それぞれのアフター2
だいぶ遅くなりました。続きです。
【ギルド『黄金の果実』 客室】
「・・・・はい?いま、なんて?」
話を聞いていたソルが、信じられない、という顔で聞き返す。
「だから。
奴はもう死んだよ。君たちが倒れた当日中に、片が付いた」
「・・・・・・・・・は?」
大したでもないかのように答えるマギに、ソルが固まった。
療養中のソルの客室でのやりとりである。
ソルが気が付いたと聞き、見舞いに来てくれたマギと話している最中、あの”長”の話になった。
そこで「討伐隊でも組んで対処するんですかね」と考えを口にしたソルに、マギが「もう終わったよ」と答えたのだ。
「そっ・・・・そんな早く対処したんですか?!誰が!!
マギさんや親方がいたとしても、あの個体に対応できる面子なんてほかに・・・・」
驚きと戸惑いであたふたするソル。対峙した彼は、”長”の強さ・個体としての異常さを身をもって知っている。
マギやアトラの強さは知っているが、あの驚異的な速度を持つ相手への対応となるといったい―――――――
と、疑問符を浮かべている彼に、マギは一言。
「いや。僕一人だよ」
「・・・・・・・はぁ?!」
またもや、信じられないような返事をする。
「・・・・いやいや、待ってください待ってください、ちょっとおかしい。
なんすか、なにか俺の知らない装備でもまだあるんすか。マギさん言うて砲撃手でしょ。いや規格外ではあるけど。遠距離攻撃主体のマギさんが、いったいどうやって・・・・・?
あ、奴がいるフロア全部ぶち壊して下敷きにしたとか??なわけないか、ダンジョンの頑丈さ考えたらさすがにマギさんの装備でも・・・・・・」
ぶつぶつとぐるぐる目のまま思考を続けるソルへ、かまわずマギが続けた。
「討伐ついでに、そのまま未達成になってた残りの素材回収もやりきちゃったから、『黄金の果実』さんへのお礼も兼ねた有給休暇も本日で終了。明日からギルドは通常運転だってさ。
アトラさん喜んでくれて、ソルくんの借金も大幅削減してくれるって!よかったねぇ、ソルくん」
「えっ・・・・あ、はぁ・・・・はい」
笑顔のマギに対して、生返事で複雑な表情のソル。
借金が減ったのはありがたい、本当にありがたい。ただ働いて返すだけでは、アトラへの借金の返済にどれだけかかるかわからなかった。同じ程度働いても、借金の減額率がまったく違っただろう。
ギルドへの謝礼として有給休暇なるものをとらせるための労働と、マギが作成し提供・納品した薬品や道具類との合わせ技により、大幅減額となったのだ。
・・・・・死ぬほど働かされはしたが。
「・・・・その。借金が減っても、この腕じゃあこれからどうしたもんか・・・・」
失った部分を見つめ、自嘲気味に笑いながら呟いた。
・・・この腕で、いままでのように冒険者を続けるのは到底無理だ。
咄嗟のこと、生きるために仕方なかったこととはいえ、今後どうやって生きていけばいいのか・・・
ああ、道具屋としてなら、少しはいままでの経験も活かせるかな、なんて思いを巡らせるソルへ、
「じゃあ、戻って腕の調整できたら、またバリバリ働いてもらうからね。
借金完済目指してがんばろー」
おー、なんて、のんきなマギの声が聞こえた。
「・・・・はたら、く?腕?うで、の、調整????」
わけがわからなくなって、そのまま気になった単語をすべて聞き返す。
聞こえたが、理解できない。
治すでも戻るでもなく、調整、といった。まるで、道具のように。
腕のように使える道具、なんてものがあるというのか?
見た目だけなら似せられても、そんなもの、聞いたことがない。
理解できない。ダンジョン内のあれそれよりも、目の前の人形が一番理解できない。
「うん。ちょっと使えるようになるまで時間はかかると思うけど、頑張って練習しようね~。
そろそろ、ダンジョン街のドラゴン駆除しないとだし、そのための下準備も今回でだいぶ整った。
うちの本来の営業に差し支えるからね。
戻ったら今度はドラゴン退治の準備進めるから、それに間に合うようによろしく~」
「ちょ、え!!マギさん待って!!待ておい人形ぅ!!!」
ソルの理解もなにもかも置き去りにして、マギが部屋から出ていく。
ぽかんとしたソルを残し、颯爽と外に出たマギは。
「・・・・・さて。
突然のドラゴンといい、今回の”長”くんといい、きな臭くなってきたね」
と、めんどくさそうに空を見上げて呟いたのだった。
【『水流』ダンジョン 深層部】
――――――――――――どうして、こうなった・・・?
”長”は、もはやおぼろげになってしまった頭で、そんなことを繰り返し考えていた。
彼は生きていた―――――――――――いや、もはや死ぬのも時間の問題だが。
両手、両足、片目を失い、身体の痛みすら摩耗して感じなくなり、この液体の山の中に埋もれ、消えかけている。
・・・・彼を蹂躙した人形は最後に、こう告げた。
『僕は、君を許さない。
最後に、君が一番嫌がる――――――無残な死に方を用意した。
見下していた者たちに蹂躙され、為すすべなく消えるといい。
最後には、その肥大化したプライドを後悔できるといいけど。ま、どうでもいいか。
じゃあね、もはや”長”でもなんでもない、”死体”くん』
そう言って、千切られた手足と共に、この穴に落とされたのだ。
周囲の液体――――――――――弱者どもがびっしりと詰まった、この穴蔵に。
最初のうちは嫌すぎて暴れまわっていたが、どうあってもここから抜け出すどころか一歩も動けない自分に気が付き、絶望し、ゆっくりと溶かされていくことに恐怖し、ついにはあきらめ、ただただ思考するのみになってしまった。
本当に――――――――どうして、こうなってしまった?
もはや後悔しても、失った腕、足、そしてヒレは戻ってこない。
だが、思考せずにはいられなかった。
あの人形と戦わなければよかった――――――――
あの人間どもを攻撃しなければ、人形と会うこともなかった――――――――
己の力に溺れ、普段から弱者を虐げるようなことをしていなければ―――――――――
そもそも。
・・・・・こんな力を 持たなければよかった―――――――――?
ぐるぐると思考した後、そんな考えにたどり着く。
そもそも、特別な存在なんかであったから、目をつけられたのだ。
そこらにいる凡庸なサハギンであったなら、少なくとも、ここまで惨めな死に方はしなかったろう。
だが、あの主のもとに生まれたなら、この力を持つのは必然だった。
そこまでたどった結果、ため息と、自嘲の笑みが漏れる。
ああ・・・・・・・なんだ。つまり、
生まれなければ
こんな死に様を晒すこともなかったのか・・・
最後にそんな考えを抱いた時、ひときわ大きな水の塊――――巨大なスライムが、彼の身体を飲み込んだ。
緩やかだった崩壊が、一気に加速する。残っていた身体すべてが、思考がぐずぐずになっていき、最後に。
ごぽり、と音を立てて、”長”の存在は――――――――この世から消え去った。
「――――――――――死んだか」
それを見ていた影が、ぼそりとつぶやく。
「あれでも敵わないとは。
・・・・・まだ、研究が足りないということか」
嘆くように中空を見上げたあと、ぎり、と影の顔が歪む。
そこには、悔しさ、怒り、様々な感情が浮かんでいた。
「・・・・・・マギ・クレイマン。僕は、あきらめないぞ」
そう言い残し、暗闇へと沈んでいく影。
―――――――――――最後の言葉は、まるで、泣いている子供の様だった。




