食べる『秘策』と秘密兵器(バディ)
【大衆食堂【飯処 ユタカ】店内】
――――――――頭に、もやがかかっている。
熱にうかされているような、ぼうっとしたまま、周囲の状況が少し、見える。
心配そうなエマさんと、いつものようなとろけた笑顔のマギが、こちらを見ている。
・・・・ああ、ダンジョンから帰ってきたのか、俺は。
なにやらひどく疲れて、ベッドから動けなかったはずなのだが、見覚えのないところにいる。
しかも、口元がなにかで濡れている。
自分の涎、と思えなくもなかったのだが、確認すると、なにか、濡れている部分が青い?
ちょっと見覚えのある色だった気がしたので、ぼうっとした頭で少し考えてみたのだが・・・・
答えが向こうからやってきた。マギだ。
エマになにか喋りかけながら、こちらへ青い液体を掬った匙を差し出し、口元へ運んでくる。
なんだかわからないまま、俺はそれを口で受け止め、一緒に乗っていた野菜と共にもぐもぐと噛んでなんの疑いもなく飲み込む。
それを2、3度繰り返し・・・・・・その何かを飲み込む度、妙な清涼感で頭のもやが薄くなり、意識がはっきりとしてくる。
そういえば。
こんな疲労困憊・意識混濁するほどの状態になったのは、もとはといえば誰のせいだったか・・・・・・・????
「・・・・・・・・・・てめぇさっきから何を謎の液体を勝手に口に注いでんだ元凶コノヤロー―――――――!!!!!!!!!!」
「ぐぼーーーーーーーーーーーーーーーーっ?!?!」
「きゃああああ?!マギ!!ソルさん落ち着いて!!!」
覚醒と共に放たれるソルの右ストレート!のほほん顔でソルに『あーん』していたマギが左頬に食らった衝撃で椅子から転げ落ちる。
そのまま追撃しようとするソルをエマが羽交い絞めにして落ち着けるのに、そこからしばらく時間がかかった・・・・・・・。
「・・・・・・・で、つまり、これ何なんです。ここ何なんですか」
ようやく落ち着いたソルが、いまの状況を聞いてくれるまでになってくれた。ありがたい。
「・・・・・・これ、回復鍋。ここ鍋屋」
頬に拳跡がくっきり残ったマギが、1問1答で返す。事実を言っているのだが、ソルには意味がわからない。
「説明になってねえっすよ!さっきまで意識グラグラだったのに妙に頭がスッキリしちまったのも怖ぇし、回復鍋って何なんすか!!あと鍋屋??正気ですか!」
だん!と拳をテーブルに叩きつけてさらなる説明を求める。
やはり、なんの断りもなく食べさせたのは問題だったか、と、ちょっとソルにビクつきながら考えているマギへ、エマが助け船を出す。
「ソ、ソルさん落ち着いてください。あの・・・・・これ、ポーション鍋、なんです」
「・・・・・・・・・・・は?????」
ソルの目が点になる。
鍋。あの、濃い塩で味付けして、臭みを我慢しながら食べる、簡素で雑な、冒険の時以外あまり食べたくない、鍋。
しかも、薬と思えばなんとか飲める味である、ポーションで作っている。
雑な味と、まずい味。そんなもの、合わさったところで・・・・・・
「や、だって味が・・・・え?朦朧としてましたけど、普通においしく食ってた気がするんですけど・・・・」
思いがけない説明を聞き、困惑するソル。少なくとも、さっき食べさせられていたのは不味いものではなかった。
「おっしゃりたいことはわかります。最初は・・・・とても食べられたものじゃなかったんですが・・・」
目を伏せ、沈痛な面持ちで語るエマ。・・・・・おそらく最初のころの味を思い出しているのだろう。とても辛そうである。不味かったんだなぁ・・・・。
「・・・・・がんばって、なんとかして食べられるよう、薬効も殺さないよう、うまく体に吸収されるように挑戦と失敗を重ねて、多大な犠牲を払いながらつい先日、完成したのよ。
これが、今回の依頼に関する秘策・・・・・!!」
遠い目をしながら、説明を補足し、拳に決意をみなぎらせるマギ。・・・・・こちらも、あまり深く語りたくない表情だ。
二人とも、ずいぶんと苦労した、というのがよくわかる反応だった。
実際、どうやら美味いようだし、動かなかった身体も頭も、すっきりよく動く気がする。薬効の吸収もいいってのは、どうやら事実らしい。
よく見たら、お店もずいぶん繁盛しているようだ。そこそこの広さの店だが、テーブルはすべて埋まり、それぞれの席で湯気のたった鍋を囲んでいる笑顔の客たちが、楽しそうに談笑しながら食事を楽しんでいる。
―――――――あの雑・・・・だと今まで思っていた料理で、立派に店を繁盛させている。
相変わらず、とんでもねえ代物作る御仁だわ。ほんと道具屋としては優秀だな、この人形。
と!そこへさらに、あらたな声。
「あははは懐かしいです!あたし当時、自信満々でフツーの鍋出してた!!ちょう恥ずかしい!!」
聞いたことのない、甲高く明るい反応にぎょっとして目を向けると、そいつは
「おっす!後輩君!!!あたしが今回の依頼完遂のための秘密兵器だ!明日からよろしく!!!!」
金髪の髪を躍らせながら、元気に跳びはねてソルへ挨拶してきたのだった。