それぞれの矜持
【同『水流』ダンジョン 深層部 ”長”side】
至近距離での射撃。
”長”は即座に身体を逸らし、回避。顔スレスレをかすりながら、生き物を殺す光線が通り過ぎていく。
続けて、同じような光線が2連続。さすがに避けきれないと悟り、刺したまま、地面に接していた杭の根本部分を爪で切断。足が地面から外れた。
横へ移動し2発の光線を避け、移動した場所から反動をつけ左腕の爪で切りかかる。
だが、人形は光線を撃つ腕を掲げたまま視線だけをこちらへ向け、魔力の壁で斬撃を防いだ。そして、腕を出した体制のまま腕の先から爪を出し、こちらへ振るってくる。
造作もなく避けるが、奴も腕は一本ではない。もう一方の腕も爪を出し、同じように斬撃を繰り出してきた。
先ほどのような遠くからの攻撃ならともかく、己の爪が届く距離での戦いなら、自分に理がある。
向こうの爪での攻撃は、正直言って拍子抜けなほど単純だ。不意を突かれなければ、まず切り裂かれることはない。
そう思い、隙間を縫って己の爪で切り裂こうと懐に入ったところで・・・・
「”閃光(flash)”」
奴の目が光る。咄嗟に身を後ろへ引いたのだが・・・・
『っ、gy!!』
腿のあたりを少し裂かれた。煩わしい。この間逃がした人間のような小賢しさだ。
「・・・・あれ、落とせてないか。やっぱり、”速さ”に特化した個体なんだね」
向こうも、思った通りにならなかったのか、不服そうだ。
・・・・やりづらい。
強者との戦いを望み、ここで奴と対峙することに決めたのだが、自分が思っていた戦いとは、少し違う。
自分が望んだのは、互いに己の死力を尽くし、限界まで争いあって決着がつくような、強者同士のせめぎあいだ。だというのに、目の前のこいつは、強者であるにもかかわらず、小賢しい手を使い、こちらがやり辛くなるような手を繰り出してくる。
『・・・・・・gyyy・・・・・!!!』
・・・イライラする。
そんな工夫など、弱者のすることだ。強者は、自身の強大な力を思うさま振るい、自由に闘ってこその強者なのだ。その力があるというのに、こいつは、まるで余力を残そうとしているようで、癇に障る。
『gyaッ・・・!』
刺さっていた杭の残骸を引き抜き、ヒレを広げ、前傾姿勢をとる。
・・・思い知らせてやる、強者の戦い方というものを。
余裕ぶった態度で相手を狩ろうなどと、思えぬように――――――――――――!!
【同 マギside】
しばしの攻防ののち、”長”が、構えを変えた。
前傾姿勢で、まるでアスリートが走り出すかのような体勢。肘とすね部分にあるヒレが、大きく開き、刹那。
「・・・・・・・・・・・っ!!」
正面へ衝撃。一瞬で間を詰められ、胸部へ刺突を受けていた。
先ほどまでの動きとは違う。恐ろしく速い。
幸い、予想できる動きで初撃は両腕で防げたが、今度は
「っ、く、痛ったたたたた!!」
左右、上下、袈裟・逆袈裟、背後からの刺突。
周囲から目にもとまらぬ速度で斬撃が繰り出され、強度自慢のマギの身体が切り刻まれていく。
「・・・”炸裂(burst)”っ!」
たまらず、射撃の反動で空中へ。そのまま”刃(blade)”を天井の岩盤へ突き刺し、退避した。
「・・・くっそ、見えてるんだけどなー。
あの速度はけっこう厄介だわ・・・・」
天井で相手をうかがいながらひとりごちる。
向こうも、突然相手が地上からいなくなったため、少々面食らったようだ。あたりを見回した後、天井のこちらを発見し、
「っ?!」
次の瞬間には目の前に現れ、顔面へ向けて爪が突き出されていた。
危ういところで首を逸らし避けたものの、向こうの爪が背後の岩盤を貫いていた。
・・・顔面潰されるとこだった。
速度もだが、跳躍力もあるんだな・・・・ますますめんどくさい。
「よっ・・・と―――――――”装填(load)”」
”刃(blade)”を岩盤から引き抜き引っ込めて、また地上へ。腕を”砲(canon)”へ換装する。
当然向こうは追ってくる・・・・・ので
「”射撃(shoot)”!!」
空中なら身動きはとれまい、と狙い撃ちしたのだが。
『・・・gッ!!』
「くそ、まじか」
奴が落下の軌道を逸れて回避。そのまま、
『gyaaaaッ!!!』
「が・・・っ?!」
空中で加速し、直下へ斬撃。肩口へ衝撃。マギの装甲へ、《・》ヒビが入った。
「つおおおおおおお!!痛た痛た痛た痛た!!!!」
続けて、先ほどのように――――いや、さきほどよりも激しい斬撃の嵐がマギを襲う。
「・・・・馬鹿にするな、ってか!!・・・くっ!」
”長”の瞳が怒りに燃えている。言葉が通じずとも、『あの程度の攻撃が通じるとでも思ったか』という意思が、びしびしと痛みと共に伝わってくる。
両腕を交差させてブロックするものの、そろそろ耐えるのも限界だ。
「―――――――――使いたくなかったけどなぁ。これ、やると眠いし」
ため息とともに呟いた後、今度はマギが構えをとる。
そして、
「じゃあ、狩るか」
ぼそりと、処刑宣告をつぶやいた。
【”長”side】
小賢しい小賢しい小賢しい!!
人形の対処に、”長”はイラつき、振るう爪に力がこもる。
ほかのザコどもならいざ知らず、”長”である自分にあの程度の策が通用するとでも?!
侮るような攻撃に、彼の怒りは頂点に達し、それに伴ってマギへと襲い掛かる凶爪もさらに勢いが強まる。
せっかく同等の戦いができると踏んだのに、とんだ見込み違い。
もはや『強者の戦い』などどうでもいい、ここまでこちらの「力」を安堵って手を抜く相手に、認め合うような価値はない!
殺 す 。
最後の一撃として頭部を刈り取るべく、ただでさえ刃のような爪を、指を揃えて力を籠める。
これを最大速度を出して振るえば、鋼鉄すら切り裂く刃の出来上がりだ。奴の装甲でも、ひとたまりもないだろう。
これが強さだ、これが”長”にまで上り詰めた自分の力だ!きさまらザコがどうあがいてもたどり着けない「力」!!!!
彼は自身の勝利を確信し、刃となった腕を振りかぶる。
ほかの獲物のように、その余裕ぶったまま態度のまま死ね!!
「―――――――――”魔力加速(mana accel)”」
人形の首目掛けて腕を振り抜き、仕留めたはずだった、のだが。
手ごたえはなく、腕に一瞬妙な衝撃があったのみ。
振り返り確認するが、奴は健在で平然とそこに――――――――――――
「・・・・・・・・・・g・・・・・・?」
奴の爪に、見慣れないものがぶらさがっている。まるで千切れた同胞の――――――――
いや、違う。あれは・・・・・・・・あれは!!!
「・・・・・・捉えた。やっぱ、この速度出さないとだめかー」
『gッ・・・・gyaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
自分の!!腕だ!!!!!!
【マギside】
向こうが仕留めるつもりで放った一撃に合わせ、カウンターを仕掛けたのだが、うまくいった。
”魔力加速(mana accel)”―――――――――マギの核となる巨大な魔石によって生み出されたエネルギーを、今回は、自身の速力として利用した技。
核の魔力を多く使うため、使いすぎるとマギ自身が休眠状態になってしまうという弱点はあるが、使いどころを間違えなければ非常に便利な技である。
隙の大きい攻撃を”魔力加速(mana accel)”で回避しつつ、その速度のまま”刃(blade)”で腕を切り落としたのだ。
半狂乱になった”長”が、残った腕でこちらを狙ってくる。が。
「っ、うん。これくらいなら・・・」
ひらり、と。
さきほどまで受けるしかなかった攻撃を、二度、三度と回避。
「”装填(load)”・・・・”射撃射撃射撃(shoot shoot shoot)”!」
”砲(canon)”を連射。こちらは避けられてしまったが、もともと牽制のつもりだったので問題なし。
結果、向こうとも距離がとれた。
「・・・・回避の方はあまり速度が落ちてない、か。でも、手数が半分、攻撃は速度も落ちてるみたいだし、成果は上々かな。
・・・やっぱり、あのヒレが速さを生んでたんだ」
これで確証も得られた。
あの”長”という個体が、なぜここまで上り詰められたのか。あの異常発達したヒレによって生まれる速度、それにものをいわせた高速攻撃。
これにより、気性の荒いサハギン達を力でねじ伏せ、配下に置いていたのだろう。
そして、その『力』に心酔し、従えている自分に優越感を感じていたに違いない。
「・・・・・小物だなぁ」
吐き捨てるようにつぶやく。本当、つまらない相手だ。
だいたいのことは、いま戦った感覚と、その前の配下のサハギン達への対応で把握した。
もう、確認すべきことはない。
そして、こんな風に力に溺れた者の末路は決まっている。
では・・・・・・・・・・・・思い知らせてやるとしよう。
【”長”side】
くそっ、くそっ!!!!!
突然、人形の動きが見えなくなった!
なにが、何が起こっている??
負けるはずがない、主に貰ったこの『力』で、自分が負けることなどありえない!!
そんなやつがいるなど、聞いていない!!
―――――――焦って思考がまとまらない。さっきまでは回避も余裕だった向こうの射撃も、腕のヒレが減った分、連射されると当たりかねない。
くそくそくそ、なんなんだ、この土塊!!!!!!
彼は焦りつつも、次にどうするか思考を巡らせる。
正面からは避けられる、背後から後頭部を狙ったものもダメだった、なら、どこなら――――――
「”魔力加速(mana accel)”」
『?!gッ・・・・・・・』
突然の向こうの攻勢に虚を突かれた。いままでこちらからしか仕掛けておらず、向こうが攻めてくるという考えが欠けていたのだ。
目の前に肉薄した人形に対応しきれず・・・・・結果。
「――――――――――っそぉら」
『ッ!!gyyyyyyyyyyyyyyyyy!!!!!!!!』
残った腕を、肩口からもぎ取られた。
腕、うでが・・・・自分の、腕!!!
そのまま、
『g、gッ!gy、оッ・・・?!』
腹、背、腿、胸、と今度はこっちが切り刻まれる。
防ぐ腕もないので、されるがまま、全身が血に染まっていく。
そして――――――――
「さっきまでのお返し。あと!」
『gyYYY?!?!?!?』
仕上げに、片眼をえぐられた!
痛い、痛い、痛い痛い痛いイタイイタイイタイ!!!!!!!!!!
見えない、景色が半分見えない!!!!!
初めて負う『死』を意識する痛みと恐怖に狂乱し、今度は逃げ出そうと、残った足のヒレを全力で広げ、湖畔エリアの出口へ全速力で向かう。
だが。
「”魔力加速(mana accel)”―――――――逃がすわけないだろ」
『g、оッ』
瞬時に追いつき、蹴りで吹き飛ばされた。
転がされた先で、朦朧としたまま、顔を上げる。
ああ いやだ あああ
迫ってくる。自分の『死』が迫ってくる。
「・・・・こんなのがあるから調子に乗るんだよな」
『gッ・・・・・!gyyyyyyッ・・・・・!!!』
足のヒレをつかまれる。
嫌だ、嫌だ、と首を振る。それが、それを奪われたら、もう自分は、本当に―――――――――
「悪いね。本来、敵をここまでいたぶる趣味はないんだけど、今回は特別なんだ。
・・・・・大事なうちの子たち、二人とも痛めつけてくれちゃって。
あやうく死ぬところだったんだ。あんなに、あんなに必死に、元気に、せいいっぱい、楽しく生きている子を・・・・これから、この世界を担っていく人間をさ・・・・!!!
傷者に・・・・・しくされおって・・・・・・!!!」
わからない、わからない。言っていることはなにもわからない。
ただ、ただ―――――――――――――猛烈な殺意だけが、わかった。
ああ・・・・そうか。
「だから―――――容赦なんてしないよ」
ぶちりと。
両足から、激痛が走った。
『ッ・・・・・・・aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
自分は――――――――――――――怒らせてはいけない存在を、怒らせたのだ。
これにて”長”とマギの戦闘は終了です。
次回、それぞれの「これから」のお話。




