怒れる機械人形
【『水流』ダンジョン 湖エリア】
『・・・・・・・・・ggy・・・・・!!』
ダンジョン内の暗闇に、低いうなり声が響く。
直後に、ひゅんっ、という風切り音と、びしゃっ、という水音。
『ッ!?gyyyyyyyyyyyyyyy?!?!?!』
『『gy?!gy?!』』
『『gygggggg!!』』
近くに控えていた一体が、”彼”に切り裂かれ、体液をまき散らす。その凶行に周囲が驚き、騒ぎまわる。
手負いの獲物を逃し、傷を負わされた―――――そのことで、”彼”は非常にいらついていた。
主のお陰で手に入れた『ヒレ』によって生み出された『強さ』で、自分は凶暴な同胞たちを従える『長』になった。
これは、おそらくわが種族ではじめてのことだ。
あれほど他者を嫌い、群れを嫌い、そういったものを嫌悪してきたわが種族が、圧倒的な力の前に、首を垂れ、跪ずき、まとまり、自分の言うことに従う。
―――――――――高いところから弱いものを見下ろす、従えるというのは、こんなにも気持ちよかったのか――――――――――
50ものサハギンを従える”長”である彼は、いま自分が置かれている環境に酔いしれ、慢心していた。
・・・・・その状況に、突如水を差されたのだ。
生き物として格下と思っていた雑魚に、手傷を負わされた。
確実に『仕留めた』と思った瞬間の、まさかの出来事だった。
・・・・思えば妙な雑魚ではあった。
番がやられたのに、泣き叫ぶことも、怒り狂って暴れるようなこともしない。
なにより。
反撃を受けた時、腕を落としてやった直後なのに、顔がまったく驚いていなかったのだ。まるで、そうなることを知っていたかのように。
そしてその後、死角へ隠していた左腕で頭と、腹の中まで焼かれ――――――――
『ッ・・・・・gyyyyyy・・・・・ッ!!!!』
思い出し、また腸が煮えくり返る。
傷などとうに癒えていたが、傷つけられたプライドは修復されない。
もし見かけるようなことがあれば、今度こそずたずたに切り裂いて――――――――と考えていた、刹那。
「”杭(pile)”」
ずどっ・・・・という、鈍い音。そして、足に鋭い痛みが走った。
怒りに吞まれていた長は、突然の音と痛みに驚き、自身の足へ目を向ける。
そこには、深々と杭で地面に縫い付けられた足があった。
『gッ・・ッ?!?!ggaayyyyyyーーーーーーーーーーッ!!!!』
敵襲。痛みに耐え、周囲に危険を知らせる!
部下たちは突然の警告に驚き、長の傷にパニックになりながらも、あたりを警戒しはじめた。
・・・・・・周囲にはなにも見えない。先ほどと同じ暗闇が広がり、”敵”らしき影はどこにも見えなかった。
長は杭を抜こうとするが、なにか仕掛けがあるようでうまく抜けない。仕方なく、周囲を警戒しながら身を低く構え、”敵”の居場所を探す。
だが。
「”発射(shoot)”」
不意に飛び込んできた巨大な光弾が前列に展開していたサハギン達を薙ぎ払い、
「”照射(ray)”」
光の筋が、通った場所にいた中段の部下たちを切り刻み。
「”刃(blade)”」
”敵”に近づいた者たちを穿ち。
「”火炎(flame)”」
かろうじて息があったやつらを、炎の海に沈めた。
―――――――――――残ったのは。
「・・・・・やぁ。君が、侵入者だね?」
足を縫い付けられた長と、彼へ鋭い視線を向ける、目の前の人形だけだった。




