生き抜いたものを『救う』試練
【『黄金の果実』ギルド ホールにて】
「ライフポーションと包帯ありったけ!!意識は?!」
「ウィズは意識なし!ソルはギリありますが、出血が・・・・」
「くそっ!腕縛って止血!!あとは、とりあえず口にポーション流し込め!!
少しでも体の回復力上げさせろ!!」
「医者まだ来ないんですか?!!」
「ばか、呼びに行ったばっかだろうが!!」
「だって!!!このままじゃ!!あ、治癒師は?!」
「あんな傷に使っちまったら死んじまうだろ!!!」
「ちぃっ、酒!!傷口消毒だけでもしとかねえと!!」
・・・・ギルドは戦場の様だった。
素材を集めに出ていたソルとウィズが、瀕死の重傷で帰ってきたのだ。
『水流』ダンジョン――――――
主都では冒険者になりたてのものが腕を磨く、初歩的な難易度のダンジョンである。
そんな場所で、経験も実力もあるこの二人が死にかけるなど、誰も予想できなかった。
しかも、いまギルドの冒険者は有給休暇中。職員はいるものの、こういった対処ができるものは滞在していなかった。
ギルド長であるアトラも、いま呼び出されて駆け付けたばかりだ。
――――侵入者。
現れたであろうその存在に、アトラが悔しそうに歯を食いしばる。
・・・ダンジョン街で、侵入者が頻繁に出没していることは聞いていた・・・。
だが、あの街から離れた場所にあるこの主都で、しかもこんな短期間に現れるとは・・・・・!!
―――――と、そこへ。
「マギさん・・・・・!」
珍しく厳しい目つきをした顔で、マギが現れた。すぐさま状況を伝えるべくアトラがかけよる。
「申し訳ない・・・・!わたしもいま報告を受けて、対処しはじめたところで――――――」
『詫びは結構。先ほど呼びに来たものから事情は聞きました』
「・・・?マギさん?」
マギの様子が、いつもと調子が違う。
というか、声や仕草などもまったくの別人。どういうことかアトラが困惑していると・・・・・
『トマス・アーリマンです。『深層』のダンジョン街では、治癒師を。
さきほど、マギの身体を借りうけました。患者の容態を確認します』
――――――マギの姿をした彼は、そう名乗った。
「トマス・・・・?え、トマスって、『悪魔の治癒師』、『国宝指定』の・・・・?」
「うそ、処刑されたって聞いてたのに?!」
「え、人形?マギさんじゃないの??」
「借りうけたって、なに??」
『うるさい。処置に関係のないものは喋るな、出ていけ』
そう言いはなつと、止める間もなく、彼は患者の容態を確認に回った。
『・・・眼球の損傷に、二の腕部分の切創、か。
片眼はあきらめよう。治癒で治そうにも、おそらく体力が持たないし、頭への負担がデカすぎる。
・・・腕の方はなんとかなる。気絶はしているが、すぐ治癒すれば死にはしない』
ウィズの診断をさらっと済まし、もう一人へ向き直る。
『さて・・・・ソルか。出血量も含め、君の方が重症だな』
「・・・・・・・・先生・・・・すか?」
かろうじて意識を保っていたソルが、ここまでの状況と、目の前に迫った顔の表情を見て確認する。
『そうだ。マギの身体を借りている。意識は落とさないように。下手をするとそのまま死ぬぞ』
「・・・・うす」
『切れた腕|は?あるなら出せ、付け治す』
・・・さらっととんでもないことを言ってのける。手術では切断面の綺麗さなど様々な条件が整ってようやく接合できるものを、痛みと引き換えとはいえ即繋げようというのだから。
「・・・・すんません。腕、ないっす」
『なら仕方ない。これから不便だと思うが頑張れ。接合ではなく、傷を塞ぐ』
そう言葉を切り、さて、と周囲を見渡した後。
『・・・・ああ、ちょうどいい。そこの治癒師』
「はいっ?!」
近くにいた白いローブの少女へ、トマスが声をかける。
『普段教えを広める気はないが、この状況を招いてしまったのは自分だ、とマギに泣きつかれてね。特別に教授する。
マギの身体越しでは治癒が使えない。僕が指示する、君が治せ』
「「ええっ?!」」
周囲と本人が驚く。指名されたのは、ギルドに入りたての、まだ実戦経験もない新人だったのだ。
まだギルド内での所属も決まっておらず、治癒も覚えたて。
人の命に係わる処置など、当然したことがない。
あわてて周囲とアトラが止めに入る。
「そんな、無理です!そいつはまだうちに入ったばかりの見習いで―――――」
『むしろ都合がいい。先入観や妙な癖もついていない方が、僕の教えを素直に受け入れられるでしょう』
「しかし――――」
『ちなみに、治癒経験があるやつらは、自身のやり方に慣れすぎて僕の言うことを三割程度しか実践できません。そんな人間に瀕死の患者が任せられると思いますか?却下です』
「――――っ!」
『治癒師どもは入ってくるな、邪魔だ』
最後には、オロオロと戸惑う彼女をかばって前に出ようとした治癒師たちすら制すトマス。
そして、ローブの少女の前に立ち、
『さて。というわけで、この二人をこの場で救えるのはおそらく君だけだ。どうする?』
うっすら微笑みながら、手を差し出す。
緊張が支配する空間・・・・しばらくの沈黙ののち。
「・・・・や、やります」
震える声で、少女は答えた。
―――――――――――――まるで悪魔の契約だ、と思った。
この状況で「できるのは君だけ」と言われたら、「やる」以外の選択肢などあるだろうか。
なにせ、普段から冒険者として頼られているウィズと、ギルド長の直弟子であるソルだ。
失った場合の損失と落胆を考えれば、本当は係わりさえしたくない。
しかし・・・・・・目の前の悪魔は『できる』というのだ。当然だという顔をして。
しかも、『君なら』、と。
これだけ瀕死の人間を救うなど、おそらく、医術では難しい。
処置をしたうえで、生きていられるかどうかも厳しいうえ、たとえ生き残ったとして、後遺症が残る可能性も高い。
もちろん、治癒で治す、なんてのはもっと難しい。
切り傷擦り傷、小さな火傷などならまだしも、あんなに深い切り傷や、切断された傷を治癒で塞ぐなど、一般的には聞いたことがない。
できるとしたら、まさに、悪魔の所業である―――――――――
『いいだろう。では――――――』
と、さっそく始めようとするトマス。それを
「そ・・・・・・そのかわり!!」
『ん?』
涙目で、少女が遮る。
こんな恐ろしいことに挑戦させられるんだ。せめて、
「い、言ったとおりやって、な、治せなかったら!・・・・・・・・ゆ、許しませんから!!
か、覚悟してください!!」
恨み節くらい言わせてもらおうと、そんなことを叫ぶ。
・・・・・治せなかった場合のことが思いつかず、陳腐になってしまったが、こんなプレッシャーを負わなければいけないことへのささやかな抵抗だった。
だが。
『いいとも。できなければ責任は負おう。金でも命でも持っていくがいい』
さらりと。笑うでもあざけるでもなく、当然のように悪魔は言い切り、患者のもとへ向かっていった。
その返事が意外でぽかんとしたあと、少女があわてて後を追う。
・・・・・なんか、ちょっと頼もしい、などと思ってしまった。




