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それぞれのアフター1

【ギルド『黄金の果実』 ゲストルーム】




「んぉ・・・・・・?」



目覚めると、見覚えのある天井だった。

十年以上見続け、最近になって少し離れた、古巣の・・・・・


「やべ、親方にどやされる!!!!・・・・っとぉぉぉおおおおお?!?!?」


がばっ、と起き上がろうとした際、いつもと違う感覚にバランスを崩す。

()()へ傾いた勢いのまま、ベッド下へ転がり落ちる。


「いっった・・・・・・・・・ああ、忘れてた・・・・・」


寝起きでボケていたせいか忘れていたが、いまの衝撃と、()()()()()()()を見て思い出した。

自分はとうにこの部屋を離れて、成り行きではあるが居場所を見つけ。

そして戻ってきたこの街で、死地へ挑み、生還した―――――――――――


「・・・・・・もう”無い”んだったわ」


代償に失った右腕を見てすべてを把握し、ソルは誰に言うでもなく呟いた。





【ギルド『黄金の果実』】




確認したいことがあり、部屋を出て職員の方に声をかけると、回復をとても喜んでくれた。

なんでも二日ほど眠り続けていたらしい。どうりで腹が減っているわけだ。

聞きたいことを確認し、目的のためひとまず外へ行こうとギルドのホールへ降りていくと、



「うえええええん嫌ですぅぅぅぅぅぅ!!!」


突然女性の鳴き声が聞こえてきた。


「なんでわたしが、あの()()()()のところに行かなきゃいけないんですかぁ~~~!!

たまたま居合わせて、無理やり助手させられただけなんですよぅ?!」


白いローブの少女が、アトラへ向かってわんわん泣きながら訴えている。すがられるような状態のアトラは困り顔だ。


「といっても・・・・()()アーリマン先生直々のご指名だからなぁ。

『国宝指定』を受けるような治癒師ヒーラーに教われるなんて、名誉なことなんだぞ?」


どうやら彼女、ソルたちが助けられた時の活躍で()()トマス先生に気に入られたらしく、直々にスカウトされてしまったようだ。

だが本人の先生への印象が悪すぎたため、全力で嫌がられている、といったところか。

むー、とうなりながらアトラが続ける。


「うちとしても、お前が優秀な治癒師ヒーラーに育ってくれるのは願ったり叶ったりだし、何より向こうはソルやウィズの命の恩人。できるだけ希望に応えてやりたいんだ。

これから冒険者を続けるにしても、あの人の助手って肩書だけで引く手数多だし、診療所を開くとなったら即お得意様と支援者スポンサーがつくような箔もつく。

どうにか受けてくれんか?」


それでも嫌なら仕方ないが、とアトラは続けたものの、正直、断ったところであの先生に目をつけられたら無理やりにでも連れていかれる可能性が高いことを、()()()()()()()()()

それなら、せめて自分の意思で向かってもらった方が、と少々追い詰めるような言い方をしてみたのだが・・・・


「うぐぐ・・・引く手数多・・・・支援者スポンサー・・・!!!」


彼女の琴線にかなり触れたようだ。心が揺れ動いているのが見える。そこへ・・・


「あと、その間の生活費は、たぶん先生が持ってくれると思いますよ」

「ソル!もう歩いて大丈夫なのか?」


話を聞いていたソルが、アトラへ助け舟を出した。生活費、という言葉に少女がピクン、と反応した。

それに気づき、ここぞとばかりに話を続ける。


「あの先生、なんだかんだ面倒見はいいですからね。診療所に寝泊まりするなら家賃もいらんでしょうし、助手っつってもようは仕事ですから、相応に給料も出るでしょう。稼ぎながら治癒師ヒーラーとしての勉強になるなんて、いい環境だと・・・・」

「行きます!!!」


説明の途中だったが、それを遮り彼女が決断を出した。


「お金の心配がないどころか、お給料も出るんですね?!?!?それなら行かない理由はないです!

実家への仕送りも滞らなくて済みそうですし、家賃滞納で住んでるところを追い出される心配もない!なにより、ご飯に困らない!!!!

なら行きます!!先生は嫌ですけど行きます!!」


さきほどの嫌がりっぷりとは真逆の前傾姿勢。

相当、お金に困っていたようだ。もはや目がお金のマークになっている。


「そ、そうか。良かったよ。向こうに伝えておくな?」

「はい!お願いします!!」


逆の意味でアトラにしがみつくローブの少女を見て苦笑しながら、その場をあとにする。

食事、はもちろんだが、まずは寄るところがある。

確認しなければ。もう一人、死地から生還した()()は、どうなったのか。





【主都「ヴェネティ」 病院内】




「あ・・・・・・・・ソルくんだーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

「ぐふーーーーーーー?!?!?!?!」


病室へ入った途端、ベッド上からこちらへ突撃してくる女性。対応しきれずタックルを食らい、壁へ激突するソル。


「よかった、よかったーーーー!!!生きてる、生きてる!!!ありがとね、ありがとね!!!」

「ウィズさん、ま、まって、ほんとまって。ちょ、元気すぎ、どゆこと、なんで???」


興奮して頭をぐりぐり押し付けながら喜ぶウィズと、予想外の衝撃に思考が追いつかず混乱するソル。

彼女が元気なのは嬉しいが、この活力はいったい・・・・?


「・・・ウィズさん、落ち着いてください。彼についても現状はお話ししたでしょう?

あと、病み上がりにむやみにタックルしない。悪い癖ですよ」


ソルが目を回しているところへ、おそらく見舞いに来ていたであろうエマが、苦言と共にウィズをソルから引っぺがす。

まるで猫のようにぶらりと摘まみあげられたウィズは、ばつが悪そうにえへへと苦笑した。


「ごめんなさい。つい、嬉しくなっちゃって・・・・」

「もう・・・・ソルさんすみません。彼女、興奮すると対象に突進する癖があって」

「あ、ああ、そうなんですか・・・・や、気になるのはそこじゃなくて――――」


ウィズをベッドに戻した後、エマに助け起こしてもらい、気になっていたことを聞く。

すなわち・・・・『死にかけた人間が、なんでこんなに元気なのか』?

答えは、ため息とともに一言で返ってきた。


「・・・・・ポーション鍋です」

「・・・・ああ~・・・」


納得した。

疲労困憊、意識すら混濁していた状態の自分が回復したあの鍋なら、この元気も納得である。

しかも、起きてからここ二日、毎食食べていたらしい。

おかげで、とっくに退院してもよさそうな具合なんです、とため息をつくエマ。

見舞いに来た人が困るほどの回復に、思わず苦笑してベッド脇の椅子へ腰かけた。

と。


「あ・・・・・・腕・・・・・」

「ん?ああ・・・・・まぁ、はい」


ソルの身体の変化にウィズが気が付き、視線を落とす。

先ほどまでは、興奮で見えていなかったようだ。


「・・・あの状況でしたから。命があるだけ儲けものってことで。

それを言うなら、ウィズさんの眼もですよ」

「・・・・うん」


彼女の左眼も、痛々しく包帯が巻かれている。おそらく・・・・・もう使い物にならないのだろう。

先ほどまで元気だったウィズも、平静を装っていたソルも、とたんに静かになってしまった。

二人とも互いの失ったものに対して、自身に責任を感じていた。

気まずい沈黙が流れる・・・・・


「・・・・ひとまず、食事でも食べながら話しましょう。準備するので、少し待っていてください」

「あ・・・・はい」


エマが、二人を気遣って部屋をあとにする。そういえば、昼時だった。

・・・・・しばらく、それぞれベッドの上、椅子に座った状態で沈黙が続いたが・・・・沈黙それを破る第一声は、ソルからだった。


「・・・・・無事で、よかったです」

「・・・・っ!!」

「・・・・無事、っていうのも、この状態でなんですけど。

―――――――――また生きて会えて、嬉しいです」

「・・・・ソルくんっ!!!!」


ウィズが、たまらず抱き着いてくる。ソルは、今度はきちんと受け止めた。


「ごめん・・・ごめんね!あたし、あたしが油断して、注意を怠ったから、腕・・・腕を・・・」


悔しさからか、ウィズが力いっぱいソルを抱きしめながら謝罪を繰り返す。

それに対してソルは、困り顔になりながらも、精いっぱい優しく返答した。


「あれは注意してても無理ですって。あんな生き物が”水流”にいること自体おかしかったですから。腕は、逆にそれだけで済んで儲けものっつーか。ウィズさんも眼ぇ持ってかれちゃいましたし」

「でも、あたしはソルくんの兄弟子で、師匠に任されてあの場に一緒にいたのに!」

「あの危機的状況で、先輩さき後輩あともないでしょ。親方―――アトラの受け売りですけど『できることをできる方がやればいい』ってやつです。そこに責任を感じることないですよ」

「でも・・・・でもぉ!!」


なおも自身の責任を追及しようとするウィズ。・・・後悔を自身へぶつけるための手段として

――――――己を攻め続けるために、彼女はこの行為を続けようとしている。

だが、ソルは絶対に、そんなことをさせたくない。

ろくでなしな自分を「すごい」と笑ってくれた彼女が、ただただ自分を傷つけるような不毛な行為を、誰が許容してやるものか、と彼女の自己批判へ抗う。

そして、最後にとどめの一言。


「ちなみに、弟子はともかく、実は冒険者としては()()()()()()()()()。先輩が責任を負う、ってのなら、ウィズさんのケガの責任は俺にあります。すんません」

「っ・・・・そんなっ」

「だから。ウィズさんが自分を追い込むことないんですよ。

俺のケガは気にしないで。こちとらガキの頃からダンジョン潜ってるんす。このくらい、ギルドに入るって決めた最初から、覚悟してました」

「うう・・・・うううううううううう~~~~~~」


ついに、二の句が繋げず、唸るだけになってしまった。せめてもの抵抗で、ぽかぽかと力なく胸をたたかれる。

・・・・可愛いらしくて、思わず笑ってしまった。ダンジョンではあんなに頼もしい彼女が、まるで子猫のようだ。

笑っているのに気づいた彼女が、片目でじろりと上目遣いに睨んでくる。目の端が、涙で濡れていた。


「・・・・ソルくん、いじわるだ」

「そうですね。自傷行為を認めるわけにはいかないんで」

「・・・・ううううううう、ばか、ばか」


最後に強めに叩かれたあと、ウィズが胸の中でおとなしくなった。どうやら、あきらめてくれたらしい。

そして、ポツリと一言


「・・・・・ありがと」

「い~え、どういたしまして」


恥ずかしそうにお礼を言った彼女の頭を、()()()()で撫でる。気持ちよさそうに目を細めた。本当に猫のようだ。



・・・・・・・さて、これからどうしたもんか。


片腕を失った自分。片目を失った彼女。

自分の店があり手足が無事な彼女はともかく、片腕になってしまった自分は、冒険者以外の身の振り方を考えないと。

タダで飯を食わせてくれる世の中じゃないことは、()()()()()()()()()()()し。

あと。


「んふ~・・・・・ふふふふふ」


嬉しそうに胸の中に居座り続けるウィズを眺めながら、これから戻ってくるエマさんへの、いまの体勢の言い訳を考えなければ、と、苦笑するソルなのだった。


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