死地
【『水流』ダンジョン 湖にて】
「ウィズさん!!!!!!!!!!!!」
ソルが目の前の出来事に驚き絶叫する。
ぐらりと倒れこむウィズの身体をあわてて抱き留めた。
・・・傷がひどい。
顔から左腕にかけて、重度の裂傷。流血がひどく上半身は血まみれで、左腕も二の腕部分からは骨が見えている。
左目に至っては・・・・・つぶされてしまっていた。たとえ治癒でも、この傷は・・・・。
マギが悔しさと焦りでぎり、と歯を食いしばる。
反応できなかった―――――どころか、ウィズが血しぶきをあげるまで、なにが起こったかわからなかった。
気づかれた?と思った瞬間に、ウィズが攻撃を受けていた。
「くそ・・・・くそっ」
悔しさに悪態をつきながら、次の攻撃に備えようと敵の姿を探す。が。
(いない・・・・?)
―――――――――――『アルファ』の姿がない。
弱った獲物がいたら、追撃して即、仕留めるのが奴ら(サハギン)のセオリーだ。
まさか、見逃された・・・・・?
(いや)
『gya!』
『gyaaaa!gya!』
『gggggggg・・・・』
(・・・・・そんな、甘くはねえよな)
追撃はない代わりに、周囲を大量のサハギンが取り囲みはじめていた。
ざっと30体。円で囲むように陣取り、全員が獲物を逃がさないよう、威嚇しながら血走った目で我々を睨みつけている。
・・・・・・・その円陣の向こうに、残りの取り巻きを連れた『アルファ』の姿があった。
(一撃食らわせた後、あの位置まで即離脱。自身を安全圏に置きつつ、獲物を囲むよう指示、か。
・・・・・・・・完璧に統率が取れてる。判断と対応が早い、くそっ)
向こうの群れとしての完成度の高さに、感心と危機感を抱く。
こちらは手負いで動けない味方一人を抱えた、俺一人。対して、敵は慈悲など持たない凶暴な性格の水棲生物30体以上。しかも、あの『アルファ』がいる。
――――――一瞬で。圧倒的不利な状況に追い込まれてしまった。
(・・・・・どうする。
戦力は圧倒的不利。通路はすぐそこだが、逃げるにしても重症のウィズさんを連れて正面突破は厳しい。
なにより、突破したところで『アルファ』の速度ではおそらくすぐ追いつかれる。
こいつら全員の不意を突いて尚且つ追いつかれないような奇策でもなけりゃ・・・・・)
ソルが警戒し、思考をフル回転させていたその時―――――――――――――
「・・・・・う、ソル、くん・・・・」
ウィズが、目を覚ました。
「?!ウィズさん!気が付・・・・」
「逃げ、て・・・・・あたし、いいから・・・・・」
消え入りそうな声で、あきらめたように微笑みながら、ウィズが告げる。
「・・・・・・・っ!」
・・・・・・・・・・・当然だ。当然の選択だ。
こんな状況で、自分が死ぬのがわかってて。他を生かすために犠牲になる。
仲間が一緒にやられるよりはずっといい。冒険者としてのアタリマエ、初期に教わる大事な掟。
・・・・・ウィズさんは、そのアタリマエ通り、当然のように選択した。
「ウィズさん・・・・俺ね」
でも。
そんな判断を―――――――――――――――俺は。
「前はね、それでいいと。仕方ないと思ってたんすよ」
「ソル・・・・・くん・・・・?」
ソルは、ウィズを抱えて立ち上がる。
・・・倒すどころか、逃げられるかどうかもわからない。そんな死地で、彼は。
「でも・・・・俺は、助けてもらったんです」
飛び掛かってきたサハギン一体を、スライムネットで地面に張り付ける。
「死ぬ、って思ったところを。まるで嘘みたいに」
忍び寄っていた二体目を、蹴り飛ばして麻痺で動きを止める。
「あの店の連中の影響でね。我ながら、ずいぶん欲張りな話なんすけど――――――」
袋から、大量の道具を引っ張り出す。まだ、こんなに手はある。
―――――――――――この女性を、守りたいと。
自信もなく、意気地のない俺を「すごいよ!尊敬する」と言いきった、まっすぐな先輩を。
「・・・・・・・死なせたくねえ、って思ったんすよ。自分がしたような思いは、誰にも、させたくねえ」
ウィズを背負いなおし、籠手をはめる。剣を握る。道具のスイッチを押しこんで準備する。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・マギさんみたいに。
偉そうなこと言って、さらっと、解決してやりたくなったんすよ!!!!!!!!」
”閃光(flash)”を起動して、拳を地面に打ち付ける!ソルは、ウィズを抱えたまま、サハギンの壁へ飛び込んだ――――――――――――――。




