して受け入れてくれれば、どうやら使える可能性がある。計算上はね。
なので!
かもーーん!我が街の優秀な医療従事者(アーリマン先生)~~~!あんど新人助手~~~~!
さて、一応幻術も使って認識しやすいように工夫はするけど、ソルくんはちゃあんと受け入れる準備してね、嫌がらないでね。
じゃないと――――――――――――――痛い思いしたのに、動かないかもしれないから。
れっつ・・・・・・施術!!!!!!!!!!!!!!!!!』
【戻って 炎熱ダンジョン 中階層】
「・・・・・・・・・・・・ほんと、動いてよかったですわ。
あの人形いつか壊す。粉微塵に壊す」
ほんの数週前の施術を思い出し、ソルが表情を虚ろにしながら、右腕として馴染んだ”砲(canon)”を撫ですさっている。
「あはは・・・うん、マギさん、ちょっと人形なせいか人の気持ち考えないとこあるからね。今回のは、さすがに。うん」
ウィズも、さすがに今回の所業はちょっと非道いと感じていたのか、いつもの笑顔より苦笑よりになっている。基本的にマギを肯定する主張をしがちな彼女にしては、少々珍しい反応だ。
というのも。
「・・・・・あたしは、ソルくんとまた冒険できるようになったんだから、嬉しいんだけど。うん」
もじもじ、と顔を赤らめて、しおらしい反応をするウィズ。
あきらかに、ソルに対して好意を抱いている反応である。
・・・これまでのウィズを見てきた者たちからすれば、二度見するかのような反応だった。
というのも、彼女。いままで浮いた話が一切なかったのだ。
基本的には深く考えない性格なうえ、刹那的な戦い方をする冒険者だったためか、そのようなことを考える意識がなく、アプローチをかけられてもまったく気づかず、告白されても実感が湧かないため断りまくっていたのだ。
だが。
そんな彼女の戦法、戦い方に余裕を持たせるフォローをしてくれる、尊敬できる能力を努力で身につけた、相性のいい相棒。しかも同じ師を持つ同志で、命の恩人で、気落ちした自分を気遣ってくれるいい人、という要素が様々重なり、はじめて意識することになったのだった。だが。
「・・・・・と、とりあえず、素材回収していきましょっか。もう必要分はそろいましたし」
「そ!そうだね!!うん、おーけー!剥ぎ取り剥ぎ取り」
恋愛経験が少ないのはソルも同じくなため、お互いがぎくしゃくしまくりながら、今一歩踏み込めない微妙な関係となっているのだった。
閑話休題。
「・・・・・しかし。炎対策として火蜥蜴の素材回収はわかるんですけど、こんな一般的な対策で龍退治なんてできるんですかね・・・・?」
そう。彼らが復帰してすぐこのダンジョンに潜っているのは、『深層』の龍退治のためであった。
マギ曰く「とりあえず、耐火素材ありったけ。よろしく~」とのことで、使用用途は聞いていないが、リハビリがてらの素材狩り。
しかし、これまでさんざん行われてきた龍殺しのための対策としては、だいぶ初歩的なもの過ぎて、実感がわかなかった。
「ん~、でも基本は大事じゃない?爪とか尻尾とか、総合的な攻撃力が高い分、すべてのことに注意は必要だけど、やっぱり一番の脅威は広範囲・高威力な息だから」
「それは、そうなんですけど」
素直に考えるウィズと、いまひとつ腑に落ちず、む~、と唸るソル。考え方ひとつとっても正反対の二人なのだが。
「大丈夫でしょ!だって、マギさんの提案だし。きっとなにか考えがあるんだよ」
「・・・・まぁ、それはそうっすね。あの腹黒人形のことですし」
「あはは、言い方ひどい!!」
マギへの信頼度は、まったく同じなのだった。
「じゃ、あんまり深く考えず、言われたもん持って帰りますか」
「うん!あー、暑い。帰ったらなにかさっぱりしたもの食べたいなー」
「お、いいですねえ。冷やした鳥肉をつまみに、冷えた酒でぐいっといきたいっすわ」
「あーーー!!いいなー!ご飯もいいけどお酒!お酒もいい!」
「あんま飲みすぎないでくださいね?こないだ大変だったんですから」
「わぁん、やめてー!反省してるからやめてー!!」
きゃいきゃいと楽しそうに話しながら、弟子二人がダンジョンをあとにする。
―――――彼らが集めた素材も含め、ダンジョン街の龍退治計画は、着々と進んでいた。




