地獄の二丁目 ~先輩弟子との共同作業~
【主都付近 『水流』ダンジョン】
「見っけた―!!5体目ーーーーーー!!!」
『?!?!?!』
ぶるぶると反応する水の塊のような生物が、なすすべなく叩き潰される。
そしてそのまま、
「6、7、8ーーーー!!!」
『『?!?!?!?!』』
群がっていた周囲の同じような生物が、反応する間もなく、ウィズに次々と討伐されていく。
あるものは切り裂かれ、あるものは貫かれ、あるものは内部から四散し―――――様々な方法で。
持っている武器は一つだけなのに、ずいぶんと器用なことだ。
「・・・・・なるほど。こりゃ、あの道具屋の系譜ですわ」
後続としてサポートをしていたソルが、納得したように苦笑した。
先ほどのマギたちの説明を思い出す。
『弟子のひとりである、ウィズ・サカモト。ご先祖さんが勇者の血筋なんだけど、ちょっと変わったご先祖さんでね。元の世界にあったものを広めたい、って、勇者兼業で鍋屋さんやってたんだ。
結構評判だったんだよ?いま冒険者が野営するとき鍋するのも、きっかけ、はじまりはこのお店。それまで乾燥させた携行食ばっかりだったから、暖かいものが食べられるのは、かなり画期的だったの。
ま、荷物がかさばる関係で、材料とレシピまでは再現難しかったから、ソル君が知る通り、雑な感じに伝わっちゃったけど。
それで、代々子孫たちがそのお店を継いでたんだけど、ある時、火事で先代が亡くなって、レシピも焼失しちゃって、メニューが作れなくなっちゃったの。
で、廃業・・・って流れだったんだけど、子孫のひとりであるウィズが、ある日ひょっこり帰ってきて「ひとりで再建する」って言いだして・・・・・』
『いやー、冒険に飽きて戻ってみたら、実家が廃業してた、って聞いて、いてもたってもいられず。
それに、実家の鍋、大好きだったんですよ!!もー、失われるのが惜しくて悔しくて!』
『で、一人で奮闘してたところに、僕がたまたま通りがかって、味見させてもらったうえで助言してみたら・・・弟子入り志願されちゃった☆』
『しちゃった☆』
・・・・という、都合良過ぎません?という流れだった。
で、どこらへんが秘密兵器なのか聞くと・・・・
『彼女、凄腕の武器使い(ウェポンマスター)。僕のお墨付きね。今回、ポーション鍋完成のお祝いと、助っ人としての依頼を兼ねてお店に来たの』
『なのさ!』
というわけで、今日からは相棒として依頼にあたっている。
彼女はこのダンジョンアタック冒頭から、その秘密兵器っぷりを遺憾なく発揮してくれていた。
―――――主都付近にあるもう一つのダンジョン、『水流』。
主に水棲生物たちが幅をきかせ、湿気が多く至る所に川や湖が存在する洞窟だ。
そして、こんな場所で採れる必要な素材といえば・・・・
「ウィズさーん!先行はいいんですけど、飛び散ったスライムたちの材、集めるの大変なんすから、もうちょっとまとめて倒してくれたりしませんかね?」
壁にへばりついたスライム片をひっぺがしながら、ソルがウィズへ声をかける。
そう、目的はスライムである。
核を中心に、水のような成分で覆われた透明な生物。様々な形があるが、成長したものは様々なものに擬態・変質し、その能力すら模倣するという、可能性の生き物。
一説によると、人に擬態して人と添い遂げた個体すらいるという。伝説上の話ではあるが。
閑話休題。
つまり加工しやすく汎用性があるということで、その素材は様々なものに加工されている。武器や防具に限らず、生活用品や衣料品・医薬品に至るまで。結果、依頼される量も多くなる。
というわけで、素材を効率よく回収するため、ウィズへ提案したのだが・・・・・
「え、無理!倒し方なんて、いちいち考えてられないって。
だって、モンスターって障害でしょ?立ちはだかったら打ち倒す、ってことでいいんじゃないの?」
頭に「?」を浮かべながら答えるウィズ。命を懸ける冒険者として至極真っ当、かつ、死ににくいシンプルなスタンス。数々の修羅場をくぐってきた経験者らしい言葉だ。
ソルとしても、非常に反論しづらいのだが・・・・
「ぐ・・・・それは、冒険者としては非常に正しいんすけど、その、効率というか・・・」
素材回収する依頼として、大量に入手しなければならないモノはできるかぎり省エネで手に入れたいのも、経験者としての意見であった。回収する素材はそれだけではないのだから。が。
「うーん、効率かー!ごめん!!」
「え?!」
突然ウィズに謝られる。
「あきらめて!あたし、気が付いたら身体が動いてるクチだし!
・・・・悪いけど、考えて戦ってうまくいったためし、ないんだよね」
すまなそうに、提案を却下された。
考えるより先に、身体が反応しているタイプなのだろう。ますます、歴戦の戦士らしい。
・・・なんとなくわかっていたが
「・・・や、なんかイメージ通りではありますけど・・・・」
「ていうか、ソルくんすごいね?さっきも岩の隙間に隠れてたヤツあぶりだしてくれたりとか、暗いとこ照らして見えないとこにいたやつ教えてくれたり!めちゃめちゃ助かるよ!!ほんとに元前衛なの?なんでそんな気が利くの??」
「いやあの・・・・・まぁ」
ウィズのノリに圧倒され、ソルが気まずそうに言葉につまる。
正直、かっこ悪いのであまり言いたくないのだが・・・・
ウィズはなんだか興味深そうに、ふんふんとまっすぐな視線で見てくるので、仕方なく。
「ちょっと・・・・・・・戦い方を見直す機会がありまして。マギさんに、教わった、というか」
死にかけたので反省して慎重になったんです、というのが少々恥ずかしく、濁した言い方になってしまった。
ウィズは、なるほど!と頷いてくれており、納得してくれたようだ。
「それよりも、俺はウィズさんの攻撃スタイルのほうがすごいと思いますけど。
よくそんな複雑な武器でガスガス敵倒せますね?それこそ頭使わないと大変なんじゃないすか?」
なんだか間に耐えられず、話を切り替える。実際、興味があることだった。
他所ではみたことがない、可変式武器「プロテオス」。大剣、槍、戟、斧、槌、盾、果ては内蔵術式によってヒルトボムとしても使える優れもの。
ただし、複雑な組み換えをマスターし、振り回せる腕力があれば、だが。
「んー、たしかに組み換え覚えるのは大変だったんだけど、せっかく師匠に薦められた武器だし、使ってみたら自分との相性もいいしね。慣れよ、慣れ!
あと、もともと持ち歩いてた武器の量に比べれば軽いし!ぜんぜん平気!」
・・・そう。この人のすごいところは、「どの武器が向いているかわからないから、どれでも使えるようにして全部持っていこう」という、単純かつ頭の悪い方法でこれまで生き残ってきた、ということに尽きる。武器使い(ウェポンマスター)と呼ばれるのも、そこが起源だ。
判断の迷いが即、死につながる冒険者として、攻撃時に迷いかねない選択肢を増やすことが、そもそもイカれている。
だが、それをやってのけているのだから、いまこうして頼れる冒険者になっているわけで。
「・・・・かっけぇなぁ」
「ん?なに???」
「や。ウィズさん、自分が信じること貫いててすげえ、って話です。さすが、マギさんが見込んだ武器使い(ウェポンマスター)だな、と」
「んんん????褒めてもあたしの気分しかよくならんぞう??」
満更でもなさそうで、にんまりとした顔でスキップしはじめるウィズ。と、途中で振り返り、
「あ、でもね!あたしがこれを使えてるのは、天性スキルによるところも大きいの」
「え・・・・天性持ち、なんすか、ウィズさん」
驚いた。勇者の血筋、とは聞いていたが、そもそもこの人は生まれた時から特別だったのか。
――――天性スキル。培って身についた技術ではなく、生まれた時から備わっている、という、選ばれた者だけが持つ、神の悪戯。
そりゃあ、すごくもなる。とソルは思ったのだが
「うん!あたしの天性スキル、『初手』っていうんだけど、攻撃するときの初動が速くなるの」
「え・・・そんだけ?」
「そ!そんだけ!あくまで初動だけだから、この武器以外では連撃には基本使えないんだけどね!扱いづらいったら!」
「・・・・・」
からからと笑うウィズと、戸惑うソル。
・・・ウィズの話してくれたスキルは、戦うにしては少々有利だが、絶対的な能力などではない。
勇者の血筋の天性なのに、だ。
「おかげで昔は、敵の群れに一番に突撃してて、死にかけた回数なんかも数えきれないくらいあったんだー」
「え・・・ウィズさんが、ですか」
「そ!情けない話だけど、あたしのスキル特性なら、何より突撃!速攻!って思いこんでたから、毎回傷だらけで、依頼も失敗すること多かったなぁー」
ソルの問いに、ウィズがへへ、と苦笑して答えながら、微笑む。
・・・・・最初、勇者の血筋の天性、と聞いて、ソルはある種、あきらめの様な気持ちを抱いていた。
「ああ、やはり才能なのだ」と。
「生まれた時から恵まれている人だからここまで強いのだ」と。
・・・・・だから、自分のような凡人にはできない戦い方なのだ、と。
先入観と劣等感からか、「失敗などしたことはないだろう」と勝手に決めつけていた。
・・・・・・・・・ずいぶん失礼な勘違いをしてしまったようだ。
内心反省するソルに気づかず、ウィズは話を続ける。
「そんな戦い方を見た師匠が、ね。あたしに、『スキルのために死ぬな』って言ったの」
「スキルのために・・・死ぬな?」
言った意味がわからず、頭を傾げるソル。それに、ウィズが答える。
「そ。『才能があるのはいいけど、それを活かするために、君が死にかけるのは本末転倒だ』って。
もー、頭がーんって叩かれた気分になって!あー、あたし天性スキルに振り回されてケガしてたんだ―、って。
そこでようやく、ちょっと戦い方考えよう、ってなって。
で、いろいろ試してたら、違う武器を使う毎にスキルが発動してることがわかって、特性が活かせるこの武器作ってもらって、正面からだけじゃなくて、不意打ちとか狙うようにして、慣れていくうちにどんどんケガとかも少なくなって、最近ようやく、ギルドでも頼ってもらえるようになったんだ」
そこで振り返り、まっすぐにソルを見る。
「だから、あたしね。ソルくんが、いっぱい考えながら戦えるの、うらやましい」
「はい?うらやましい?」
突然自分の話になり、ソルが困惑する。
「あたし、難しく考えるの苦手で、何回も死にかけて、師匠にそう言ってもらえるまで、ぜんぜん考える、って努力をしてなかった。
いまでもシンプルな作戦くらいしか立てらんないし、細かい作業も苦手だよ?
だから、戦闘時の緊張状態でいっぱい考えられて対応できるソルくん、尊敬する。
ソルくんすごいよ?あたしは武器の変形式だけ考えればいいけど、君、手持ち全部の道具の使用法を頭に入れて、毎回その場に合わせた道具を戦いながら判断してるんでしょ?」
思いがけず、ウィズに褒め返されてしまった。
「・・・・それは、その。必要だからであって・・・・・」
―――――――足りない俺は、少しでもそういうので補完しないといけなくて。
そんな言葉を、恥ずかしくて飲み込む。
才能があって、失敗も経験したうえで努力して、ギルドからも頼られ、実家も立て直した彼女。
それに比べ、調子に乗って失敗して逃げた挙句、さらに死にかけて失敗を重ね、借金の返済に追われながら、元居たギルドのために馬車馬のように働かされる自分。比べるのも申し訳ない程の差がある。
・・・・ぜんぜん、すごくなどない。なのに。
「すごいことじゃん!覚えるだけならできるかもしれないけど、都度都度活かし方考えて戦えるなんて、ものすごい才能だと思うよ!!あたし尊敬する!!」
そんな風に、言ってもらえるのが嬉しくて。
「・・・あれ?ソルくん照れてる??」
「てっ・・・!」
顔が赤くなるくらい、許してほしい。
「・・・・・・・照れます。やめてくださいよ」
「へへ、ごめんね。なんか、あたしも褒められちゃったからお返し、と思って!」
「・・・・お返しが膨大すぎます。手加減してください」
「えへへへへー!!ごめんごめん!」
なんだかお互い妙な笑顔になってしまった。ダンジョン内なんだけどなぁ、ここ。
気が抜ける空気になってしまった。いかんいかん。
と、ソルが気を持ち直していると。
「さて・・・そんじゃ早速、尊敬するソルくんっ」
「へ!?」
ウィズが突然、川になっている崖下へ飛び下りる。ちょうど、そこには魚に手足の生えたような生物、サハギンが数匹いた。そこへ、
「おりゃ!!」
落ちざまに一匹、脳天からサハギンを突き殺す。そして、周囲にいた残りも危なげなく次々倒しながら、
「周辺の対処と素材回収、この後の方針考えるの、よろしく!!頼っちゃうね~~~!!!」
ほんとうに楽しそうに、こちらへ手を振った。
「・・・・素材はともかく、対処の方は、必要なさそうっすけどね」
苦笑しながら、ソルもあとへ続く。
――――――気分が良くなる、というのは、案外効果が高いらしい。
さっきまで面倒だった回収作業まで、ちょっと楽しくなってきたのだから。




